ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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上司としての責務編

第11話 理不尽な奇襲に遭ってもボーナスは出ない現実

 所詮はただの人間である佐藤さとうの尾行を撒くのは簡単だ。

 ほんの少しだけ走れ・・ばいい。

 俺と楓香ふうかはさっとビルの影に入ると、その隙に駆け出して佐藤の視野から完全に消えた。周囲を見回して確認したところで、俺たちは見つけられない。
 ダンジョン周辺で張り込みなんかをしない限りは。

「危なかったですね。わたしたちがみだらな関係ってことがバレるとこでした」

「そんな事実はない」

「え~、じゃあ正式に付き合いますか? そしたらちゃんとした関係性ですよ」

「俺に恋愛感情はないんじゃなかったのか?」

そのはず・・・・なんですけど、わたし、別に才斗さいとくんとなら付き合ってもいいかなって思ってますよ」

「そうはならないから安心しろ」

「むぅー」

 茶番はここまでだ。

 俺たちは今日もまたダンジョンにもぐる。
 昨日は3階層でストップしたが、ある程度彼女の実力もわかってきたので9階層まで行ってみようかと思う。



 ***



 見込んだ通り、あっという間にダンジョン9階層に辿り着いた。

 楓香には才能センスがある。
 冒険者としてはこの上ないものだ。敵の気配を感じ取る能力、正確に敵の守りが薄い部分を見抜く能力。

 そして、戦闘時の楓香は人格が変わる。

 実際に二重人格者なのかはわからない。
 だが、まるで別人だ。そう錯覚してしまうほどに、内側に秘める狂気が表に溢れ出ている。モンスターさえも恐怖するほどの狂気。

 上級冒険者である俺も、すっかりその勢いに圧倒されていた。

「9階層のオークは殲滅しました」

「それは見ればわかる」

「あとはミノタウロスを攻略するだけです。さすがに数が多いので、手伝ってもらえますか?」

 今の楓香は無機質で冷たい声だ。

 俺を見つめるその紅の瞳も、熱い炎というよりは冷酷な炎。

「わかった」

「助かります」

 ここまではノータッチだったが、数が数だ。

 広いダンジョンに2人の人間。
 その周囲には殺気をみなぎらせたミノタウロスの群れ。その数はだいたい30は超えている。

 深い階層に行けば行くほど規模が大きく、モンスターも強くなっていくダンジョン。

 この弱肉強食の世界で、俺たち冒険者は戦っている。

『ウォオオオオオオオオ!』

 ミノタウロスが吠えた。

 彼らはヒトの言葉を話せない。
 もう少し深い階層に行けば、知能の高い、人間の言語を理解することのできるモンスターが存在する。

「背中合わせに戦った方がいい。俺の作業・・が終わったらすぐにお前の戦闘・・に加勢してやる」

「作業、ですか……」

 俺は剣を構え、ミノタウロスの群れに斬りかかった。

 愛用する剣は刃渡り130センチと少し長めだ。
 ダンジョンで採掘された鉱石が使われている。

 そもそも、ダンジョンに生息するモンスターには、ダンジョンで手に入る金属で作られた武器しか通用しない。つまり、人間世界での拳銃やマシンガンは使えないのだ。

 ――それじゃあ、その金属の素材を弾丸にすればマシンガンでも通用するだろう。

 そう簡単にはいかないのが現実だ。

 何度も実験が行われているが、その弾丸はモンスターにまったく通用しない。そこで科学者が出した結論は、ダンジョンの金属が一定量武器に含まれている必要がある、ということ。
 剣だとクリア、弾丸だと駄目。

 弓矢の開発も行われているが、今のところ成功していない。金属の成分を凝縮することが困難だからだ。

 ――冒険者が使える武器は剣のみ。

 それが現在の冒険者社会の常識である。

 そして、剣の流派が生まれ、それぞれのフォームが発達していった。

「17体目……18体目……もうすぐ片付くか」

「――ッ!」

 俺に立ち塞がってきたミノタウロスは攻略した。

 手首のスナップを利かせ、ミノタウロスに比べて大幅に小柄な俺でも簡単に斬り込んでいく。これはルーテン派の動きだ。
 体力の消耗を抑えつつ、効率的に戦うことができる。

 その代わり、相当な鍛錬を積まなければマスターできないし、そういう俺自身もまだまだ修行中の身だ。

「俺も加勢する」

「わたしの獲物です。近付かないでください」

 楓香のもとに駆け寄ろうとするが、鋭い眼光に睨まれる。

 思わず後退してしまうほどの迫力があった。

 やっぱり、この楓香は普段の楓香とは別人だ。
 今戦っている彼女の姿に、あの元気で明るい面影は1ミリもない。

 楓香が残りのミノタウロスを殲滅するまで、黙って見ていた。剣捌きはさすがだ。防御を重視しながらも確実に攻撃を繰り出せるピトー派の動き……剣騎けんきが見せる戦いにも通ずるものがある。

「剣は誰に教わった?」

「集中しています。話しかけないでください」

 すっかり立場が逆だな。
 俺はこれまで黙れと言いたくても言わないであげていたんだが。

 そもそも、協力を求めてきたのはそっちだろうに。

「わかった。それじゃあミノタウロスは任せ――ッ」

 ――来る!

 何かを察知した俺。

 楓香にタックルし、強烈な第三者・・・の一撃をかわす。

「急に何ですか?」

「……奇襲だ」

「は?」

 楓香に容赦ない攻撃を放った張本人は、邪魔なミノタウロスを瞬殺し、地面に膝をつく俺たちに向き直った。

 真っ赤なロングヘア。

 漆黒の瞳。

 胸元に見慣れない紋章の刺繡を施したスーツを着ている女だった。

「私はヴァイオレット。ここでお前たちを始末する」
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