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上司としての責務編
第23話 部下にいきなり斬りかかられる裏切り
ダンジョン9階層までやってきた。
3日前、赤髪の冒険者の奇襲に遭った階層だ。
楓香に変なトラウマが植え付けられていないか心配だったが、それはないらしい。
戦闘時の飄々としたクールな楓香がここにいる。
「視界に入っていたミノタウロスは全てめった刺しにしました。10階層に行きましょう」
「大丈夫か?」
「何か言いたいことでも?」
冷たい楓香からの視線。
ここまで淡々とモンスターを斬ってきたわけだが、10階層の手前でどこか様子が変わったような気がしていた。
楓香との関係が深まったからだろうか。少し前だったら気付かなかったような、小さな変化だった。
「10階層に行ったことはないんだろ?」
「どうしてそれを?」
「最初、お前は9階層までなら大丈夫、みたいなことを言っていた。キリのいい10階層ではなく、わざわざ9階層を出したってことは――」
「半分正解です。確かにわたしは、10階層を突破していません」
Cランク冒険者であれば、10階層を突破していてもおかしくはない。
ソロで潜るには難易度が高かったか。
「ですが、何かあればあなたがいますよね? それなら大丈夫です」
「それはそうだが……」
俺を「あなた」と呼ぶ時の目。
いつもの「才斗くん」と呼ぶ時の親しげで愛嬌のある目とはまったく違う。
『――それに、白桃君には何かある』
【ウルフパック】での幹部の会議で、剣騎が言っていたことを思い出した。
『前にも言ったよね。白桃君も君と同じく異端児だって。彼女も彼女で、抱えているものがある、ということさ』
――抱えているもの、か。
今はまだよくわからない。
だが、俺にもそれを知る時が来るのかもしれない。そして、その時はそう遠くないのかもしれないと感じていた。
***
10階層ともなれば、整備の行き届いていない、完全に自然なダンジョンとなる。
広さが尋常じゃないし、モンスターの強さもグンと上がる。
とはいえ、俺が苦戦する場所ではない。
楓香に関しても同じことが言える。
「オーガなど、わたしの敵ではありません」
そう言って、筋肉質な鬼、オーガを斬っていく。
汗は流れているが、準備運動で流れるようなさらっとした汗だ。俺が手を貸すまでもない。
ピトー派の動きは攻撃的なオーガには効果的らしく、確実に相手の体力を削りながら、一撃で仕留めることに成功していた。
10階層でしか採取できない、貴重なブルーミスリルを回収する。
「ブルーミスリルはここにしかない。だからできるだけ多く――って、聞いてるのか?」
「……」
金属採取のためにかがんでいる俺。
視線の先には楓香の手がある。
剣を握る、楓香の拳だ。
その拳は震えていて、カチカチカチカチと、剣がそれに合わせるように金属音を響かせている。体も僅かだが痙攣していた。
「毒でも食らったか?」
「……」
素早く抱きとめる。
「様子がおかしい。今日もまた引き上げよう」
「――ッ」
「大丈夫か?」
「黙れ!」
いきなり俺を引き剥がし、剣で斬りかかってきた。
剣を鞘に戻していた俺は、対応に遅れてしまう。
「――ッ。痛いじゃないか」
楓香の剣を素手で受け止めていた。幸い、斬れることはない。力を分散させ、両断されないよう調整している。
とはいえ、僅かに切れたところから血が流れていた。
――錯乱状態になってるのか?
俺と見つめ合う楓香の瞳の中には殺意が潜んでいる。
これまでにも、戦闘時の楓香から殺意のようなものを感じることはあったものの、ここまでむき出しにしてくるとは。
「黒瀬才斗、わたしはここで、お前を倒す」
冷淡な視線が、俺に突き刺さった。
***
山口剣騎は大阪に来ていた。
東京から新幹線で1時間ほど。
本来なら2時間以上かかる道のりだが、上級冒険者ともなれば専用の特別新幹線が用意されている。
Aランク以上の冒険者が乗れる、ギリギリまで速さを追い求めた新幹線だ。
「まさか、真一君が僕を呼び出すなんてね」
「幹部の中で気軽に呼べるような奴は剣騎しかおらん。わかるやろ?」
並んで大阪の街を歩いているのは、山口の彼女などではなく、青木真一。
青木は山口より10歳も年上の32歳だが、2人の関係は対等だ。
彼の関西弁からわかる通り、青木は大阪を拠点にして活動しているSランク冒険者。西園寺リバーサイドで会議があった際は、わざわざ大阪から東京まで来ていた。
「それで、僕にも大阪のダンジョンを体験しろって言いたいのかな?」
「そんなもん何回も体験しとるやろ。本題はそこやない」
真剣な表情になって、山口を見る。
青木は小柄な山口よりも10センチほど身長が高いため、自然と見下ろす形になっていた。
深刻な話が始まるのではないかと、気を引き締める山口。
ただ気まぐれで大阪に呼ばれただけかと思っていたが、違うのかもしれない。
「おれなぁ……人生で初めて彼女ができたんや!」
「はぁ?」
興奮した様子で目を輝かせる青木に対し、山口は心底呆れた視線を向けた。
3日前、赤髪の冒険者の奇襲に遭った階層だ。
楓香に変なトラウマが植え付けられていないか心配だったが、それはないらしい。
戦闘時の飄々としたクールな楓香がここにいる。
「視界に入っていたミノタウロスは全てめった刺しにしました。10階層に行きましょう」
「大丈夫か?」
「何か言いたいことでも?」
冷たい楓香からの視線。
ここまで淡々とモンスターを斬ってきたわけだが、10階層の手前でどこか様子が変わったような気がしていた。
楓香との関係が深まったからだろうか。少し前だったら気付かなかったような、小さな変化だった。
「10階層に行ったことはないんだろ?」
「どうしてそれを?」
「最初、お前は9階層までなら大丈夫、みたいなことを言っていた。キリのいい10階層ではなく、わざわざ9階層を出したってことは――」
「半分正解です。確かにわたしは、10階層を突破していません」
Cランク冒険者であれば、10階層を突破していてもおかしくはない。
ソロで潜るには難易度が高かったか。
「ですが、何かあればあなたがいますよね? それなら大丈夫です」
「それはそうだが……」
俺を「あなた」と呼ぶ時の目。
いつもの「才斗くん」と呼ぶ時の親しげで愛嬌のある目とはまったく違う。
『――それに、白桃君には何かある』
【ウルフパック】での幹部の会議で、剣騎が言っていたことを思い出した。
『前にも言ったよね。白桃君も君と同じく異端児だって。彼女も彼女で、抱えているものがある、ということさ』
――抱えているもの、か。
今はまだよくわからない。
だが、俺にもそれを知る時が来るのかもしれない。そして、その時はそう遠くないのかもしれないと感じていた。
***
10階層ともなれば、整備の行き届いていない、完全に自然なダンジョンとなる。
広さが尋常じゃないし、モンスターの強さもグンと上がる。
とはいえ、俺が苦戦する場所ではない。
楓香に関しても同じことが言える。
「オーガなど、わたしの敵ではありません」
そう言って、筋肉質な鬼、オーガを斬っていく。
汗は流れているが、準備運動で流れるようなさらっとした汗だ。俺が手を貸すまでもない。
ピトー派の動きは攻撃的なオーガには効果的らしく、確実に相手の体力を削りながら、一撃で仕留めることに成功していた。
10階層でしか採取できない、貴重なブルーミスリルを回収する。
「ブルーミスリルはここにしかない。だからできるだけ多く――って、聞いてるのか?」
「……」
金属採取のためにかがんでいる俺。
視線の先には楓香の手がある。
剣を握る、楓香の拳だ。
その拳は震えていて、カチカチカチカチと、剣がそれに合わせるように金属音を響かせている。体も僅かだが痙攣していた。
「毒でも食らったか?」
「……」
素早く抱きとめる。
「様子がおかしい。今日もまた引き上げよう」
「――ッ」
「大丈夫か?」
「黙れ!」
いきなり俺を引き剥がし、剣で斬りかかってきた。
剣を鞘に戻していた俺は、対応に遅れてしまう。
「――ッ。痛いじゃないか」
楓香の剣を素手で受け止めていた。幸い、斬れることはない。力を分散させ、両断されないよう調整している。
とはいえ、僅かに切れたところから血が流れていた。
――錯乱状態になってるのか?
俺と見つめ合う楓香の瞳の中には殺意が潜んでいる。
これまでにも、戦闘時の楓香から殺意のようなものを感じることはあったものの、ここまでむき出しにしてくるとは。
「黒瀬才斗、わたしはここで、お前を倒す」
冷淡な視線が、俺に突き刺さった。
***
山口剣騎は大阪に来ていた。
東京から新幹線で1時間ほど。
本来なら2時間以上かかる道のりだが、上級冒険者ともなれば専用の特別新幹線が用意されている。
Aランク以上の冒険者が乗れる、ギリギリまで速さを追い求めた新幹線だ。
「まさか、真一君が僕を呼び出すなんてね」
「幹部の中で気軽に呼べるような奴は剣騎しかおらん。わかるやろ?」
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彼の関西弁からわかる通り、青木は大阪を拠点にして活動しているSランク冒険者。西園寺リバーサイドで会議があった際は、わざわざ大阪から東京まで来ていた。
「それで、僕にも大阪のダンジョンを体験しろって言いたいのかな?」
「そんなもん何回も体験しとるやろ。本題はそこやない」
真剣な表情になって、山口を見る。
青木は小柄な山口よりも10センチほど身長が高いため、自然と見下ろす形になっていた。
深刻な話が始まるのではないかと、気を引き締める山口。
ただ気まぐれで大阪に呼ばれただけかと思っていたが、違うのかもしれない。
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