ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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上司としての責務編

第24話 精神的に追い詰めるという鬼畜の所業

 たとえ楓香ふうかが我を忘れて襲いかかってきたとしても、ランクが2つ上の俺には容易に対処できる。

 楓香の剣捌きでは、到底俺には敵わない。

 どの角度から攻撃を繰り出してきたとしても、流して終わるだけ。
 剣をいかに正確に操るか。それが剣術の肝だ。

「あなたが憎い!」

「……」

 豹変した楓香が怒気を含んだ声でそう告げる。

 結構好かれていると思っていたのに、ショックだ。実はそんな憎悪の感情を持っていたとは。

 ――なんてな。

「お前、誰だ?」

「――ッ」

「お前は明らかに白桃しらもも楓香じゃない。だとしたら、誰なんだ?」

 まだ楓香には傷を付けていない。

 攻撃をかわし、会話を続けるだけ。
 楓香の姿をした誰か・・・・・・・・は、俺の動じない態度に苛立ちを見せながらも攻撃をやめなかった。

 ――まさか本当に二重人格者だったとはな。

 最初から疑ってはいた。
 どう見ても、いつもの楓香とダンジョンでの楓香は同一人物ではない。その違和感は正しかった。

「お前に説明を頼んでも答えてくれないだろ。だから俺の知ってる楓香に頼むことにする」

 成功するかどうかはわからないが、これは賭けだ。

 ここでベットしないと後悔することになる。

「少し痛いかもしれないが、我慢してくれ」

「――ッ」

 にせ楓香の剣を弾き、強引に首をつかむ。

 そのまま、相手が気を失うまで強く握り続ける。

「死なないように手加減はしてる。安心しろ」

「黒瀬……」

 忌み嫌う名前であるかのように俺の名字を呟いた偽楓香。
 その言葉を最後に、彼女は気を失った。

 10階層の地面に優しく寝せてやる。モンスターは近くにはいない。

楓香が・・・起きるのを待つか」

 気絶した楓香の隣に腰掛けると、静かに呟いた。



 ***



「おれなぁ……人生で初めて彼女ができたんや!」

「はぁ?」

 同時刻。
 大阪。

 山口は呆れた表情で青木あおきの顔を見つめていた。

「彼女は作らない、とか言ってなかった?」

「いいやん別に。32歳にして初めて恋人ができたんやで。それで、剣騎けんきにはいろいろアドバイスもらいたいんや」

「僕に恋愛方面のアドバイスを期待するのかい?」

「剣騎はモテそうやし、いいやろ?」

 頭を抱える山口。

 冒険者は恋人を作ってはならない、などといった決まりがあるわけではないが、いつ殉職するかもわからないような職業柄、恋人を作らない方がいいとする暗黙の了解があったりする。

 山口自身、これまで恋人を作ったことはない。
 青木が言うようにモテることはあるのだが、どんな女性からのアプローチも断ってきた。

「ちなみに、お相手はどういう女性?」

「年齢はわからんけど、凄い美人で若い人やで」

「んー」

 ――年齢を明かしてないって……嫌な予感がするな。

 山口は騙されている可能性について言及しようとするが、青木の幸せそうな顔を見て一旦保留にする。

「ひとまず、今日はその彼女さんに会わせてくれるってことでいいのかな? 僕をわざわざここに呼んだってことは、そういうことだろう?」

「その通りや。今から喫茶店で会う予定やから、剣騎もついてきてな」

「わかったよ」

 山口は警戒心を維持したまま、青木についていった。



 ***



才斗さいとくん……?」

「やっと起きたか」

 最初の一言で、この楓香が俺の知っている楓香であるとわかる。

 口調もすっかり元通り。
 少し前までは同じ顔から殺意を向けられていたわけだが、今ではあの柔らかい瞳だ。警戒を緩めてもいいだろう。

「わたし……いつの間にここに……」

「覚えてないのか?」

「ここは……どこですか? この階層って……」

「ダンジョン10階層だ。ここに来た途端、急にお前の様子がおかしくなった」

 楓香が目を見開いた。

 我に返ったように体を強張こわばらせ、何かから逃げようとする。

「10階層が怖いのか?」

「才斗くん、わたしはどうしてここに? 9階層まで来たのは覚えてるんですけど……その後の記憶がなくて……」

 気が動転しているようなので、ひとまずは10階層から出た方がいいのか?

 まだ楓香の状況が確実に把握できたわけじゃないので、判断はできない。もう少し様子を見よう。

「楓香は10階層に来たことがあるんだな?」

「はい……一度だけ」

 10階層の経験がないだろうと尋ねた時、楓香の返答は半分正解というものだった。

 そして――。

『――確かにわたしは、10階層を突破・・していません』

 階層を突破するというのは、その階層に生息するボス級のモンスターを倒すことを指す。

 つまり、あの・・楓香の発言は10階層のボス級モンスターは倒せなかったということを示唆していた。しかし、それは倒せなかっただけであり、10階層に来た経験がないわけではない。

「初めて10階層に潜った時、何があった?」

「わたしは……」

 まだ冷静に話せるような状況じゃないか。

 そんな楓香に対し、冷酷な俺は問い詰めていく。

「強烈なトラウマを生み出した出来事が、その時にあったんじゃないのか?」

「……やめて……ください……」

「何があった? モンスターに半殺しにされたのか? 仲間を見殺しにしたのか? 階層にレベルに適さないモンスターでも出てきたのか?」

「思い出させないで……お願い……」

 俺にも思い出したくないほどつらい過去はある。

 だが、それを乗り越えなければ強くはなれない。それが現実だ。

「もうそのトラウマから逃げてはいけない。俺に全部話せ。そして乗り越えろ」

「うるさい……うるさい……」

「話せ!」

「うるさいうるさいうるさいうるさい――」

「楓香!」

「うぁぁぁぁぁあああああ!」

 この瞬間、俺の知る楓香は眠りにつき、また楓香が姿を現した。
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