【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命

文字の大きさ
60 / 69
オスカーの帰郷編

その60 馬車に揺られて

しおりを挟む
 八月十三日。
 いよいよ解放日がやってきた。

 多くの生徒が実家に帰省したり、友人と王都ゼルトル・シティに遊びに行ったりする。

 グレイソンは実家に帰省。一ノ瀬いちのせ家はとんでもない金持ち貴族なので、きっと素晴らしい家なんだろう。

 クルリンとミクリンの双子姉妹も、同じく帰省だ。
 姉のミクリンいわく、クルリンが真っ先に母に抱き締められるだろう、とのことだ。小動物のような可愛さを持つクルリンは、母親から溺愛されていて、姉のミクリンは厳しめに育てられたのだとか。

 その育て方の違いが、この双子の性格の大きな違いを生んだのかもしれない。グレイソンのこともそうだが、同じ兄弟や姉妹で扱われ方に違いや格差が出るのは仕方ない。だが、なんだか虚しいようにも思える。

「オスカーの実家って、ここからどれくらいかかるの?」

「さほど遠くはない。もうすぐ着く」

 この解放日、どう過ごすのかは俺の意志次第だった。

 一切学園の敷地内から出ず、人の少ない静かな〈闘技場ネオ〉で訓練を続けるのも悪くない。
 だが、久しぶりに親の顔が見たくなった。家族のことを話すグレイソン達と関わっていると、両親への罪悪感が湧き上がってきたからだ。

 というわけで、今はセレナと馬車タクシーに乗って、俺の実家に向かっている。

 どうしてセレナなのか。
 それは、彼女にも複雑な事情があるらしく、実家に帰りずらいから。
 せっかくなので彼女についてきてもらった。そういう感じだ。

 馬車に揺られ、二時間。

 〈破滅の森〉は大陸の最西端にあるため、実家への帰省の途中で通ることはない。だが、不意にあそこでの過酷な日々が思い出された。
 実家に近づいていくたびに、幼い自分に戻っていっているような、変な気分だった。

「両親は俺のことを覚えていないのかもしれない」

 ボソッと呟く。
 まだ五年前のことなので流石にそれはないと思うが、演出・・は大事だ。自然と纏う悲壮感も、俺の不思議なオーラを醸し出す上で不可欠な要素。その工程を怠るわけにはいかない。

「それはないでしょ。今もオスカーの帰りを待ってるかもしれないし」

「そうだといいな……」

 そう答える俺の声は、限りなく低く、弱々しかった。



 馬車には俺とセレナの二人しかいない。
 向かい合って席に座り、たまに外の景色を眺めたりしている。

 ありがたいことに、馬車の料金はゼルトル勇者学園が負担してくれていた。普段自由に外出ができない分、こういう時には丁寧に待遇してくれる。

 セレナとは少し会話を交わしたかと思うと、また水を打ったように静かになった。
 その繰り返しだ。話題がないわけでもない。ただ、二人ともこの沈黙が嫌いではなかった。

 そしてまた自然な流れで会話が始まる。

「そういえばさ、オスカーの誕生日、明後日あさってだったよね」

「ああ、そんな日もあったな」

「ずっと祝ってもらってないでしょ?」

「神殺しで忙しかったからな。誕生日どころではなかった」

 ――神殺し。
 セレナの前ではもう普通にこの話題を出すことができる。彼女は重罪を犯した俺のことを受け入れてくれた。まだ、グレイソンや双子姉妹には話していないことだ。

 彼らも俺のことを受け入れてくれるだろうか。

 また学園に戻ったら、この事実を打ち明けるべきなんだろうか。

「今年は、私が祝ってあげるから」

 セレナが微笑む。

「そうか。それは楽しみだ」

 俺もその微笑みに応えた。
 馬車は少しずつ、俺の故郷ホームに近づいていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...