【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命

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勇者祭編

その86 静かな怒り

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 エイダンの拳が親友グレイソンの美しい顔面に迫っていた。

 近くにいる者は恐怖で動けない。
 担任スワンも慌てて止めようとするが、絶対に間に合わない。

 グレイソン自身は攻撃を受け止める気満々だ。

 だが、エイダンを見くびってはいけない。奴は片手ひとつで建物を木っ端微塵にできる怪力の持ち主なのだから。

 ――拳が、当たる。

 数秒後に広がる惨い光景を前に、机に伏せて時間の経過を待つ生徒もいた。

 だが――。

 ――この教室には、俺がいる・・・・

「「「「――――――」」」」

 無風。

 エイダンの拳にかけられた勢いが、完全に死んでいる。

 怯える生徒達が恐る恐る顔を上げた。
 グレイソンの端正な顔が吹き飛んでいるのではないか。その心配など必要ない。

「――俺の友人に手を出そうものなら、俺はお前を殺す・・――」

 俺は二人の間に立っていた。

 エイダンの右拳を握り締め、氷結した瞳で彼を睨みながら。

 緊張が解けたのか、グレイソンが自分の椅子に、尻もちをつくような形で腰掛ける。

「……ぁんだと……?」

 エイダンは何が起こったのかわからず、呆然としていた。

 俺に拳を握られていることにも気づいていない。
 ただ、目の前には俺がいた。そして、標的グレイソンはまったくの無傷だ。その事実だけがこの光景を通して彼に伝えられる。

「お前は本当に愚かだな」

「……」

「一週間の謹慎期間で何を考えた? 何のための謹慎期間なのか、自分がどうして罰則をもらったのか、その程度も考えることができなかったのか?」

「……」

「お前のような者が実力者を気取るな。それとも、生徒会の幹部だから何をしても許されると思っているのか?」

「……おめぇ、どうやって――ッ」

 エイダンの拳を強く握り締める。
 ありったけの力を込めた。上手く加減できない。この時、俺は確かに怒っていた。つい我を忘れ、エイダンの拳を潰していた・・・・・

 真っ赤な血が地面に滴り落ちる。

 ハッと我に返って手を開くと、エイダンの拳は大量の血を纏って死んでいた・・・・・。骨が砕け、肉が千切れ、もはや原形をとどめていない。

『きゃぁぁぁああああ!』

 グレイソンの後ろの席の女子生徒、夏目なつめヘイゼルが悲鳴を上げた。いつもは比較的静かな生徒であるだけに、その驚愕と動揺は全体に伝わっていく。

 対して、俺は静かだった。

 激情に駆られ、加減を間違えてしまったのは大きな失態だ。だが、治療すれば元通りになるという確信はある。
 そう判断し、持ち前の冷静さを取り戻した。

「俺が兄弟の事情に首を突っ込むのは間違っているのかもしれない――」

 悲惨な右手を見て、明らかに余裕を失ったエイダンの前で。

 俺は言葉を紡ぐ。

「――余計なことを言うようだが、ひとつ、お前に伝えなければならないことがある」

 ――お前は最低の兄だ。

 そう続けた。

 テオが顔を上げ、意識を取り戻したかのように勢い良く近づいてくる。兄と同じ紅色の瞳に浮かんでいるのは、俺を心配するような穏やかな灯火。
 正直、俺より右手を潰された兄を心配した方が良さそうだが、この場面でそんなことは言えない。

西園さいおん――オスカーくん……ごめん……おれのせいで――」

「謝る必要はない。誰よりもテオのことを思っていたのはグレイソンだ。彼に礼を言ってくれ」

「僕はそんな大したことはしてないよ。最後はまたオスカーに助けてもらったし……えーっと、その、またっていうのは……」

 グレイソンは気づいた。

 今、この状況。
 西園寺さいおんじオスカーが実力を見せてしまっているということに。

 どうにか誤魔化そうとするも、言葉が上手くまとまらず、慌てふためいている。

「グレイソン、もう大丈夫だ」

「オスカー、でも――」

「俺のことは気にするな。今日の英雄はグレイソンだ。俺はあの場面で黙っていることしかできなかった」

 俺とグレイソンはお互いに微笑み合う。

 ほんの一瞬だけ、二人だけの空間になった。

 勿論、すぐに修羅場に戻ったが。

『西園寺、天王寺てんのうじ兄弟、一ノ瀬いちのせの四人は、今すぐ職員室に来なさい』

 途端に後ろから通った声が投げられる。

 ――白鳥しらとりスワンだった。
 ホームルームでの様子からは考えられないほど、言葉に覇気があり、教師らしい・・・。表情も引き締まり、本来の美貌が遺憾なく発揮されていた。

 ハーフアップにした純白の長髪に、二十四歳の若々しく透き通った白い肌。

 思わず見惚れてしまうほどの凛々しさと共に、担任スワンは俺と天王寺兄弟、グレイソンを呼び出した。
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