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勇者祭編
その84 挨拶代わりのバトル
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『やあオスカー君!』
悲壮感を漂わせてルーナの前から姿を消した後。
最後まで俺の残像をかき抱く彼女の姿が忘れられない。
そういう意味では満足感に包まれていた俺に、厄介な男子生徒が接近しようとしていた。
「無視しないでくれよ、オスカー君。ボクだってきみに話があるんだ。ルーナ君と同様に」
ルーナは中庭で、二人きりみたいね、と言った。
彼女は気づけなかったのだ。
――俺達のエロティックなやり取りを、ひとり優雅に眺めていた少年がいることに。
「ストーキングは趣味なのか?」
「んー、難しい質問だ。確かにボクは尾行が得意だよ。でも、きみだけかなぁ、ここまで執着してしまう存在は」
「それは感動的だな」
「それって皮肉かな?」
白竜はいかにもかっこよく、背の高い大木の上に座っている。
彼の行動は毎回俺の琴線に触れるが、意図した演出だろうか、それとも自然とできてしまうのだろうか。
足をぶらぶら揺らし、よっと跳躍して大地に着地する。
だが、今回の白竜はそれで止まらない。
着地の勢いのままに、軽やかに俺に近づいてくる。繰り出されるのは速攻の蹴り。
俺はその攻撃を右手の甲で弾き、さっと戦闘モードに入った。
「そう来なくっちゃ」
ニヤッと笑みを浮かべたかと思うと、腰をぐっと落とし、拳に力を入れる白竜。
――拳が飛んでくる。
さっとかわすも、連打。次々と目の前に迫る拳の嵐に、俺の体も自然と反応していく。
実力者同士、顔を合わせたら戦闘。
悪くない。
白竜から悪意や敵意は一切感じない。勝ちたいという醜い欲も見えない。そして俺からも、敵意の類は一切放っていない。
普通の――というのは頭が正常に機能する人のことだが――生徒であれば、この戦いに何の意味があるのか問うだろう。
無意味な戦いだろ、と。
しかし、それはこの世界で最も愚かな質問のひとつだ。
――「かっこよさそう」だから戦っている。ただ、それだけ。
今度は俺が体を捻り、踵から斜めに蹴りを入れる。だが、いとも簡単によけられた。それでこそ白竜アレクサンダーだ。
昼休み後半。
昼食も取らずに外で戦っている少年二人がいた。
暗い色の髪を激しく揺らしながら、目で捉えられない速さで攻防戦を繰り広げる。
ひとりはみんなが知る生徒会副会長。もうひとりは最近話題の西園寺オスカー。
学園新聞の号外が出てもおかしくはない。
「ちょっと疲れてきたから、これくらいにしておこうか、オスカー君」
「いいだろう」
お互いの合意の下、動きを止める。
変な探り合いは必要ない。
もう白竜が攻撃してこないことはわかっている。警戒するだけ無駄な労力だ。
二人とも、息は上がっていなかった。
「エイダン君の弟君と接触したみたいだね。ボクもその訓練に参加してもいいかな?」
「断る」
「水臭いなぁ、ボクときみの仲じゃないか」
二日に一回は白竜に見られている。
当然、テオとの訓練も彼にバレていた。俺はそれに気づいていながら、軽く視線を送るだけで済ませていたのだ。
「仲良くなった覚えはない。俺の記憶が正しければ、君は俺と敵対することを選んだはずだが」
「そんなこともあったねぇ。若かりし頃のボクも、なかなか大胆な奴だ。まあ結局、勇者祭では優勝を競い合うことになるわけだし――」
「俺がいつ、優勝を目指すと言った?」
白竜の言葉を遮り、勝ち誇った笑みを浮かべる俺。
そう。
俺は一度も、優勝を目指すとは言っていない。
――エイダンには勝つ。
それは決定事項だ。完膚なきまでの差を見せつけ、圧倒的な勝利を収める。
だが、それが済んでしまえば、もう勇者祭で俺が勝つ意味はない。
勝つ、というのが形式的な勝敗だとしよう。予選落ちしたら負けだし、トーナメントで次に進めなかったら負けだ。
俺は絶対に負けない。だが、それは俺の中での話。
勇者祭の盛り上がりを考え、「かっこよさそう」なムーブをかますことさえできれば、形式的には負けても、俺の勝ちになる。それは価値のある試合になる。
「まったく、きみはいつも期待を超えてくるねぇ。ナーイス」
白竜が表情を崩し、静かに地面に腰を下ろした。
その行動の意味はわからない。
無防備なことを強調したいのかもしれないし、この状況で座ることがかっこいいと思っているのかもしれない。
「お前の勝手な期待に応えるつもりはない。俺は常に世界からの期待に応えている。己を昇華し、世界に自分の存在を知らしめている」
「そうかもしれないね。でも、世界はきっと、きみだけに構っていられるほど暇じゃないと思うよ。ボクにもたまに顔を見せてくれるからね」
頭上には青空が広がっていた。
見渡す限り、雲ひとつない真っ青な。
だが、どうだろう。
白竜の言葉が直接世界を刺激したかのように、天空の様子が少しずつ変容していく。灰色の雨雲がゼルトル勇者学園の上空に集まり、不穏な音を響かせる。
「ひとつ警告しておこう。ボクは――」
――強いよ。
白竜はまるで自分が世界の支配者でもあるかのような自信と共に、そう言った。
雨雲にエネルギーが集中し、一撃の雷霆が天より舞い落ちる。
轟音を轟かせ、威圧的な存在感を見せつけ、巨大な雷の柱が白竜を包み込んだ。
(――ッ。この威力は……)
――魔王セト以上。
彼が呼び出したであろう雷霆を生で見て、思ったこと。
――白竜アレクサンダーは、魔王セトよりも強い。
雨雲が一瞬にして消失し、空もまた明るさを取り戻す。昼間の熱い日差しに逆戻りだ。
そして、白竜は。
雷霆と共にこの場を去った。
俺は表情そのまま、風で揺れる前髪を世界に見せつけていた。
悲壮感を漂わせてルーナの前から姿を消した後。
最後まで俺の残像をかき抱く彼女の姿が忘れられない。
そういう意味では満足感に包まれていた俺に、厄介な男子生徒が接近しようとしていた。
「無視しないでくれよ、オスカー君。ボクだってきみに話があるんだ。ルーナ君と同様に」
ルーナは中庭で、二人きりみたいね、と言った。
彼女は気づけなかったのだ。
――俺達のエロティックなやり取りを、ひとり優雅に眺めていた少年がいることに。
「ストーキングは趣味なのか?」
「んー、難しい質問だ。確かにボクは尾行が得意だよ。でも、きみだけかなぁ、ここまで執着してしまう存在は」
「それは感動的だな」
「それって皮肉かな?」
白竜はいかにもかっこよく、背の高い大木の上に座っている。
彼の行動は毎回俺の琴線に触れるが、意図した演出だろうか、それとも自然とできてしまうのだろうか。
足をぶらぶら揺らし、よっと跳躍して大地に着地する。
だが、今回の白竜はそれで止まらない。
着地の勢いのままに、軽やかに俺に近づいてくる。繰り出されるのは速攻の蹴り。
俺はその攻撃を右手の甲で弾き、さっと戦闘モードに入った。
「そう来なくっちゃ」
ニヤッと笑みを浮かべたかと思うと、腰をぐっと落とし、拳に力を入れる白竜。
――拳が飛んでくる。
さっとかわすも、連打。次々と目の前に迫る拳の嵐に、俺の体も自然と反応していく。
実力者同士、顔を合わせたら戦闘。
悪くない。
白竜から悪意や敵意は一切感じない。勝ちたいという醜い欲も見えない。そして俺からも、敵意の類は一切放っていない。
普通の――というのは頭が正常に機能する人のことだが――生徒であれば、この戦いに何の意味があるのか問うだろう。
無意味な戦いだろ、と。
しかし、それはこの世界で最も愚かな質問のひとつだ。
――「かっこよさそう」だから戦っている。ただ、それだけ。
今度は俺が体を捻り、踵から斜めに蹴りを入れる。だが、いとも簡単によけられた。それでこそ白竜アレクサンダーだ。
昼休み後半。
昼食も取らずに外で戦っている少年二人がいた。
暗い色の髪を激しく揺らしながら、目で捉えられない速さで攻防戦を繰り広げる。
ひとりはみんなが知る生徒会副会長。もうひとりは最近話題の西園寺オスカー。
学園新聞の号外が出てもおかしくはない。
「ちょっと疲れてきたから、これくらいにしておこうか、オスカー君」
「いいだろう」
お互いの合意の下、動きを止める。
変な探り合いは必要ない。
もう白竜が攻撃してこないことはわかっている。警戒するだけ無駄な労力だ。
二人とも、息は上がっていなかった。
「エイダン君の弟君と接触したみたいだね。ボクもその訓練に参加してもいいかな?」
「断る」
「水臭いなぁ、ボクときみの仲じゃないか」
二日に一回は白竜に見られている。
当然、テオとの訓練も彼にバレていた。俺はそれに気づいていながら、軽く視線を送るだけで済ませていたのだ。
「仲良くなった覚えはない。俺の記憶が正しければ、君は俺と敵対することを選んだはずだが」
「そんなこともあったねぇ。若かりし頃のボクも、なかなか大胆な奴だ。まあ結局、勇者祭では優勝を競い合うことになるわけだし――」
「俺がいつ、優勝を目指すと言った?」
白竜の言葉を遮り、勝ち誇った笑みを浮かべる俺。
そう。
俺は一度も、優勝を目指すとは言っていない。
――エイダンには勝つ。
それは決定事項だ。完膚なきまでの差を見せつけ、圧倒的な勝利を収める。
だが、それが済んでしまえば、もう勇者祭で俺が勝つ意味はない。
勝つ、というのが形式的な勝敗だとしよう。予選落ちしたら負けだし、トーナメントで次に進めなかったら負けだ。
俺は絶対に負けない。だが、それは俺の中での話。
勇者祭の盛り上がりを考え、「かっこよさそう」なムーブをかますことさえできれば、形式的には負けても、俺の勝ちになる。それは価値のある試合になる。
「まったく、きみはいつも期待を超えてくるねぇ。ナーイス」
白竜が表情を崩し、静かに地面に腰を下ろした。
その行動の意味はわからない。
無防備なことを強調したいのかもしれないし、この状況で座ることがかっこいいと思っているのかもしれない。
「お前の勝手な期待に応えるつもりはない。俺は常に世界からの期待に応えている。己を昇華し、世界に自分の存在を知らしめている」
「そうかもしれないね。でも、世界はきっと、きみだけに構っていられるほど暇じゃないと思うよ。ボクにもたまに顔を見せてくれるからね」
頭上には青空が広がっていた。
見渡す限り、雲ひとつない真っ青な。
だが、どうだろう。
白竜の言葉が直接世界を刺激したかのように、天空の様子が少しずつ変容していく。灰色の雨雲がゼルトル勇者学園の上空に集まり、不穏な音を響かせる。
「ひとつ警告しておこう。ボクは――」
――強いよ。
白竜はまるで自分が世界の支配者でもあるかのような自信と共に、そう言った。
雨雲にエネルギーが集中し、一撃の雷霆が天より舞い落ちる。
轟音を轟かせ、威圧的な存在感を見せつけ、巨大な雷の柱が白竜を包み込んだ。
(――ッ。この威力は……)
――魔王セト以上。
彼が呼び出したであろう雷霆を生で見て、思ったこと。
――白竜アレクサンダーは、魔王セトよりも強い。
雨雲が一瞬にして消失し、空もまた明るさを取り戻す。昼間の熱い日差しに逆戻りだ。
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