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フロストハウル編
第113話 彼女以外からキスされるという一瞬の動揺
ゼロナの動き出しは早かった。
さっと前に走り出し、凶悪犯の背後を取る。
それまでにかかった時間はほんの一瞬だ。
どうやら凶悪犯の冒険者としての実力はそれほどでもないらしい。動きの速度や威力から考えても、高く見積もってCランクといったところか。
次の通行人に殴りかかろうとしたところで、鋭いゼロナの手刀を食らってしまう。
あまりに速すぎたせいで一切気付いた様子はなかった。
結局、凶悪犯はソロでの犯行だったようで、俺の出る幕はなかった。
「なんだか呆気ないな」
「今回の事件はそれほど大きなものではないからね。しかしたまに……ぼく1人ではどうしようもない時がある」
凶悪犯は気絶して地面にうつ伏せに倒れていた。
被害者は3名。
通行人の男性2人と女性1人。男と繋がりがあったかどうかはわからないが、おそらく無差別的なものだと思われる。
死者は出なかった。
サイレンを鳴らすことなく、黒い救急車が駆け付ける。ゼロナが男を倒してから僅か3分後の出来事だった。
「あの救急車、色が違くないか?」
「あれは政府が出しているこっち絡みのための救急車だ。夜の闇に溶け込み、被害者を静かに回収する」
「まったく知らなかった」
「それもそのはずだよ。きみはダンジョン冒険者であって、光超人ではないからね」
「ヒーロー?」
「そう。【選別の泉】に入って力を得たのにも関わらず、ダンジョン冒険者を選ばない人は大勢いる。ぼくもそのうちの1人だね」
冒険者になるには【選別の泉】に入らなくてはならない。
泉に入ってその苦痛に耐えることで、人は人を超えた力を得ることができる。
だが、泉に入ったからといって必ずしも冒険者にならなければならないわけじゃない。とはいえ、泉に入るのは冒険者希望者がほとんどだ。
「力を得た人間は簡単にものを破壊し、人を殺すことができる。高く跳び、タフになれる。そのせいで、夜の街では犯罪が絶えない」
「今までそんなニュースは見たことない」
「政府は凄いんだ。情報規制のおかげで、夜の闇を知る一般人もダンジョン冒険者も少ない。例の救急車に乗せられた被害者は、しっかりと治療された上に、その事件の記憶を完全に抹消される」
「まさか……そんなことを政府がやってるって言うのか?」
「驚くことでもないはずだよ」
ゼロナが小さく笑う。
それは政府を非難しているようにも見えたし、評価しているようにも見えた。
ゼロナと出会ってから、新しい情報が津波のように押し寄せてくる。きっとこの後も津波は続くだろう。
「冒険者を選ばなかった泉の合格者は超人と呼ばれているんだ。その力を使って犯罪に手を染めるのが闇超人、そんな不届き者に正義の鉄槌を下すのが光超人」
「今回俺がゼロナとタッグを組むことになったのは、ヒーローになれってことなのか……?」
「きっと才斗にいろいろな世界を見せたいんだろうね。ミスター・西園寺は本気できみのことを大切に想っているようだ」
少し恥ずかしいが、彼女の言う通りだ。
Sランクになっても、知らない世界なんていくらでもあるのだ。
もしダンジョン冒険者だけをやっていたら、気付くことはない世界だった。
身近なところに、悪は潜んでいた。
「今日の仕事はここまでにしようか。ミズ・白桃も心配しているだろうからね」
さらに驚くことが起きた。
ゼロナが自然な流れで俺の頬にキスしたのだ。
洗練されたフレッシュな香りが、鼻を突き抜ける。
「え……」
「明日は夜の9時に、ぼくの美容室に来るといい」
ゼロナにとっては、頬へのキスは挨拶みたいなものだったんだろうか。
***
黒瀬と氷室が撤収したタイミング。
男2人がSランク冒険者たちの動きをじっと見つめていた。青ひげが特徴的な男と、ノッポでガリガリの男だ。
ビルの裏に隠れ、様子をうかがっている。
「やっと見つけたぞ、氷室澪奈」
「おかしいですね。男と行動を共にしているようです。あの男も……かなりの実力者なんでしょうか?」
「ちっ、あいつは黒瀬才斗だ。最近の日本でやたらと話題になってる雑魚さ」
「ど、どうしましょう……?」
「ブラックの野郎……フロストハウルとイチャイチャしやがって……」
「ですが、フロストハウルは同性愛者のはず……あれはただの仕事の関係というヤツではないでしょうか?」
「……それもそうか――って、オレは別にフロストハウルの恋愛には興味ねぇんだよ! オレはただ、あいつを痛い目に遭わせてぇだけなんだ」
「はい、私もあの屈辱、忘れてはおりません」
「よっしゃ、行くぜ相棒! 明日も張り込みだ! 絶対にフロストハウルに恥かかせてやらぁ!」
さっと前に走り出し、凶悪犯の背後を取る。
それまでにかかった時間はほんの一瞬だ。
どうやら凶悪犯の冒険者としての実力はそれほどでもないらしい。動きの速度や威力から考えても、高く見積もってCランクといったところか。
次の通行人に殴りかかろうとしたところで、鋭いゼロナの手刀を食らってしまう。
あまりに速すぎたせいで一切気付いた様子はなかった。
結局、凶悪犯はソロでの犯行だったようで、俺の出る幕はなかった。
「なんだか呆気ないな」
「今回の事件はそれほど大きなものではないからね。しかしたまに……ぼく1人ではどうしようもない時がある」
凶悪犯は気絶して地面にうつ伏せに倒れていた。
被害者は3名。
通行人の男性2人と女性1人。男と繋がりがあったかどうかはわからないが、おそらく無差別的なものだと思われる。
死者は出なかった。
サイレンを鳴らすことなく、黒い救急車が駆け付ける。ゼロナが男を倒してから僅か3分後の出来事だった。
「あの救急車、色が違くないか?」
「あれは政府が出しているこっち絡みのための救急車だ。夜の闇に溶け込み、被害者を静かに回収する」
「まったく知らなかった」
「それもそのはずだよ。きみはダンジョン冒険者であって、光超人ではないからね」
「ヒーロー?」
「そう。【選別の泉】に入って力を得たのにも関わらず、ダンジョン冒険者を選ばない人は大勢いる。ぼくもそのうちの1人だね」
冒険者になるには【選別の泉】に入らなくてはならない。
泉に入ってその苦痛に耐えることで、人は人を超えた力を得ることができる。
だが、泉に入ったからといって必ずしも冒険者にならなければならないわけじゃない。とはいえ、泉に入るのは冒険者希望者がほとんどだ。
「力を得た人間は簡単にものを破壊し、人を殺すことができる。高く跳び、タフになれる。そのせいで、夜の街では犯罪が絶えない」
「今までそんなニュースは見たことない」
「政府は凄いんだ。情報規制のおかげで、夜の闇を知る一般人もダンジョン冒険者も少ない。例の救急車に乗せられた被害者は、しっかりと治療された上に、その事件の記憶を完全に抹消される」
「まさか……そんなことを政府がやってるって言うのか?」
「驚くことでもないはずだよ」
ゼロナが小さく笑う。
それは政府を非難しているようにも見えたし、評価しているようにも見えた。
ゼロナと出会ってから、新しい情報が津波のように押し寄せてくる。きっとこの後も津波は続くだろう。
「冒険者を選ばなかった泉の合格者は超人と呼ばれているんだ。その力を使って犯罪に手を染めるのが闇超人、そんな不届き者に正義の鉄槌を下すのが光超人」
「今回俺がゼロナとタッグを組むことになったのは、ヒーローになれってことなのか……?」
「きっと才斗にいろいろな世界を見せたいんだろうね。ミスター・西園寺は本気できみのことを大切に想っているようだ」
少し恥ずかしいが、彼女の言う通りだ。
Sランクになっても、知らない世界なんていくらでもあるのだ。
もしダンジョン冒険者だけをやっていたら、気付くことはない世界だった。
身近なところに、悪は潜んでいた。
「今日の仕事はここまでにしようか。ミズ・白桃も心配しているだろうからね」
さらに驚くことが起きた。
ゼロナが自然な流れで俺の頬にキスしたのだ。
洗練されたフレッシュな香りが、鼻を突き抜ける。
「え……」
「明日は夜の9時に、ぼくの美容室に来るといい」
ゼロナにとっては、頬へのキスは挨拶みたいなものだったんだろうか。
***
黒瀬と氷室が撤収したタイミング。
男2人がSランク冒険者たちの動きをじっと見つめていた。青ひげが特徴的な男と、ノッポでガリガリの男だ。
ビルの裏に隠れ、様子をうかがっている。
「やっと見つけたぞ、氷室澪奈」
「おかしいですね。男と行動を共にしているようです。あの男も……かなりの実力者なんでしょうか?」
「ちっ、あいつは黒瀬才斗だ。最近の日本でやたらと話題になってる雑魚さ」
「ど、どうしましょう……?」
「ブラックの野郎……フロストハウルとイチャイチャしやがって……」
「ですが、フロストハウルは同性愛者のはず……あれはただの仕事の関係というヤツではないでしょうか?」
「……それもそうか――って、オレは別にフロストハウルの恋愛には興味ねぇんだよ! オレはただ、あいつを痛い目に遭わせてぇだけなんだ」
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