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上司としての責務編
第26話 人気を確かめるための冒険者ランキング
俺は楓香の2つ目の人格にディープキスされていた。
そもそもキスなんてしたことがない。
ファーストキスをよく知らない殺意むき出しの女に奪われた、ということだ。
黒桃が唇を離すと、彼女の唾液が糸のように伸びた。
生々しい。
本当にキスしたんだな。
「そういうのはやめてくれ」
「わたしも……どうしてこんなことをしたのかわからない……黒瀬才斗を何よりも憎んでいるはずなのに……」
ピンク色の髪をかきむしり、顔を歪める黒桃。
その目にはまだ俺への殺意が潜んでいる。
「1つ、質問してもいいか?」
「……?」
「お前はさっき、自分が主導権を握ってると言った。多重人格の場合、他の人格が主導権を握っていれば別の人格はその記憶を持っていないことがほとんどだ。だが、これまでダンジョンに潜っている時の記憶を、楓香はしっかりと持っていた」
「曖昧だった……」
「?」
「ダンジョンに潜っている際は自己防衛のためにわたしが表に出る。でも楓香はそんなことに気付かず、自分が戦っていると信じ込んでいる」
「今はどうなんだ?」
「10階層に来たことで、本能がわたしに全てを委ねた。だから今、白桃楓香は眠っている」
「そういうことか」
恐怖やトラウマから、人格が分離してしまうことがある。
多重人格というのは病気だ。
想像もできないようなストレスを受け止めきれなくなり、別の人格がその受け皿として誕生する。
何年か前に見たドキュメンタリー番組を思い出しながら、自分なりの見解を考えた。
「お前は楓香の中に元からあった、俺への強烈な執着心を剝ぎ取った存在。そのトリガーは10階層への恐怖……厄介だな」
今言うことではないのかもしれないが、楓香の唇は柔らかくてふわふわしていた。
……本当に場違いなコメントだな。
「楓香に会いたい。彼女を起こしてくれないか?」
「起こしたところで、状況は変わらない」
「本当にそう思うか?」
「10階層のトラウマ、キングオーガへの恐怖……それをわたし抜きで乗り切れるとは到底思えない」
「お前という人格があることで、楓香を恐怖から守っていた、そういうことか?」
黒桃が頷く。
表情は冷たい。
それなら黒桃は楓香の騎士。
弱いお姫様を守るのは騎士の役目だ。
「賭けをしよう。もし俺が勝ったら、お前には消えてもらう。俺が負ければ……そうだな……お前に斬られて死んでやる」
「――ッ。 賭け?」
「そうだ。今からお前には楓香を起こしてもらう。そして俺は、楓香にあのトラウマを乗り越えさせ、キングオーガを倒させる」
「そんなの不可能に決まってる」
「賭けに負けるのが怖いか?」
黒桃の手指は痙攣していた。
――これで楓香を守る?
ふざけるな。
お前が何よりもトラウマに囚われている。お前が楓香を縛り、恐怖を倍増させている。
「……わかった……」
黒桃の意識が飛んだ。
しばらく虚ろな瞳をしていたかと思うと、10秒後には生気が戻ってきた。
「久しぶりだな、楓香」
「……才斗くん?」
なんだかほっとする。
この時、俺は無意識のうちに微笑んでいたのかもしれない。
***
山口と青木は大阪市の喫茶店に来ていた。
大阪のダンジョンが徒歩5分圏内にあるような場所だ。
「約束は午後6時ってことでいいのかい?」
「スミレさんが6時からがいい言うてきたからなぁ」
青木の人生初の彼女の名前はスミレ。
若くて美人だという女性。
――全部真一君の妄想だったりしないよな……。
山口は多少心配になりながらも、この喫茶店までついてきたのである。店内はそこまで広くなく、客も今は2組ほど。
店主は愛想の良さそうなイケオジだ。
「なんや、真一君の友達か?」
「あ、はい……」
店主から声をかけられた山口は、苦笑いを向ける。
「随分と若いなぁ。20代前半くらいやろ? ……って、あんたソードナイトやん!」
「マスター、ちと声大きいんちゃいます?」
イケオジの店主は山口の冒険者としての正体に気付くと、目を丸くして声を張り上げた。
すかさず青木が笑いながら注意するが、そんなことは頭に入ってこない。
「うちの嫁ハンがあんたのグッズいっぱい持ってるで~。冒険者ランキングも常連やもんな。なんで今までここ来てくれへんかったん?」
「いや~、大阪は結構来るんですけどね~」
すっかり気分がいい山口。
大阪でも人気があることにほっとしている。
冒険者はテレビに出る芸能人よりも知名度が高く、ファン層も厚い。
人気や活躍に応じて政府によって作成される冒険者ランキングでは毎度上位につけている山口。
関西でも、地元の長崎がある九州でも人気だ。10代の頃は東京ではなく、福岡を拠点に活動していたことも大きい。
「なんや店主にデレデレやな」
「何を言ってるんだい真一君。僕はちやほやされて調子に乗るようなチョロい冒険者じゃないさ」
本人は否定するが、結構調子に乗っている。
他の2組の客からもキラキラした目を向けられ、すっかり気分がいいのだ。
そんな調子に乗った山口がコーヒーを頼み終わると、カランカランという扉の音が店内に響いた。
新しい客だ。
「お、スミレさんや。めっちゃ可愛いやろ?」
「――ッ」
扉を開けて入ってきたのは、流れるような黒髪ロングに漆黒の瞳を持つ、超絶美女だった。
そもそもキスなんてしたことがない。
ファーストキスをよく知らない殺意むき出しの女に奪われた、ということだ。
黒桃が唇を離すと、彼女の唾液が糸のように伸びた。
生々しい。
本当にキスしたんだな。
「そういうのはやめてくれ」
「わたしも……どうしてこんなことをしたのかわからない……黒瀬才斗を何よりも憎んでいるはずなのに……」
ピンク色の髪をかきむしり、顔を歪める黒桃。
その目にはまだ俺への殺意が潜んでいる。
「1つ、質問してもいいか?」
「……?」
「お前はさっき、自分が主導権を握ってると言った。多重人格の場合、他の人格が主導権を握っていれば別の人格はその記憶を持っていないことがほとんどだ。だが、これまでダンジョンに潜っている時の記憶を、楓香はしっかりと持っていた」
「曖昧だった……」
「?」
「ダンジョンに潜っている際は自己防衛のためにわたしが表に出る。でも楓香はそんなことに気付かず、自分が戦っていると信じ込んでいる」
「今はどうなんだ?」
「10階層に来たことで、本能がわたしに全てを委ねた。だから今、白桃楓香は眠っている」
「そういうことか」
恐怖やトラウマから、人格が分離してしまうことがある。
多重人格というのは病気だ。
想像もできないようなストレスを受け止めきれなくなり、別の人格がその受け皿として誕生する。
何年か前に見たドキュメンタリー番組を思い出しながら、自分なりの見解を考えた。
「お前は楓香の中に元からあった、俺への強烈な執着心を剝ぎ取った存在。そのトリガーは10階層への恐怖……厄介だな」
今言うことではないのかもしれないが、楓香の唇は柔らかくてふわふわしていた。
……本当に場違いなコメントだな。
「楓香に会いたい。彼女を起こしてくれないか?」
「起こしたところで、状況は変わらない」
「本当にそう思うか?」
「10階層のトラウマ、キングオーガへの恐怖……それをわたし抜きで乗り切れるとは到底思えない」
「お前という人格があることで、楓香を恐怖から守っていた、そういうことか?」
黒桃が頷く。
表情は冷たい。
それなら黒桃は楓香の騎士。
弱いお姫様を守るのは騎士の役目だ。
「賭けをしよう。もし俺が勝ったら、お前には消えてもらう。俺が負ければ……そうだな……お前に斬られて死んでやる」
「――ッ。 賭け?」
「そうだ。今からお前には楓香を起こしてもらう。そして俺は、楓香にあのトラウマを乗り越えさせ、キングオーガを倒させる」
「そんなの不可能に決まってる」
「賭けに負けるのが怖いか?」
黒桃の手指は痙攣していた。
――これで楓香を守る?
ふざけるな。
お前が何よりもトラウマに囚われている。お前が楓香を縛り、恐怖を倍増させている。
「……わかった……」
黒桃の意識が飛んだ。
しばらく虚ろな瞳をしていたかと思うと、10秒後には生気が戻ってきた。
「久しぶりだな、楓香」
「……才斗くん?」
なんだかほっとする。
この時、俺は無意識のうちに微笑んでいたのかもしれない。
***
山口と青木は大阪市の喫茶店に来ていた。
大阪のダンジョンが徒歩5分圏内にあるような場所だ。
「約束は午後6時ってことでいいのかい?」
「スミレさんが6時からがいい言うてきたからなぁ」
青木の人生初の彼女の名前はスミレ。
若くて美人だという女性。
――全部真一君の妄想だったりしないよな……。
山口は多少心配になりながらも、この喫茶店までついてきたのである。店内はそこまで広くなく、客も今は2組ほど。
店主は愛想の良さそうなイケオジだ。
「なんや、真一君の友達か?」
「あ、はい……」
店主から声をかけられた山口は、苦笑いを向ける。
「随分と若いなぁ。20代前半くらいやろ? ……って、あんたソードナイトやん!」
「マスター、ちと声大きいんちゃいます?」
イケオジの店主は山口の冒険者としての正体に気付くと、目を丸くして声を張り上げた。
すかさず青木が笑いながら注意するが、そんなことは頭に入ってこない。
「うちの嫁ハンがあんたのグッズいっぱい持ってるで~。冒険者ランキングも常連やもんな。なんで今までここ来てくれへんかったん?」
「いや~、大阪は結構来るんですけどね~」
すっかり気分がいい山口。
大阪でも人気があることにほっとしている。
冒険者はテレビに出る芸能人よりも知名度が高く、ファン層も厚い。
人気や活躍に応じて政府によって作成される冒険者ランキングでは毎度上位につけている山口。
関西でも、地元の長崎がある九州でも人気だ。10代の頃は東京ではなく、福岡を拠点に活動していたことも大きい。
「なんや店主にデレデレやな」
「何を言ってるんだい真一君。僕はちやほやされて調子に乗るようなチョロい冒険者じゃないさ」
本人は否定するが、結構調子に乗っている。
他の2組の客からもキラキラした目を向けられ、すっかり気分がいいのだ。
そんな調子に乗った山口がコーヒーを頼み終わると、カランカランという扉の音が店内に響いた。
新しい客だ。
「お、スミレさんや。めっちゃ可愛いやろ?」
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