ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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フロストハウル編

第135話 大勢の人の前で甘やかされるというなかなかの屈辱

 謎の襲撃者の身柄は後に警察に引き渡すとして、体育館での死闘を終えた俺と雷電らいでんはもう1つの騒ぎが起きている現場へと向かっていた。

 西園寺さいおんじはノッポの男を拘束中だ。
 もう完全に気絶していて暴れ出すような気配はなかったが、警戒を怠っていると思わぬ悲劇を呼ぶことがある。

「なんとか避難できてるみたいだな」

 体育館から避難した人たちは姉さんたちの誘導のおかげで校舎に逃げ込むことができたらしい。
 真悠まゆ姉さんが治療をしてくれているはずなので、ひとまずは安心してもいいのかもしれないな。

 校舎に入ると、佐藤さとう天音あまね姉さんに遭遇した。
 ついでに椎名しいなもいた。

才斗さいと、大丈夫?」

 姉さんが優しく聞いてくる。

「体育館を襲ってきた奴は倒した。そいつの処理は社長がしてくれるらしい」

「良かった」

 頭をなでなでしてくる姉さん。
 佐藤や椎名の前なので少し恥ずかしいが、なんだか心が温まる。

「ちょっと黒瀬くろせ、椎名が冒険者ってどういうこと? 知ってたんでしょ!」

 佐藤がツンとした様子で詰め寄ってくるが、こればかりはしかたない。佐藤と椎名が今こうして協力しているということは、お互いに超人であるということを認識したということだろう。
 椎名もまた、佐藤と同様に説明を求める顔をしていた。

「説明は後でする。まずはこの状況をどうにかすることの方が大事だ」

「ねえ、黒瀬」

 ここで雷電が俺のスーツの袖を引っ張ってきた。

「あれ、もしかして青木あおきっち……?」

 雷電のゆびさす方向には、なんと真一しんいちの切断された首が転がっている……。

「ああ、殺されたみたいだな」

 可哀想かわいそうに。

 俺の視線は次に、例の襲撃者と同じ目・・・をした男と戦っているゼロナに移る。彼女もこの文化祭に来ると言っていたので、いつかは現れるだろうと思っていたわけだが、こうして戦いに巻き込まれていたとは……。

 正体を隠し、裏社会で活躍するゼロナにとって、こういった表での戦いは望まなかったもの。
 今、多くの目が彼女を見ている。
 もうこれ以上隠れSランク冒険者を名乗ることはできないだろう。

「――って、なんで青木っちをスルーするの!? な、仲間が死んでるんだけど!」

 ショックを受けるわけでも、悲しみのあまり涙を流すわけでもなく、ただ哀れむような目で真一の首を見つめる俺を見て、雷電が憤慨した。

 彼女がここまで感情的になっているのは見たのは初めてだ。

 肩を乱暴につかみ、揺さぶってくる。

 真一と直接的な関わりがない椎名と佐藤もまた、あまりに残酷な冒険者の死に衝撃を受けている様子だ。そして、その目は冷酷すぎる俺への非難の目へと変わっている。

「あの人は死んでない。だから才斗も私も心配してない」

 冷静に姉さんが説明した。

「前に死んだ時、超能スキルの力で復活した」

「え、青木っちって前に死んでるの……?」

 雷電が固まる。
 闇派閥との抗争があった時、雷電はまったくと言っていいほど蚊帳の外だったからな。

 同じ幹部なのに、肝心な情報を知らないというのはなんだか可哀想だ。

「前回は私が青木真一を殺した。でも生きてたから間違いない」

「「「……は?」」」

 雷電、佐藤、椎名の3人は、姉さんの信じられないような淡々とした説明に、困惑していた。



 ***



 加勢に駆けつけようと動き出す前に、ゼロナは敵との決着をつけた。

 敵の男の攻撃を読み切っているかのように反撃し、見事な剣術で勝利を収めたのだ。

「それで……あの人、誰?」

 雷電が当然の質問をする。
 しかたないことかもしれないが、この人知らないこと多すぎるな。

 あまり言わない方がいいことなのかもしれないが、もうゼロナの正体は全国民にバレてしまったと言っても過言ではない。
 この際、雷電たちには話しても構わないだろう。

「あの人は【ウルフパック】の隠れ・・Sランク冒険者、氷室ひむろ澪奈ゼロナだ。社長がこの3年間、存在を隠しながら任務を与えてきた」

「意味がわかんないしぃ」

「詳しいことは社長か本人に聞いてくれ。まずはあの犯罪者2人を警察に引き渡さないとな」

 そう言って、俺は注目を集めている銀髪の美女のところに近付いた。

「才斗……もう1人はきみが片付けてくれたんだね?」

「なんとかな。今は社長が拘束してる」

「ところで……彼はきみの仲間だと思うが……すまない、ぼくのせいで――」

「真一は大丈夫だ。死んでない」

「才斗? さすがにこれで死んでいないというのは……楽観的過ぎる気がするが……」

 そりゃあ、普通は信じないだろうな。

 とはいえ、真一は復活にも条件があるとかなんとか言っていた。今回もまた、なんだかんだ言って復活するだろうと思われるが……急に不安になってきたぞ。

「そういえば――手を切断された少年は?」

 誰かをさがすように、周囲をきょろきょろし始めるゼロナ。

「彼の治癒ヒールは私がしておいたから大丈夫よ。心配しないで」

 ここで真悠姉さんが校舎から出てきた。
 ずっと怪我人の治癒ヒールをしていて大変だっただろう。今回はそれだけ負傷者も多い。

 真悠姉さんは堂々とした表情で、俺の腕をギュッと抱き寄せた。

「才斗ちゃん、疲れたから癒してくだちゃいね~」

「……」

 これ、多くの生徒が見てるんだよな。
 クラスメイトに見られるだけでも嫌なのに、これが動画に撮られてネットに流されると思うと……。

 とはいえ、これで一件落着だ。

 こうして戦いのアフタートークができるのも、山場を越えた何よりの証拠。

 だが、何か・・、もしくは誰か・・を忘れているような気がして、気が休まらない。

「黒瀬君……」

 後ろから、椎名の声がかけられる。

「さっき教室に戻ってみたら、白桃しらももさんがいなかったんだけど……」

楓香ふうか!」

 彼氏として最低だ。
 大切な彼女のことを忘れかけていた。

「それが……教室で待ってるように言ってたんだけど、いなくなってて……体育館にもここにもいないし……」

 嫌な予感がする。

「それに、おか君もいなくて……」

 それを聞いた瞬間、俺は走り出していた。
 彼氏として、彼女の浮気を心配しているわけじゃない。

 ――楓香が危ない!

 それは、Sランク冒険者としての直感と楓香の彼氏としての直感が、ちょうど重なる瞬間だった。
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