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フロストハウル編
第139話 不気味なラスボスと戦わずに話すだけというアレ
空間転移装置が俺を送ったのは、ダンジョンの中ではなかった。
小さな劇場。
その客席だ。
扉が自動で開き、視界がクリアになる。
「これは……」
まず視界に飛び込んできたのは楓香と岡の戦いだ。椎名が警戒していた通り、岡は超人だった。
それも、こうして見る限り楓香よりも実力が上の超人だ。Bランクといったところか。
そして、暗い客席。
同じ列の中央の席に腰掛けているのは、フードを深く被った不気味な男だ。
後ろを振り返ると、つい数秒前まであったはずの空間転移装置が消えていた。このトリックのタネはわからない。
「お前が黒幕か」
フードの男に向かって声をかける。
まずは楓香を助けにいくことの方が優先だと思うが、この男は危険だと冒険者としての直感が言っている。
素直にステージに上がらせてもらう、なんてことはできないだろう。
「ようこそ、黒瀬才斗」
フードの男がかすれた声で言った。
ハスキーな声だ。聞き覚えがある。
「ヴェルウェザー……」
闇組織【ダークエイジ】の親玉で、姉さんを洗脳し、俺の両親を殺した最も憎き男。
一瞬にして、俺の中の怒りが最高潮に達し、剣を呼び出す。
相手の警戒なんてもうどうでもいい。
今、ヴェルウェザーは無防備だ。
危険なオーラを放っているのは事実だが、それは冒険者としての強いオーラとは違う。もしかしたら、俺の方が冒険者としての実力は上なのかもしれない。
そう悟った瞬間、理性が崩壊した。
復讐のために、襲いかかる。
だが――。
「無駄だ……ボクはここに存在していない」
憎しみを込めた渾身の一撃は、ヴェルウェザーの体を通り抜けた。
ホログラムのように実体のない存在であると気付く。
「――ッ」
「もしキミとボクが戦えば、間違いなくキミが勝つだろう……ボクはBランクからなかなか成長できない」
「……」
「だから戦わない。自分の代わりに戦ってくれる冒険者を育て、自分の科学テクノロジーを提供しているだけだ」
怒りが収まるはずはない。
だが、これ以上ここで剣を振っても無駄だとわかったので、呼吸も落ち着いてきた。
「ちなみに、キミはステージには上がれない……ステージの前には特殊なバリアフィールドが展開されている……」
「……そうか」
「ボクの隣の席に座るといい」
ヴェルウェザーが俺を見た。
ヤツの瞳は白く、この暗い客席の中で鋭く光っている。
気さくな感じで隣の席をポンポンと叩いてきたが、無論、ヤツの隣に座るつもりなんてない。5席ほど間を取り、慎重に腰掛けた。
ちょうどステージ上では楓香と岡が戦っている。
2人とも俺の登場には気付いていないようだ。戦いに集中していることと、客席が暗すぎることが原因だろう。
俺としては、楓香の集中を散らしたくはなかった。
冒険者にとって、少しの集中の乱れが命取りになることは普通だ。
「岡もお前の手先だったとはな」
「……厳密には違う」
「は? どういうことだ?」
この世界で最も嫌いな男と話しているんだ。言葉遣いが悪くなるのもしかたない。
「岡虎之介は【アサシン】の所属だ。数年前、ボクは【アサシン】を買収した。だからボクの言うことを聞いてくれるだけに過ぎない」
「【アサシン】までお前が買収してるのか……」
【アサシン】というのはその名の通り、暗殺者の組織だ。
ゼロナとの夜の任務で【アサシン】所属と思われる暗殺者と遭遇し、対処している。
その際、その暗殺者の頭が吹き飛んだ。その死に方から【ダークエイジ】との関与を疑っていたが、今回その関与がはっきりしたわけだ。
「それで、今回のお前の目的は何だ? 楓香を殺すことか?」
「……」
ヴェルウェザーは答えない。
「楓香を殺すことが目的だとしたら、わざわざこうして戦わせる必要もないと思うが」
これまでの戦いから言えることとして、ヴェルウェザーは確実な暗殺を好まない。
どっちに転ぶのかわからない、曖昧な方法を選ぶのだ。
【ダークエイジ】側の人間が犠牲になることも多かった。だが、ヤツはそれを大した損失だとは捉えていないようだった。
「ボクはキミと、この戦いの行く末を見守りたいだけだ……岡虎之介はBランク。順当にいけば彼が勝利するだろう」
「それはどうだろうな」
「その通り……キミの彼女は冒戦で二度もBランク相手に勝利したと聞いている。もし今回も同じようなことが起これば……喜ばしいことだ」
「岡が勝とうが、楓香が勝とうが、どっちでもいいってことか?」
「岡虎之介が勝てば必ず白桃楓香は殺される。それを見たキミは怒り、岡を殺す」
「……」
「白桃楓香が勝てば岡はおそらく殺されないだろう。だが、もし彼が負ければ頭が吹き飛ぶ」
「お前……人間の心がないのか……」
「白桃楓香がまた格上に勝利する結果を残せば、彼女は確実にBランク冒険者に昇格だ。ボクとしては、その方が都合がいい」
「何が言いたい?」
「彼女には可能性がある。キミによく似て、進化のスピードが速く、センスがある。ボクとしては、そういった冒険者には生き延びてもらいたい……」
「お前の目的は何だ?」
とりあえずこいつが陰湿クソサイコパスということだけはわかった。
ヴェルウェザーがフードを取る。
髪は灰色で、ぼさぼさだった。伸びきった前髪の隙間から、相変わらず不気味な白い瞳がこっちを見ている。
「社長から聞かされていないのか……ボクの目的はダンジョンの核を手に入れること……」
「……」
「……その大いなる目的のために、キミたちが必要だ」
小さな劇場。
その客席だ。
扉が自動で開き、視界がクリアになる。
「これは……」
まず視界に飛び込んできたのは楓香と岡の戦いだ。椎名が警戒していた通り、岡は超人だった。
それも、こうして見る限り楓香よりも実力が上の超人だ。Bランクといったところか。
そして、暗い客席。
同じ列の中央の席に腰掛けているのは、フードを深く被った不気味な男だ。
後ろを振り返ると、つい数秒前まであったはずの空間転移装置が消えていた。このトリックのタネはわからない。
「お前が黒幕か」
フードの男に向かって声をかける。
まずは楓香を助けにいくことの方が優先だと思うが、この男は危険だと冒険者としての直感が言っている。
素直にステージに上がらせてもらう、なんてことはできないだろう。
「ようこそ、黒瀬才斗」
フードの男がかすれた声で言った。
ハスキーな声だ。聞き覚えがある。
「ヴェルウェザー……」
闇組織【ダークエイジ】の親玉で、姉さんを洗脳し、俺の両親を殺した最も憎き男。
一瞬にして、俺の中の怒りが最高潮に達し、剣を呼び出す。
相手の警戒なんてもうどうでもいい。
今、ヴェルウェザーは無防備だ。
危険なオーラを放っているのは事実だが、それは冒険者としての強いオーラとは違う。もしかしたら、俺の方が冒険者としての実力は上なのかもしれない。
そう悟った瞬間、理性が崩壊した。
復讐のために、襲いかかる。
だが――。
「無駄だ……ボクはここに存在していない」
憎しみを込めた渾身の一撃は、ヴェルウェザーの体を通り抜けた。
ホログラムのように実体のない存在であると気付く。
「――ッ」
「もしキミとボクが戦えば、間違いなくキミが勝つだろう……ボクはBランクからなかなか成長できない」
「……」
「だから戦わない。自分の代わりに戦ってくれる冒険者を育て、自分の科学テクノロジーを提供しているだけだ」
怒りが収まるはずはない。
だが、これ以上ここで剣を振っても無駄だとわかったので、呼吸も落ち着いてきた。
「ちなみに、キミはステージには上がれない……ステージの前には特殊なバリアフィールドが展開されている……」
「……そうか」
「ボクの隣の席に座るといい」
ヴェルウェザーが俺を見た。
ヤツの瞳は白く、この暗い客席の中で鋭く光っている。
気さくな感じで隣の席をポンポンと叩いてきたが、無論、ヤツの隣に座るつもりなんてない。5席ほど間を取り、慎重に腰掛けた。
ちょうどステージ上では楓香と岡が戦っている。
2人とも俺の登場には気付いていないようだ。戦いに集中していることと、客席が暗すぎることが原因だろう。
俺としては、楓香の集中を散らしたくはなかった。
冒険者にとって、少しの集中の乱れが命取りになることは普通だ。
「岡もお前の手先だったとはな」
「……厳密には違う」
「は? どういうことだ?」
この世界で最も嫌いな男と話しているんだ。言葉遣いが悪くなるのもしかたない。
「岡虎之介は【アサシン】の所属だ。数年前、ボクは【アサシン】を買収した。だからボクの言うことを聞いてくれるだけに過ぎない」
「【アサシン】までお前が買収してるのか……」
【アサシン】というのはその名の通り、暗殺者の組織だ。
ゼロナとの夜の任務で【アサシン】所属と思われる暗殺者と遭遇し、対処している。
その際、その暗殺者の頭が吹き飛んだ。その死に方から【ダークエイジ】との関与を疑っていたが、今回その関与がはっきりしたわけだ。
「それで、今回のお前の目的は何だ? 楓香を殺すことか?」
「……」
ヴェルウェザーは答えない。
「楓香を殺すことが目的だとしたら、わざわざこうして戦わせる必要もないと思うが」
これまでの戦いから言えることとして、ヴェルウェザーは確実な暗殺を好まない。
どっちに転ぶのかわからない、曖昧な方法を選ぶのだ。
【ダークエイジ】側の人間が犠牲になることも多かった。だが、ヤツはそれを大した損失だとは捉えていないようだった。
「ボクはキミと、この戦いの行く末を見守りたいだけだ……岡虎之介はBランク。順当にいけば彼が勝利するだろう」
「それはどうだろうな」
「その通り……キミの彼女は冒戦で二度もBランク相手に勝利したと聞いている。もし今回も同じようなことが起これば……喜ばしいことだ」
「岡が勝とうが、楓香が勝とうが、どっちでもいいってことか?」
「岡虎之介が勝てば必ず白桃楓香は殺される。それを見たキミは怒り、岡を殺す」
「……」
「白桃楓香が勝てば岡はおそらく殺されないだろう。だが、もし彼が負ければ頭が吹き飛ぶ」
「お前……人間の心がないのか……」
「白桃楓香がまた格上に勝利する結果を残せば、彼女は確実にBランク冒険者に昇格だ。ボクとしては、その方が都合がいい」
「何が言いたい?」
「彼女には可能性がある。キミによく似て、進化のスピードが速く、センスがある。ボクとしては、そういった冒険者には生き延びてもらいたい……」
「お前の目的は何だ?」
とりあえずこいつが陰湿クソサイコパスということだけはわかった。
ヴェルウェザーがフードを取る。
髪は灰色で、ぼさぼさだった。伸びきった前髪の隙間から、相変わらず不気味な白い瞳がこっちを見ている。
「社長から聞かされていないのか……ボクの目的はダンジョンの核を手に入れること……」
「……」
「……その大いなる目的のために、キミたちが必要だ」
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