ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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フロストハウル編

第130話 絶対に後で恥をかく盛大なムーブをかますダサかっこいい真一君

 清明せいめい高校文化祭は、思いもよらぬ大事件に巻き込まれようとしていた。

 正門付近の受付ブース。
 そして体育館。

 校内2ヶ所でSランク規模の戦いが行われているのだ。

 これが文化祭のパフォーマンスであると勘違いするような一般人はどこにもいなかった。特に体育館では多くの負傷者が出た上に、壁が吹っ飛ばされてなくなっている。
 この惨事を出し物・・・で済ませることはさすがにできない。

 受付ブースの近くにいた一般人はほぼ全員が校舎内、もしくは学校の外に避難した。

 しかし、ただ1人だけ、スマホを構え動画を撮ろうとしている愚か者が残っている。
 その愚か者はすぐに淘汰されることとなった。

「危ない――!」

 目視できない一瞬の出来事。
 ネットでバズるために戦場から近い位置でスマホを構えていたのは、清明高校の男子生徒だった。気付けばスマホを握っていた右手が切断され、理解が追いつかないまま、血をダラダラと流していた。

 今、彼が命を失っていないのは、目の前に立ち塞がっている銀髪の・・・美女がいるからだ。

 その美女の足元に、スマホを握ったままの右手が転がっている。

「……あああああぁぁぁぁぁあああああ!」

 何が起こったのか理解し、絶望した。

 自分の不注意や慢心が招いた結果だったのかもしれない。しかし、普通の男子高校生である彼にとって、この状況は何よりも縁遠いものだった。
 剣で自分の手を切断されることなど、ダンジョン冒険者でもない普通の男子高校生には起こり得ない。

「すまない……ぼくがもう少し速ければ……」

 銀髪の美女が言う。

 だが、その声は男子生徒には届かなかった。虚ろな表情に、定まらない視点。彼にどんな言葉をかけたとしても、受け入れられることはないだろう。

 氷室と対峙している江頭えがしらは、理性こそ失ってはいたものの、頭の中では自分のしていることや現在の状況が把握できていた。

 そして、この状況こそ彼が望んだもの。
 計画は変更になったが、氷室澪奈フロストハウルに仕返しをするという意味では、今の状況は最高だ。

 まず、多くの人の視線が、銀髪碧眼の麗人である氷室に集まっている。

 隠れSランク冒険者として、裏社会で暗躍してきたフロストハウル。
 比較的安全な教室の中から動画や写真を撮っている人も多いため、彼女の姿や戦いの様子は瞬く間に日本全国に広がることだろう。

 名前が知られていないこと。
 Sランク冒険者&超人としての姿を知られていないこと。

 氷室にとって、それは大きなアドバンテージだった。さらには【ウルフパック】の社長である西園寺さいおんじにとっても、氷室澪奈ゼロナは切り札的存在だった。

 名が知れ渡ることは悪いことばかりではないが、それでも暗躍を得意としていた彼女にとって、これは致命的な事態と言っても過言ではない。

 そして彼女は、男子生徒の右手を救えなかった。

 これは明らかに彼女の責任ではない。
 不注意だった男子生徒、及び右手を斬り落とした江頭の罪だ。

 しかし、フロストハウルは高貴で気高く、美しい存在。どんな任務も華麗にこなし、ノブレス・オブリージュの精神に従い、強者の風格を身にまとってきた。
 そんな彼女が失敗・・したのだ――江頭にとって、ここまで心躍ることはない。

「きみのこと、完全に思い出したよ。ぼくに会うために、わざわざ日本まで来てくれたのかな? 特に接点はなかったはずだが……」

 江頭を睨みながら、語りかける。

 狂ったような真っ赤な瞳と視線を絡ませ、溜め息をついた。

「……厄介だね。超能スキルも使えない」

 氷室は超能スキルの行使を試みていた。だが今の状態の・・・・・江頭には通用しなかったようだ。

 ちらっと後ろの男子生徒に視線を送る。そして叫んだ。

「誰か彼を保健室に運んでほしい! すぐに止血をするんだ! それと、治癒師ヒーラーをこの学校に――ッ」

 指示を出している最中に、攻撃を受ける。

 江頭は剣を使っていた。
 動きに規則性がないので、次の攻撃を予測することは難しい。少なくとも、既存の剣術のフォームを大幅に無視した不規則な剣術だ。

 対して、氷室のフォームはロペス派。
 攻撃と守備のバランスが取れた穴のない型だが、どうしても決定打に欠けてしまうというのが弱点だった。

 ――彼がSランク並みの力になったことはわかっているが……それにしても魔力が大きすぎる……。

 そう、江頭はドーピングをした。

 ランクが1つ上のステータスを得られることに加え、爆発的に体内の魔力も増大する。
 Sランクの中のパワー系冒険者が出せる最高質力ほどの攻撃を、江頭は何度も繰り出すことができるのだ。

「さすがに……ぼくだけでは厳しい……かな」

 それはSランク+の力を発揮する江頭を相手に、限界を感じ始めていた時だった。

「なんか派手にやっとりますなぁ」

「……きみは?」

「ちょいちょい、さすがにそれはないやろ。おれの方こそ聞きたいんやけど」

 1年3組の出し物であるお化け屋敷から出てきたばかりの、青木あおき真一しんいちが加勢に駆けつけた。

 体育館からの爆音もお化け屋敷の演出だと思って素直に驚いていた青木だが、校内でも混乱が広がってきたことでこの緊急事態に気付いたのだった。

 青木が氷室を見るのは初めて。
 無論、彼女が同じ【ウルフパック】所属のSランク冒険者であることなど、知るわけがない。

「美人なお姉さん、危険やから離れな。ここから先はSランク冒険者の仕事や」
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