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上司としての責務編
第25話 ヒロインにファーストキスを奪われるというアレ
「わたしは黒瀬才斗を殺すためにあなたの部下になった」
偽楓香が俺に襲いかかる。
冷たいその声には深い憎しみが込められているようだった。
「どうして俺を?」
「黒瀬才斗は同い年のAランク冒険者で、組織のエリート。わたしは第二の黒瀬才斗とまで言われ、期待され、そして……」
偽楓香の魔力が増大する。
ついには可視化できるほどにまで膨れ上がった。
「わたしは黒瀬才斗を超えなくてはならない! 常に過去の黒瀬才斗と比較されてきた! だからわたしは……あなたを殺したい!」
「随分と強い殺意だな」
強烈な感情をぶつけてくる偽楓香に対し、俺はドライだ。
淡々とした口調で、相手の本音を引き出していく。
少なくとも今わかる範囲では、この偽楓香は俺へのライバル心を殺意にまで発展させた存在だということ。
普段の楓香は俺に対して好意的で、憧憬のような感情を持っている。
それとは正反対の、黒い感情。
その2つの感情の共存が難しかったんだろう。
「お前は俺の知ってる楓香じゃない。別人格といったところか」
「気付けば黒瀬才斗を憎んでた。わたしはあなたを憎み、恨むことしか考えられない」
「いつもの楓香はどうした? お前の中にいるのか?」
「今はわたしが主導権を握っている!」
何かがきっかけとなって、偽楓香が前面に押し出された。
俺の勘が正しければ、それはきっと10階層に潜ったことだろう。強烈なトラウマへの恐怖が、彼女の中のもう1つの人格を覚醒させた。
「お前が楓香でないのなら……そうだな、黒桃とでも呼ばせてもらおうか」
「――ッ。わたしを馬鹿にしてるのか!」
呑気な俺。
本気な黒桃。
「そうだ。馬鹿にしている。お前は弱い。自分の弱さを俺のせいにしているだけだ。ただの責任転嫁に過ぎない。理不尽なことだ」
「黒瀬ぇぇぇえええ!」
「叫ぶ力があるなら、俺を倒してみろ」
俺の口からスラスラと出てくるのは挑発の言葉。
挑発には様々な用途がある。
敵を動揺させるために使ったり、自分の意図した方向に敵を誘導するために使ったり。
だが、この挑発は相手の力を引き出すためのものだ。
――本気の黒桃と、俺は戦いたい。
黒桃の型が変わった。
――ナゴルニ―派。攻撃特化型か。今の黒桃らしいな。
黒桃の攻撃に合わせてじわじわと後退する。
手首を上手く動かしながら、怒りに任せた単調な攻撃を冷静に弾いていく。
「そんな実力で、俺に勝てるとでも思ったか?」
「うあぁぁぁあああ!」
「品のない剣術だな」
黒桃が膝をついた。
剣を乱暴に地面に刺し、戦う意志がないことをアピールする。
黒桃は負けた。
俺に、じゃない。自分に負けたんだ。
***
「わたしは12歳の時、シングルマザーの母親の生活を助けるため、【選別の泉】で試練を受けた……」
すっかり戦意喪失した黒桃が、自分の過去を打ち明け始めた。
「母は最初は反対してた。でもわたしの強い気持ちで、どうにか半年間の申請が通って【選別の泉】に入ることができた」
未成年は【選別の泉】に入るのに、特別な申請書が必要だ。
申請書はもちろん成人でも必要なのだが、保護者の許可をもらい、政府でいろんな手続きを受け、最終的に申請が通るのは半年後。
それで申請が受理されないこともあるので、通ったらラッキーという具合だ。
俺は不法侵入して勝手に【選別の泉】に入ったため、イレギュラーではあるのだが。
「それで冒険者になったのか」
「驚いたのは、わたしには思っていたよりも才能があったということ。最初の【選別の泉】の試練を乗り越えた時点で、わたしのランクはEランクだった」
普通は最初Fランクから始まる。
だが、才能がある者は最初から高ランクで覚醒することもある。
俺の場合は最初からDランクだと認定された。それで剣騎及び【ウルフパック】に目をつけられたわけだ。
「それからわたしは【ウルフパック】の育成所やダンジョンで特殊な訓練を受け、ここまで来た」
黒桃の表情はまだ闇に包まれている。
「その訓練で、教官からは第二の黒瀬才斗だと勝手に期待され、わたしもその期待に応えるためにあなたを超えることだけを考えて訓練を続けてきた。といっても、その頃はその感情に気付いてなかった。わたしは本気でブラックに憧れていたし、好意を持っていたから」
「その時点でお前は生まれていなかった、ということか?」
「元々あなたに対してのライバル心はあった。でも、そう。それまでのわたし――いや、白桃楓香はあなたに憧れる少女だった」
少し前に楓香が言っていた、俺の活躍に救われていた、という話は本当だったんだろう。
それなら問題は、何がきっかけでこの人格が生まれたのかということ。
「去年、わたしは同期の女性冒険者と2人でダンジョンの10階層に来た。わたしにとって初めての階層。実力的には十分攻略できる階層だった」
「……」
今の俺と黒桃の距離は近い。
あえて近い距離で話を聞くことで、本音を引き出す目的だ。
黒桃の冷たい吐息がかかる。
「でも……本来はあり得ないことが起きた。10階層にキングオーガが現れて、仲間を殺し、わたしも半殺しにされた……そして、わたしが生まれた」
「まさか……」
「わたしの頭には黒瀬才斗のことしかなかった。あなたのように戦いたい。あなたが憎い。わたしはあなたが……」
黒桃の吐息に熱がこもる。
生ぬるい吐息が俺の頬を撫でた。
「あなたのことが……ずっと好きだった。狂ってしまうほどに……」
「……は?」
「最初からこうすべきだった」
そう言って、黒桃は俺の顔をつかむと、強引に自分の唇に引き寄せた。
黒桃の唇と俺の唇が重なる。
無理やり舌を絡めてくる。
貪るようなキスだ。
状況が混沌を極めていて、俺は黒桃からの唐突のディープキスに抵抗できなかった。
偽楓香が俺に襲いかかる。
冷たいその声には深い憎しみが込められているようだった。
「どうして俺を?」
「黒瀬才斗は同い年のAランク冒険者で、組織のエリート。わたしは第二の黒瀬才斗とまで言われ、期待され、そして……」
偽楓香の魔力が増大する。
ついには可視化できるほどにまで膨れ上がった。
「わたしは黒瀬才斗を超えなくてはならない! 常に過去の黒瀬才斗と比較されてきた! だからわたしは……あなたを殺したい!」
「随分と強い殺意だな」
強烈な感情をぶつけてくる偽楓香に対し、俺はドライだ。
淡々とした口調で、相手の本音を引き出していく。
少なくとも今わかる範囲では、この偽楓香は俺へのライバル心を殺意にまで発展させた存在だということ。
普段の楓香は俺に対して好意的で、憧憬のような感情を持っている。
それとは正反対の、黒い感情。
その2つの感情の共存が難しかったんだろう。
「お前は俺の知ってる楓香じゃない。別人格といったところか」
「気付けば黒瀬才斗を憎んでた。わたしはあなたを憎み、恨むことしか考えられない」
「いつもの楓香はどうした? お前の中にいるのか?」
「今はわたしが主導権を握っている!」
何かがきっかけとなって、偽楓香が前面に押し出された。
俺の勘が正しければ、それはきっと10階層に潜ったことだろう。強烈なトラウマへの恐怖が、彼女の中のもう1つの人格を覚醒させた。
「お前が楓香でないのなら……そうだな、黒桃とでも呼ばせてもらおうか」
「――ッ。わたしを馬鹿にしてるのか!」
呑気な俺。
本気な黒桃。
「そうだ。馬鹿にしている。お前は弱い。自分の弱さを俺のせいにしているだけだ。ただの責任転嫁に過ぎない。理不尽なことだ」
「黒瀬ぇぇぇえええ!」
「叫ぶ力があるなら、俺を倒してみろ」
俺の口からスラスラと出てくるのは挑発の言葉。
挑発には様々な用途がある。
敵を動揺させるために使ったり、自分の意図した方向に敵を誘導するために使ったり。
だが、この挑発は相手の力を引き出すためのものだ。
――本気の黒桃と、俺は戦いたい。
黒桃の型が変わった。
――ナゴルニ―派。攻撃特化型か。今の黒桃らしいな。
黒桃の攻撃に合わせてじわじわと後退する。
手首を上手く動かしながら、怒りに任せた単調な攻撃を冷静に弾いていく。
「そんな実力で、俺に勝てるとでも思ったか?」
「うあぁぁぁあああ!」
「品のない剣術だな」
黒桃が膝をついた。
剣を乱暴に地面に刺し、戦う意志がないことをアピールする。
黒桃は負けた。
俺に、じゃない。自分に負けたんだ。
***
「わたしは12歳の時、シングルマザーの母親の生活を助けるため、【選別の泉】で試練を受けた……」
すっかり戦意喪失した黒桃が、自分の過去を打ち明け始めた。
「母は最初は反対してた。でもわたしの強い気持ちで、どうにか半年間の申請が通って【選別の泉】に入ることができた」
未成年は【選別の泉】に入るのに、特別な申請書が必要だ。
申請書はもちろん成人でも必要なのだが、保護者の許可をもらい、政府でいろんな手続きを受け、最終的に申請が通るのは半年後。
それで申請が受理されないこともあるので、通ったらラッキーという具合だ。
俺は不法侵入して勝手に【選別の泉】に入ったため、イレギュラーではあるのだが。
「それで冒険者になったのか」
「驚いたのは、わたしには思っていたよりも才能があったということ。最初の【選別の泉】の試練を乗り越えた時点で、わたしのランクはEランクだった」
普通は最初Fランクから始まる。
だが、才能がある者は最初から高ランクで覚醒することもある。
俺の場合は最初からDランクだと認定された。それで剣騎及び【ウルフパック】に目をつけられたわけだ。
「それからわたしは【ウルフパック】の育成所やダンジョンで特殊な訓練を受け、ここまで来た」
黒桃の表情はまだ闇に包まれている。
「その訓練で、教官からは第二の黒瀬才斗だと勝手に期待され、わたしもその期待に応えるためにあなたを超えることだけを考えて訓練を続けてきた。といっても、その頃はその感情に気付いてなかった。わたしは本気でブラックに憧れていたし、好意を持っていたから」
「その時点でお前は生まれていなかった、ということか?」
「元々あなたに対してのライバル心はあった。でも、そう。それまでのわたし――いや、白桃楓香はあなたに憧れる少女だった」
少し前に楓香が言っていた、俺の活躍に救われていた、という話は本当だったんだろう。
それなら問題は、何がきっかけでこの人格が生まれたのかということ。
「去年、わたしは同期の女性冒険者と2人でダンジョンの10階層に来た。わたしにとって初めての階層。実力的には十分攻略できる階層だった」
「……」
今の俺と黒桃の距離は近い。
あえて近い距離で話を聞くことで、本音を引き出す目的だ。
黒桃の冷たい吐息がかかる。
「でも……本来はあり得ないことが起きた。10階層にキングオーガが現れて、仲間を殺し、わたしも半殺しにされた……そして、わたしが生まれた」
「まさか……」
「わたしの頭には黒瀬才斗のことしかなかった。あなたのように戦いたい。あなたが憎い。わたしはあなたが……」
黒桃の吐息に熱がこもる。
生ぬるい吐息が俺の頬を撫でた。
「あなたのことが……ずっと好きだった。狂ってしまうほどに……」
「……は?」
「最初からこうすべきだった」
そう言って、黒桃は俺の顔をつかむと、強引に自分の唇に引き寄せた。
黒桃の唇と俺の唇が重なる。
無理やり舌を絡めてくる。
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