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フロストハウル編
第123話 部下に重要な会議を丸投げするという最低の社長
10月26日土曜日。
山口剣騎はダンジョン・ドームの会議室で憂鬱そうに溜め息をついていた。
「なんで僕が……」
社長に押し付けられた仕事とは、ダンジョン・ドームで行われている会議への出席だ。
会議が開催されるのは3ヶ月に一度。
基本は冒険者企業の中のトップの冒険者が顔を出し、ダンジョン活動の近況について意見を交わす。
長方形のテーブルに、日本二大冒険者企業である【ウルフパック】と【バトルホークス】の代表者の席が向かい合うようにあり、他の代表者らの席はその間に配置されていた。
【バトルホークス】の代表者の席に腰掛けるのは当然ながら神宮司皇命。
迷宮の王という冒険者名を冠する、日本最強冒険者だ。
その反対側に山口は座っている。
他の冒険者及びダンジョン・ドームを取り仕切る政府の役員からは、なんで西園寺じゃないんだ、という困惑の視線を向けられていた。
――そりゃあそうだよね……。
こうなることはわかっていた。
土日の2日間に渡って行われる長時間の会議。ただ代表同士で雑談をするような和気あいあいとした空間ではない。
特に今回は闇派閥の問題など、話し合うべき議題がある。
それに加え、同盟の交渉や共同遠征の提案など――この会議で決まることや始まることはとても多い。
山口は憂鬱な表情を変えないまま、この席に座る前にした神宮司との会話を思い出していた。
『山口殿ではないか。貴君の社長はどうした?』
『今日は会議よりも重要な用事があるらしいよ』
『それは実に興味深い。内容を聞いても構わないか?』
古風な口調で話す神宮司だが、声は高めで容姿も可愛らしいので、山口はつい微笑ましい気分になる。
ただし、実力は西園寺よりもぶっ飛んでいることを知っているため、神宮司との会話の時には絶対に気を抜かないようにしていた。
『才斗の文化祭だよ』
『へ、文化祭?』
神宮司の声が裏返る。
闇派閥関係かダンジョン攻略関係のことだと思っていた神宮司にとって、文化祭という言葉は衝撃的だった。
『ぶ、文化祭というのは、学校行事の文化祭という認識で良いのか?』
コクリと山口が頷く。
『余としては龍河殿がいてくれた方が助かったのだが……まさか文化祭に行くために会議を放り投げるとは』
『副社長の一ノ瀬君は絶対に引き受けないだろうし、もし会議に出席したところで、特に何も興味を示さないだろうから……』
一ノ瀬は力を追い求めている。
それ以外のことには興味がない。
ダンジョンのことや闇派閥のこと、超人のこと。
日本が危機的だろうが何だろうが、彼は強い相手と戦い、自分がさらに強くなれるのであればそれでいいのだ。
西園寺が山口に頼ったのも、山口の外交スキルや状況把握能力などを考えてのことだった。それに加え、だいたいいつも頼る相手が山口だということもあったが……。
『毎度思うが、貴君の立場とやらはかなり大変なようだ。同情する』
『……』
中二病ショタエルフに哀れむような目を向けられてしまう山口だった。
***
2年3組の出し物であるメイド喫茶、最初の一般客はあの男だった。
廊下の奥から、1人の男がゆっくり近付いてくる。
その歩き姿は堂々としていて、圧倒的なオーラを放っていた。
生徒も思わず二度見してしまうほどの貫禄。
その後に女子生徒からの黄色い歓声が鳴り響く。それは彼が若者から絶大な人気を誇っていることをよく表していた。
「社長」
「才君」
低くて深みのある声を出しているということは、この場では完全にあの姿を封印しているということだ。
真一の恐れる、最強社長の完成。
これには俺のクラスメイトもビビって近付けないでいる。
メイド喫茶の場所は2年3組の教室だ。
装飾係の気合いの入った飾り付けのおかげで、ちゃんとした店みたいに見える。
ダンジョンをイメージして作られたちょっとダークな雰囲気は、正直結構気に入っていた。
俺と楓香は冒険者スーツ姿で入り口に立っている。
髪の色と目の色も本来の色だ。
楓香はピンク色の髪に真紅の瞳。俺もまた、彼女とほぼ同じ真紅の瞳だ。
「……」
入り口で受付を担当する文化祭実行委員の岡は、西園寺の圧倒的な存在感に言葉を失っていた。
椎名は彼のことを超人ではないかと疑っているらしい。
まだ確信は持てないものの、政府もまた、彼のことを警戒しているとか。
だが、岡の動揺している様子を見てある程度確信が持てた。
自分が超人としての力を持っているからこそ、西園寺から放たれるオーラを直接感じ取ることができる。
「才君は何をするんだ? 接客か?」
「入り口付近での接客はしてますが……基本はマスコットキャラだと思ってもらえればいいと思います」
「白桃楓香も同じ扱いなのか?」
ここで初めて、西園寺の視線が俺の隣の楓香に向けられる。
楓香は威厳たっぷりの西園寺に少しだけビビっていた。
小動物が怯えているみたいで可愛いな。さすがの楓香も、西園寺の前で下ネタを言うほどの度胸はないだろう。
「……はい」
「そう緊張することはない。私は今日、プライベートでここに来た。社長と部下ではなく、店員と客の感覚で構わない」
それもそれで普通に緊張するとは思うが。
「そうなんですね。少し気が楽になりました~」
やっぱり楓香はアホだ。
切り替えが早いのは、二重人格なことが影響していたりするのか?
「わたしもちょっとえっちなメイドとして参加しても良かったんですけど、やっぱり才斗くん以外の人に――」
慌てて楓香の口を塞ぐ。
頼むからこれ以上何も言わないでくれ。
西園寺の表情が引きつっている。
「良かったらメイド喫茶を体験していってください。結構気合い入ってるので」
俺が本題にシフトチェンジする。
西園寺は小さく頷き、受付係の岡に視線を送った。
「……なるほど」
それだけ言い、俺に視線を戻す。
「せっかくだ。メイド喫茶も悪くないかもしれない。剣騎に仕事を丸投げしてまで来たわけだからな」
山口剣騎はダンジョン・ドームの会議室で憂鬱そうに溜め息をついていた。
「なんで僕が……」
社長に押し付けられた仕事とは、ダンジョン・ドームで行われている会議への出席だ。
会議が開催されるのは3ヶ月に一度。
基本は冒険者企業の中のトップの冒険者が顔を出し、ダンジョン活動の近況について意見を交わす。
長方形のテーブルに、日本二大冒険者企業である【ウルフパック】と【バトルホークス】の代表者の席が向かい合うようにあり、他の代表者らの席はその間に配置されていた。
【バトルホークス】の代表者の席に腰掛けるのは当然ながら神宮司皇命。
迷宮の王という冒険者名を冠する、日本最強冒険者だ。
その反対側に山口は座っている。
他の冒険者及びダンジョン・ドームを取り仕切る政府の役員からは、なんで西園寺じゃないんだ、という困惑の視線を向けられていた。
――そりゃあそうだよね……。
こうなることはわかっていた。
土日の2日間に渡って行われる長時間の会議。ただ代表同士で雑談をするような和気あいあいとした空間ではない。
特に今回は闇派閥の問題など、話し合うべき議題がある。
それに加え、同盟の交渉や共同遠征の提案など――この会議で決まることや始まることはとても多い。
山口は憂鬱な表情を変えないまま、この席に座る前にした神宮司との会話を思い出していた。
『山口殿ではないか。貴君の社長はどうした?』
『今日は会議よりも重要な用事があるらしいよ』
『それは実に興味深い。内容を聞いても構わないか?』
古風な口調で話す神宮司だが、声は高めで容姿も可愛らしいので、山口はつい微笑ましい気分になる。
ただし、実力は西園寺よりもぶっ飛んでいることを知っているため、神宮司との会話の時には絶対に気を抜かないようにしていた。
『才斗の文化祭だよ』
『へ、文化祭?』
神宮司の声が裏返る。
闇派閥関係かダンジョン攻略関係のことだと思っていた神宮司にとって、文化祭という言葉は衝撃的だった。
『ぶ、文化祭というのは、学校行事の文化祭という認識で良いのか?』
コクリと山口が頷く。
『余としては龍河殿がいてくれた方が助かったのだが……まさか文化祭に行くために会議を放り投げるとは』
『副社長の一ノ瀬君は絶対に引き受けないだろうし、もし会議に出席したところで、特に何も興味を示さないだろうから……』
一ノ瀬は力を追い求めている。
それ以外のことには興味がない。
ダンジョンのことや闇派閥のこと、超人のこと。
日本が危機的だろうが何だろうが、彼は強い相手と戦い、自分がさらに強くなれるのであればそれでいいのだ。
西園寺が山口に頼ったのも、山口の外交スキルや状況把握能力などを考えてのことだった。それに加え、だいたいいつも頼る相手が山口だということもあったが……。
『毎度思うが、貴君の立場とやらはかなり大変なようだ。同情する』
『……』
中二病ショタエルフに哀れむような目を向けられてしまう山口だった。
***
2年3組の出し物であるメイド喫茶、最初の一般客はあの男だった。
廊下の奥から、1人の男がゆっくり近付いてくる。
その歩き姿は堂々としていて、圧倒的なオーラを放っていた。
生徒も思わず二度見してしまうほどの貫禄。
その後に女子生徒からの黄色い歓声が鳴り響く。それは彼が若者から絶大な人気を誇っていることをよく表していた。
「社長」
「才君」
低くて深みのある声を出しているということは、この場では完全にあの姿を封印しているということだ。
真一の恐れる、最強社長の完成。
これには俺のクラスメイトもビビって近付けないでいる。
メイド喫茶の場所は2年3組の教室だ。
装飾係の気合いの入った飾り付けのおかげで、ちゃんとした店みたいに見える。
ダンジョンをイメージして作られたちょっとダークな雰囲気は、正直結構気に入っていた。
俺と楓香は冒険者スーツ姿で入り口に立っている。
髪の色と目の色も本来の色だ。
楓香はピンク色の髪に真紅の瞳。俺もまた、彼女とほぼ同じ真紅の瞳だ。
「……」
入り口で受付を担当する文化祭実行委員の岡は、西園寺の圧倒的な存在感に言葉を失っていた。
椎名は彼のことを超人ではないかと疑っているらしい。
まだ確信は持てないものの、政府もまた、彼のことを警戒しているとか。
だが、岡の動揺している様子を見てある程度確信が持てた。
自分が超人としての力を持っているからこそ、西園寺から放たれるオーラを直接感じ取ることができる。
「才君は何をするんだ? 接客か?」
「入り口付近での接客はしてますが……基本はマスコットキャラだと思ってもらえればいいと思います」
「白桃楓香も同じ扱いなのか?」
ここで初めて、西園寺の視線が俺の隣の楓香に向けられる。
楓香は威厳たっぷりの西園寺に少しだけビビっていた。
小動物が怯えているみたいで可愛いな。さすがの楓香も、西園寺の前で下ネタを言うほどの度胸はないだろう。
「……はい」
「そう緊張することはない。私は今日、プライベートでここに来た。社長と部下ではなく、店員と客の感覚で構わない」
それもそれで普通に緊張するとは思うが。
「そうなんですね。少し気が楽になりました~」
やっぱり楓香はアホだ。
切り替えが早いのは、二重人格なことが影響していたりするのか?
「わたしもちょっとえっちなメイドとして参加しても良かったんですけど、やっぱり才斗くん以外の人に――」
慌てて楓香の口を塞ぐ。
頼むからこれ以上何も言わないでくれ。
西園寺の表情が引きつっている。
「良かったらメイド喫茶を体験していってください。結構気合い入ってるので」
俺が本題にシフトチェンジする。
西園寺は小さく頷き、受付係の岡に視線を送った。
「……なるほど」
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