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上司としての責務編
第12話 やっとそれっぽくなってきた壮絶なバトル
突如として現れた赤髪の女冒険者。
冒険者は普通、財布サイズのアイテムボックスを持ち歩く。
科学技術の力で、その中には100キログラムまでなら物を詰め込めるようになっていた。
それでいて外から見た時の体積が大きくなることはない。
万能アイテム。
女冒険者は俺たちの前でそれをゆっくりとポケットから取り出すと、中から漆黒の剣を引き抜いた。
「その剣は……」
普通の武器屋では売っていないような、黒の輝き。
――違法な武器だ。
直感で判断する。
ダンジョンに入る際に政府に没収されないよう、アイテムボックスの中に隠していたのだと。
「わたしが戦います」
「楓香、あいつはお前の手に負えるような相手じゃない」
「あなたの許可は求めていません」
そう言って、楓香が飛び出した。
ヴァイオレットこと赤髪の冒険者が漆黒の剣で応戦する。
――ヴァイオレット。聞いたことのない名前だ。
冒険者は冒険者名を自分で付けることができる。
俺がブラックで、楓香がオーロラというように(楓香の冒険者名は昨日家で教えてもらっていた)。
冒険者としての功績が発表される際、基本は冒険者名の方が本名よりも大袈裟に宣伝されるため、強くて実績のある冒険者の冒険者名ならすぐにわかる。
だが、ヴァイオレットというのは初耳だ。
彼女から伝わってくる実力者のオーラは、俺に匹敵するほど強いというのに。
「ヴァイオレットというのは偽名か? それとも、その名前で登録しているのか?」
「この名前はあの方から頂いた。冒険者登録などして穢せるわけがない」
つまり、未登録冒険者。
ヴァイオレットは余力を残しながら楓香と戦っている。いや、正確には戦っているのは楓香で、ヴァイオレットは遊んでいるだけだ。
俺たちを始末すると言っていたが、まだその気ではないということか。
そう判断した矢先、楓香が斬られた。
脇腹をかなり深くえぐられ、そのまま胸元に鋭い蹴りを食らう。
衝撃を吸収することができず、楓香は20メートル以上離れていたダンジョンの壁に叩き付けられた。壁に亀裂が入り、もろくなった部分がボロボロと崩れ始める。
敵はCランク冒険者と軽く遊べる実力がある、ということか。
「その気になれば簡単に殺せたんじゃないのか?」
「殺せとは言われていない。生かしたままアジトへ連れ帰る」
「それは俺と楓香の両方か?」
「そうだ」
戦闘時の楓香と同様に、ヴァイオレットの声からも感情が抜け落ちている。
命令を受けて動いている様子から、その上にはさらに強い存在がいることが予想された。
この状況では戦うしかない。
楓香の意識はしばらく戻らないだろう。ここでヴァイオレットを片付けたら、すぐに地上に戻って治癒師職の冒険者に治療してもらう必要がありそうだ。
病院に連れていくよりもこちらの方が確実で早い。
「俺を簡単に倒せるとは思わない方がいい」
「お前の実力などすでに把握している」
「そうか」
剣を構える俺の頬を、汗が伝っていた。
***
「ほい、契約金ね」
「ありがとうございます。良かったらまた契約してくださると嬉しいです」
「君は優秀だから、もっと名の売れた冒険者と契約できるだろうに」
「いやぁ、やっぱりちゃんと信用できるような人としか組みたくないんですよねー」
「なるほど。てことは、おれは信用されてるってことでいいんだな?」
「はい。他の冒険者からの評判もいいですからね。それでは、また」
「よろしくなー」
黒瀬才斗と謎の赤髪冒険者が対峙しているちょうどその頃。
ダンジョン・ドームのホールでは、1人の好青年と中年の冒険者が笑顔でやり取りをしていた。
好青年の名は中島富秋。
24歳で、回復職のBランク冒険者だ。
中島は個人の冒険者や冒険者パーティと直接契約を結ぶ、フリーの冒険者である。回復職であるということは貴重な存在であり、仲間にいるだけでダンジョン攻略がスムーズに進むようになる。
そんな中島は、今日契約を結んでいた中年冒険者と別れると、ダンジョンの扉を見ながら首を傾げた。
「気のせいかなぁ。少し前に才斗君が見えたような……」
少なくとも東京にダンジョンは1つ、ここにしかないため、冒険者同士がダンジョン・ドームで会うことは珍しくない。
しかし、ダンジョンの中は広いため、知り合いと出会うのは稀だ。
――せっかくだし、ここで待ってみようかな。そのうち上がってくるかもしれないし。
中島はダンジョン・ドームのホールで、しばらく時間を潰すことにした。
***
「俺と戦う時は本気を出してくれるようだな」
「……」
ダンジョン9階層に響くのは冒険者同士の剣がぶつかる音。
冒険者になれば、ダンジョン内で同職の者と殺し合うことも覚悟しておかなくてはならない。だが、訓練以外で実際に剣を交えるのは久しぶりだ。
「話す余裕はないのか?」
「――ッ」
顔を歪めるヴァイオレット。
少なくとも、俺の方が冒険者としての実力は上のようだ。
とはいえ、決定打に欠けるし、俺もそれなりのダメージを食らっている。
――実力の拮抗。
未登録冒険者であるということは、公式なランクがない。
だが、戦っている感覚では、ヴァイオレットの実力はAランクに食い込みそうだ。それも、Aランクの中のかなり上の方に。
「魔力は俺よりあるのかもな」
ヴァイオレットから放たれている魔力。
魔力は剣に込めると威力を増す。【選別の泉】をクリアした者に与えられる力の1つだ。
ちらっと楓香の状態を確認する。
出血は収まってきたが、呼吸が荒く、このまま放置していれば命に危険が及ぶだろう。
――撤退だ。
戦闘の最中、剣を打ち合いながら、俺は決断した。
冒険者は普通、財布サイズのアイテムボックスを持ち歩く。
科学技術の力で、その中には100キログラムまでなら物を詰め込めるようになっていた。
それでいて外から見た時の体積が大きくなることはない。
万能アイテム。
女冒険者は俺たちの前でそれをゆっくりとポケットから取り出すと、中から漆黒の剣を引き抜いた。
「その剣は……」
普通の武器屋では売っていないような、黒の輝き。
――違法な武器だ。
直感で判断する。
ダンジョンに入る際に政府に没収されないよう、アイテムボックスの中に隠していたのだと。
「わたしが戦います」
「楓香、あいつはお前の手に負えるような相手じゃない」
「あなたの許可は求めていません」
そう言って、楓香が飛び出した。
ヴァイオレットこと赤髪の冒険者が漆黒の剣で応戦する。
――ヴァイオレット。聞いたことのない名前だ。
冒険者は冒険者名を自分で付けることができる。
俺がブラックで、楓香がオーロラというように(楓香の冒険者名は昨日家で教えてもらっていた)。
冒険者としての功績が発表される際、基本は冒険者名の方が本名よりも大袈裟に宣伝されるため、強くて実績のある冒険者の冒険者名ならすぐにわかる。
だが、ヴァイオレットというのは初耳だ。
彼女から伝わってくる実力者のオーラは、俺に匹敵するほど強いというのに。
「ヴァイオレットというのは偽名か? それとも、その名前で登録しているのか?」
「この名前はあの方から頂いた。冒険者登録などして穢せるわけがない」
つまり、未登録冒険者。
ヴァイオレットは余力を残しながら楓香と戦っている。いや、正確には戦っているのは楓香で、ヴァイオレットは遊んでいるだけだ。
俺たちを始末すると言っていたが、まだその気ではないということか。
そう判断した矢先、楓香が斬られた。
脇腹をかなり深くえぐられ、そのまま胸元に鋭い蹴りを食らう。
衝撃を吸収することができず、楓香は20メートル以上離れていたダンジョンの壁に叩き付けられた。壁に亀裂が入り、もろくなった部分がボロボロと崩れ始める。
敵はCランク冒険者と軽く遊べる実力がある、ということか。
「その気になれば簡単に殺せたんじゃないのか?」
「殺せとは言われていない。生かしたままアジトへ連れ帰る」
「それは俺と楓香の両方か?」
「そうだ」
戦闘時の楓香と同様に、ヴァイオレットの声からも感情が抜け落ちている。
命令を受けて動いている様子から、その上にはさらに強い存在がいることが予想された。
この状況では戦うしかない。
楓香の意識はしばらく戻らないだろう。ここでヴァイオレットを片付けたら、すぐに地上に戻って治癒師職の冒険者に治療してもらう必要がありそうだ。
病院に連れていくよりもこちらの方が確実で早い。
「俺を簡単に倒せるとは思わない方がいい」
「お前の実力などすでに把握している」
「そうか」
剣を構える俺の頬を、汗が伝っていた。
***
「ほい、契約金ね」
「ありがとうございます。良かったらまた契約してくださると嬉しいです」
「君は優秀だから、もっと名の売れた冒険者と契約できるだろうに」
「いやぁ、やっぱりちゃんと信用できるような人としか組みたくないんですよねー」
「なるほど。てことは、おれは信用されてるってことでいいんだな?」
「はい。他の冒険者からの評判もいいですからね。それでは、また」
「よろしくなー」
黒瀬才斗と謎の赤髪冒険者が対峙しているちょうどその頃。
ダンジョン・ドームのホールでは、1人の好青年と中年の冒険者が笑顔でやり取りをしていた。
好青年の名は中島富秋。
24歳で、回復職のBランク冒険者だ。
中島は個人の冒険者や冒険者パーティと直接契約を結ぶ、フリーの冒険者である。回復職であるということは貴重な存在であり、仲間にいるだけでダンジョン攻略がスムーズに進むようになる。
そんな中島は、今日契約を結んでいた中年冒険者と別れると、ダンジョンの扉を見ながら首を傾げた。
「気のせいかなぁ。少し前に才斗君が見えたような……」
少なくとも東京にダンジョンは1つ、ここにしかないため、冒険者同士がダンジョン・ドームで会うことは珍しくない。
しかし、ダンジョンの中は広いため、知り合いと出会うのは稀だ。
――せっかくだし、ここで待ってみようかな。そのうち上がってくるかもしれないし。
中島はダンジョン・ドームのホールで、しばらく時間を潰すことにした。
***
「俺と戦う時は本気を出してくれるようだな」
「……」
ダンジョン9階層に響くのは冒険者同士の剣がぶつかる音。
冒険者になれば、ダンジョン内で同職の者と殺し合うことも覚悟しておかなくてはならない。だが、訓練以外で実際に剣を交えるのは久しぶりだ。
「話す余裕はないのか?」
「――ッ」
顔を歪めるヴァイオレット。
少なくとも、俺の方が冒険者としての実力は上のようだ。
とはいえ、決定打に欠けるし、俺もそれなりのダメージを食らっている。
――実力の拮抗。
未登録冒険者であるということは、公式なランクがない。
だが、戦っている感覚では、ヴァイオレットの実力はAランクに食い込みそうだ。それも、Aランクの中のかなり上の方に。
「魔力は俺よりあるのかもな」
ヴァイオレットから放たれている魔力。
魔力は剣に込めると威力を増す。【選別の泉】をクリアした者に与えられる力の1つだ。
ちらっと楓香の状態を確認する。
出血は収まってきたが、呼吸が荒く、このまま放置していれば命に危険が及ぶだろう。
――撤退だ。
戦闘の最中、剣を打ち合いながら、俺は決断した。
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