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フロストハウル編
第134話 下心出した瞬間に心臓をぶっ刺されるというアレ
氷室澪奈と江頭の戦い。
この戦いに途中参戦したのは【ウルフパック】のSランク冒険者の青木真一だ。
「美人なお姉さん、危険やから離れな。ここから先はSランク冒険者の仕事や」
自分好みの麗人を前に、かっこつけたセリフを放つ青木。
実際、氷室の戦況は不利だった。
敵である江頭は、能力強化の特殊な赤い液体によってSランク並みの力を得ている。しかし、実際にはそれ以上だ。
一時的な効果ではあるものの、肉体への負荷などお構いなしにグンとステータスが向上するため、純粋なパワーやスピードでは氷室の方が劣ってしまう。
さらに、赤い液体の効果には個人差があった。
異常なパワーとスピードで西園寺をも圧倒した安田と異なり、江頭は剣の扱いがグンと向上していた。
――なんやこいつ……こんな型知らんで……!
剣を交えながら、暴走する男の剣術に驚愕する青木。
戦い始めて僅か10秒。
江頭の振り上げた剣が、青木の水色の短髪をかすめた。思っていた以上に強敵であることを確信した青木は、これ以上やられないようにさっと後退して距離を取る。
――さっきの美人さん、こいつと普通に戦ってへんかった?
無論、青木は隠れSランク冒険者である氷室のことを知らされていない。
そのため、氷室と江頭の戦いを一瞬見て、Sランクの自分ならここでかっこいい活躍ができる、と思い込んでしまっていた。
「ちょっとタンマ、そこの美人さん、まさかSランク冒険者やないよな?」
なんとなく予想していた通り、銀髪の美女が頭を縦に振る。
「そういうきみは……【ウルフパック】所属のSランク冒険者ということかな?」
上品でクールな声に、青木の胸が高鳴る。
戦いの最中であったが、彼は氷室との会話に胸をときめかせていた。
銀髪美女からの問いに頷きで答え、そのまま余計な情報も付け加える。
「おれは青木真一。今ちょうど彼女募集中や」
「こんな戦いの最中に……余裕があるんだね」
見たら誰もが惚れてしまうような、魅惑的な微笑みを返す氷室。
この瞬間、青木の心は完全に氷室のものになった。黒瀬天音への執着が消え、新しい好きな人ができたと言うべきか。
「おれがこの戦いで勝ったら、何かご褒美――」
青木が下心を見せた瞬間。
事態は急変する。
江頭が青木の心臓を突き刺したのだ。2階以上の教室のベランダから観戦していた一般人は息を呑み、氷室の表情が凍りついた。
ダラダラとこぼれる赤い血。
それは間違いなく、深く刺された青木の心臓から出てくるものだった。
地面に膝をつく青木。理性を失っている江頭は容赦ない。確実に殺すために、青木の首を撥ねた。
「ミスター・青木……?」
呆気なさすぎるSランク冒険者の死に、目撃者全員が絶句する。
それは氷室も同じだった。
25年の人生の中で、Sランクほどの実力者がこうも簡単に殺されてしまう光景を見たのは初めてだった。
足元に転がってくる青木の頭。
青木を殺害した男、江頭小太郎と視線が絡まる。
江頭の茶色だったはずの目は血のような赤に変わり、黒かった髪は急激に年老いたかのように白髪になっていた。これは全てあの赤い液体の効果だ。
「……ちっ」
小さく舌打ちする江頭。
その様子を見て、氷室が顔をしかめた。
「きみはぼくと同じ【ニューオーダー】で教育を受けた、違うかい?」
「……うるせぇ」
「狙いはどうやらぼくのようだね。きみは今日、一般人を恐怖に陥れ、冒険者を殺し、多くの破壊行為を行った。それは――」
「オレの目的は果たされた! お前は今こうして世間に晒され、目の間で人が殺されるのを黙って見ていることしかできなかった、違うか!? オレは別にどうなってもいい。お前のせいで、オレのエリート冒険者人生は終わった! だからせめて、お前の人生を無茶苦茶にさせろ!」
「それは理不尽だね。きみの実力不足は、きみの努力で補えばいい。ぼくには関係ないはずだよ」
「天才だからって調子乗るんじゃねぇぞ!」
江頭がイライラを抑えきれないかのように頭をかきむしり、狂った瞳を氷室に向ける。
しかし氷室は。
もう勝利を確信していた。
「理性が戻ったみたいだね。その力の賞味期限も切れた頃合いかな?」
「残念だったなぁ。オレは効き目が遅い方だったらしい。もうしばらくこの力が使えるぞ! せっかくだ。校舎の中でも暴れてやろうか」
「ふざけたことを」
同時に足を踏み出す。
再び戦いの火蓋が切られ、剣と剣が衝突する金属音が鳴った。
江頭の言っていた通り、理性が戻って普通に話せるようになっても、強化された力は健在だ。そう長くは続かないと思われるが、このまま放置していてはさらなる被害者が出てしまう。
無敵になったつもりで攻撃してくる江頭。
今の状態では氷室よりも強いのだから、恐れることはない。
だが――。
「――ッ。なんで――?」
不規則で動きが読めない。
それが今の状態の江頭の剣術の強さだった。相手に予測をさせず、考える隙を与えないまま斬り込んでいく。そんなスタイルだ。
しかし、氷室はそんな江頭の攻撃を正確に剣で受け止めていた。体を傾けてさらっとよけている場面もある。
「どうやって――?」
「超能だよ。本物のSランク冒険者になれば超能が授けられる」
氷室澪奈の超能。
それは相手の思考の読み取り。
目が合っている限り、相手の考えていることをいくらでも読むことができる。
それを応用すれば攻撃を予測して回避するなど簡単なこと。
この超能の真価は対戦相手が人間の時に発揮される。
「クソがぁぁぁぁぁあああああ!」
これが皮肉にも、フロストハウルが美人Sランク冒険者として脚光を浴びることになる、最初の戦いだった。
この戦いに途中参戦したのは【ウルフパック】のSランク冒険者の青木真一だ。
「美人なお姉さん、危険やから離れな。ここから先はSランク冒険者の仕事や」
自分好みの麗人を前に、かっこつけたセリフを放つ青木。
実際、氷室の戦況は不利だった。
敵である江頭は、能力強化の特殊な赤い液体によってSランク並みの力を得ている。しかし、実際にはそれ以上だ。
一時的な効果ではあるものの、肉体への負荷などお構いなしにグンとステータスが向上するため、純粋なパワーやスピードでは氷室の方が劣ってしまう。
さらに、赤い液体の効果には個人差があった。
異常なパワーとスピードで西園寺をも圧倒した安田と異なり、江頭は剣の扱いがグンと向上していた。
――なんやこいつ……こんな型知らんで……!
剣を交えながら、暴走する男の剣術に驚愕する青木。
戦い始めて僅か10秒。
江頭の振り上げた剣が、青木の水色の短髪をかすめた。思っていた以上に強敵であることを確信した青木は、これ以上やられないようにさっと後退して距離を取る。
――さっきの美人さん、こいつと普通に戦ってへんかった?
無論、青木は隠れSランク冒険者である氷室のことを知らされていない。
そのため、氷室と江頭の戦いを一瞬見て、Sランクの自分ならここでかっこいい活躍ができる、と思い込んでしまっていた。
「ちょっとタンマ、そこの美人さん、まさかSランク冒険者やないよな?」
なんとなく予想していた通り、銀髪の美女が頭を縦に振る。
「そういうきみは……【ウルフパック】所属のSランク冒険者ということかな?」
上品でクールな声に、青木の胸が高鳴る。
戦いの最中であったが、彼は氷室との会話に胸をときめかせていた。
銀髪美女からの問いに頷きで答え、そのまま余計な情報も付け加える。
「おれは青木真一。今ちょうど彼女募集中や」
「こんな戦いの最中に……余裕があるんだね」
見たら誰もが惚れてしまうような、魅惑的な微笑みを返す氷室。
この瞬間、青木の心は完全に氷室のものになった。黒瀬天音への執着が消え、新しい好きな人ができたと言うべきか。
「おれがこの戦いで勝ったら、何かご褒美――」
青木が下心を見せた瞬間。
事態は急変する。
江頭が青木の心臓を突き刺したのだ。2階以上の教室のベランダから観戦していた一般人は息を呑み、氷室の表情が凍りついた。
ダラダラとこぼれる赤い血。
それは間違いなく、深く刺された青木の心臓から出てくるものだった。
地面に膝をつく青木。理性を失っている江頭は容赦ない。確実に殺すために、青木の首を撥ねた。
「ミスター・青木……?」
呆気なさすぎるSランク冒険者の死に、目撃者全員が絶句する。
それは氷室も同じだった。
25年の人生の中で、Sランクほどの実力者がこうも簡単に殺されてしまう光景を見たのは初めてだった。
足元に転がってくる青木の頭。
青木を殺害した男、江頭小太郎と視線が絡まる。
江頭の茶色だったはずの目は血のような赤に変わり、黒かった髪は急激に年老いたかのように白髪になっていた。これは全てあの赤い液体の効果だ。
「……ちっ」
小さく舌打ちする江頭。
その様子を見て、氷室が顔をしかめた。
「きみはぼくと同じ【ニューオーダー】で教育を受けた、違うかい?」
「……うるせぇ」
「狙いはどうやらぼくのようだね。きみは今日、一般人を恐怖に陥れ、冒険者を殺し、多くの破壊行為を行った。それは――」
「オレの目的は果たされた! お前は今こうして世間に晒され、目の間で人が殺されるのを黙って見ていることしかできなかった、違うか!? オレは別にどうなってもいい。お前のせいで、オレのエリート冒険者人生は終わった! だからせめて、お前の人生を無茶苦茶にさせろ!」
「それは理不尽だね。きみの実力不足は、きみの努力で補えばいい。ぼくには関係ないはずだよ」
「天才だからって調子乗るんじゃねぇぞ!」
江頭がイライラを抑えきれないかのように頭をかきむしり、狂った瞳を氷室に向ける。
しかし氷室は。
もう勝利を確信していた。
「理性が戻ったみたいだね。その力の賞味期限も切れた頃合いかな?」
「残念だったなぁ。オレは効き目が遅い方だったらしい。もうしばらくこの力が使えるぞ! せっかくだ。校舎の中でも暴れてやろうか」
「ふざけたことを」
同時に足を踏み出す。
再び戦いの火蓋が切られ、剣と剣が衝突する金属音が鳴った。
江頭の言っていた通り、理性が戻って普通に話せるようになっても、強化された力は健在だ。そう長くは続かないと思われるが、このまま放置していてはさらなる被害者が出てしまう。
無敵になったつもりで攻撃してくる江頭。
今の状態では氷室よりも強いのだから、恐れることはない。
だが――。
「――ッ。なんで――?」
不規則で動きが読めない。
それが今の状態の江頭の剣術の強さだった。相手に予測をさせず、考える隙を与えないまま斬り込んでいく。そんなスタイルだ。
しかし、氷室はそんな江頭の攻撃を正確に剣で受け止めていた。体を傾けてさらっとよけている場面もある。
「どうやって――?」
「超能だよ。本物のSランク冒険者になれば超能が授けられる」
氷室澪奈の超能。
それは相手の思考の読み取り。
目が合っている限り、相手の考えていることをいくらでも読むことができる。
それを応用すれば攻撃を予測して回避するなど簡単なこと。
この超能の真価は対戦相手が人間の時に発揮される。
「クソがぁぁぁぁぁあああああ!」
これが皮肉にも、フロストハウルが美人Sランク冒険者として脚光を浴びることになる、最初の戦いだった。
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