ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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ダンジョン遠征編

第142話 麗人に嫉妬して暴走しそうになる最強の社長

 西園寺さいおんじからの突然のタッグ解散命令に、俺とゼロナは少しも驚かなかった。

 今の状況を考えれば、自然なことだろう。
 呼び出しを受けた時点で、なんとなくそんな予感はしていた。

「今のぼくは隠れSランク冒険者どころか、外に出るだけで目立つ存在になってしまったからね。こうなるのもしかたない」

「その通りだ。夜の街であったとしても、注目の冒険者が2人で出歩いていたら、目立たないはずがない」

 きっと今も、西園寺リバーサイドの外には多くの報道陣、ファンが出待ちしていることだろう。

 あれから1週間たっても、まだ世間の注目は美人Sランク冒険者に向いたまま。
 ゼロナが経営する美容室、フロスト&プリュームは1年先の予約まで埋まっている。

 ここまで注目されている要因のひとつは、間違いなくその美貌にある。モデル顔負けの圧倒的スタイルに、欠点のない完璧な顔立ち。
 実際、ゼロナをモデルや女優としてプロデュースしたいという芸能事務所からの要望も多く来ている。

 だが、この注目に火をつけている最大の要因は、彼女が「Sランク冒険者」であるということだろう。

 Sランク冒険者は希少な存在だ。
 熟練したSランクであるフロストハウルの登場によって、日本の冒険者業界はさらに盛り上がった。

「人気者は大変だな……」

 決して皮肉を込めたつもりはない。
 俺だってこれまで、世間から注目を浴びながら生きてきた。だからこそ、今のゼロナの状況の裏にある精神的な疲弊は痛いほどわかる。

 隠れSランク冒険者として裏で活躍していたゼロナにとって、「目立つ」ということは自分の強みを失ってしまったようなものだしな。

「他にも懸念はある。さい君は白桃楓香オーロラとの交際をメディアに公表している身だ。他の女性とのスキャンダルを作るわけにはいかない」

「社長……」

 どうやら、西園寺は俺のスキャンダルについても考慮してくれたらしい。
 さすがは部下想いの、というか俺想いの社長だ。

 ゼロナはどこか面白そうに笑っていた。

才斗さいととこうやってタッグを組めたのは、ぼくにとって楽しい経験になったよ。とはいっても、少し名残惜しいのは本当だけどね」

 そう言って、愛おしそうに俺の頬を撫でる。

 ちらっと西園寺の方を確認すると、顔を引きつらせながらガタガタと揺れていた。このままだと爆発しそうだ。西園寺の威厳を保つためにも、ここはゼロナを抑制しておいた方がいいかもしれない。

 というわけで、話題を変えよう。

「そういえば、ゼロナは今度のダンジョン遠征に参加するのか?」

「才斗、今、話題変えたね」

「それは……」

 そのままゆっくり顔を寄せてくるゼロナ。
 そして、頬に口付けを――。

「西園寺さんが嫌がるからやめた方がええで」

「ん?」

 西園寺以上に引きつった顔でゼロナを阻止しようとする真一。
 だが、指摘された本人はちっともわかっていない。

 そのまま俺の頬にキスをしてしまった。

「……」

 西園寺は無言だ。
 頬の筋肉がピクピク動いているのを見るに相当限界のようだが、なんとか耐え抜いたらしい。

 そのまま咳払いをして、椅子に深く腰掛ける。

「ダンジョン遠征の件だが、氷室澪奈フロストハウルは参加しないことが決まっている。遠征の参加メンバーは才君、青木真一なにわフェニックス一ノ瀬信長ストームファング山口剣騎ソードナイト本波真悠アルテミス雷電舞姫ダンシングガール、そして私だ」

 西園寺によって伝えられたメンバーは、全員が【ウルフパック】のSランク冒険者。

 幹部の7名だ。

 この7人でなら、ダンジョンの下層にも潜ることができる。
 日本最高の治癒師ヒーラーである真悠姉さんを含んだ、エリートパーティの爆誕だ。

「日程などの細かい情報は1週間後の幹部会議で発表する。それまではいつも通りの活動をしてもらって構わない。才君は遠征が終わってからはパーティでダンジョンに潜れるよう準備しておくように」

「はい」

 自分のパーティを結成するというタスクに関しては忘れていたわけじゃない。ただ、これまで多くの異常事態が起こりすぎて、そこまで考える余裕がなかった。

「あとは岡に関してだが……」

 西園寺が続ける。
 暗殺者として楓香ふうかを殺そうとした岡の話題に、全員の表情が引き締まった。

 彼の身柄は【ウルフパック】で預かっている。
 文化祭を台無しにするきっかけを作った男2人は、政府に連行され、そのまま日本の冒険者法で裁かれることになるだろう。

 岡の処分はまだだ。

 彼は黒幕であるヴェルウェザーの関係者。現場にいた俺からすれば、彼もヴェルウェザーにもてあそばれた被害者であるように思えるが、警戒していることに変わりはない。

「――1週間前から地下の監禁室で拘束している。彼はおそらく、【アサシン】の刺客から命を狙われていることだろう。拘束と言えば聞こえは悪いかもしれないが、彼の身柄は我々が守っていると考えることもできる」

 無意識のうちに全員が床に視線を落とす。
 だが、その視線が向いているのは床ではなく地下だ。彼は今、この西園寺リバーサイドの地下に監禁されている。

「面会することは可能ですか?」

 俺の彼女が岡に命を狙われた。
 クラスメイトとして、いろいろ話したいことはある。

 西園寺はそれを待っていたとでも言うように深く頷くと、深く腰掛けていた椅子から立ち上がった。

「当然だ。才君にはその権利がある」

「ぼくもそれに立ち会うことはできるかな? あの可愛いミズ・白桃しろももが殺されかけ――」

「フロストハウルにはまだ話がある。君にはこのまま社長室に残ってもらいたい」

「しかし、ぼくも話しておきたいことが――」

「氷室」

 ゼロナのことを冒険者名ではなく名字で呼ぶ西園寺。滅多にない光景だ。

 嫌な予感がする。

「さ、才君はオレと一緒に地下に行くんだよぉ! オレと才君の仲に水をささないでくれぇぇぇえええい!」

 どうやら、西園寺はゼロナに嫉妬していたらしい。
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