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休日と大阪出張編
第33話 裏の姿の方が好感度上がるというギャップ
「私は君の両親の友人だった」
西園寺が話し始める。
冒険者記念館にいるのは、俺と楓香、西園寺の3人だけ。
まるで貸し切られたような空間。
西園寺の声はいつも通り低いが、耳元で爆音を鳴らされた時のような強烈な圧迫感はなく、穏やかだった。
「北斗さんと才華さん……2人の冒険者は私の友人であり、頼りになる冒険者としての先輩だった」
「俺の両親が……」
知らされていたわけではなかったが、西園寺と俺の両親の間に何らかの繋がりがあるのではないかとは思っていた。
年齢的に考えると、母が西園寺より3歳年上で、父が5歳年上。
今日まで生きていたのなら、37歳と39歳。
「私のことを覚えているか? 黒瀬が――いや、才君が幼い頃、私は何度も君に会っている。才君は私を『お兄ちゃん』と呼び、よく懐いていた」
――才君。
この呼び方は、かつて母が俺を呼ぶ時に使っていた。
「君の姉は逆に、私に懐かず、ずっと北斗さんに甘えていた」
「姉? 才斗くんにお姉ちゃんがいたんですか? その話、聞いてないんですけど」
ここで楓香が割り込んでくる。
ずっと黙ってくれるかと思っていたが、そんなことはないか。
「俺の姉は3歳の頃、行方不明になった」
「黒瀬天音……あの娘が行方不明になった時、私は【ウルフパック】の冒険者全員に捜索指示を出した。東京はくまなく調べたつもりだったが……見つかることはなかった」
西園寺は悔しそうに唇を嚙み締めた。
まだあの時のことを引きずっているようだ。
俺はまだ0歳だったので記憶はないが、たまに両親が姉の話をしてくれることがあった。
『才君には、お姉ちゃんがいるんだよ』
母は過去形じゃなく現在形を使った。
それはつまり、まだどこかで生きている可能性を諦めていない、ということだ。
「社長は、俺の姉がどこかで生きていると思いますか?」
「……諦めてはない。私が考えているのは、何者かに誘拐されたという可能性だ。理由はわからないが……あれだけ捜索したのに遺体も痕跡も見つからなかった。むしろその可能性が高いのかもしれない」
俺の姉がどこかで生きている。
その事実があったところで、俺が何か感じることはない。
もはや俺にとっては他人だ。
ただ、もし姉が生きていて、幼い頃の記憶を少しでも覚えているのなら……俺の知らない両親の話を、聞きたい。
「才君……両親の死に関しての話だが――」
「大丈夫です」
恐る恐る、西園寺が口を開く。
普段の西園寺からは想像できない、何かに怯えているような表情。
俺はそれが見たくなくて、これ以上何かを知るのが怖くて、無礼にも話を遮った。
「俺たちはそろそろ失礼します。社長の貴重な休日をこれ以上邪魔するわけにはいきませんから」
「だが――」
「冒険者パーティの件は考えてます。安心してください。では」
楓香は俺と西園寺をきょろきょろと交互に見ていたが、俺に手を引っ張られると嬉しそうにその手を絡め、一緒に記念館を出た。
***
山口と青木の大阪ランチは、スミレが来るとすぐに終わりを告げた。
「真一さん、少し用事を思い出したので、今日は帰ります。ごめんなさい」
スミレの一言。
青木は彼女にメロメロなため、特に用事の内容を聞いたりすることなくスミレを帰した。
スミレは山口と店主に頭を下げると、そそくさと店を出た。
***
――才斗に顔立ちが似てるからって、まさか、ね。
その翌日の土曜日。
ちょうど黒瀬たちが冒険者ワールドを楽しんでいる頃。
山口はまだ大阪で青木と行動を共にしていた。本来は日帰りの予定だったのだが、スミレを見たことでもうしばらく大阪に滞在することを決めたのだ。
現在時刻は午後2時。
ちょうど東京では、黒瀬たちが記念館を出た頃だ。
「なんや急に気が変わったってぇ。おれの彼女は奪えんで」
「そんなつもりはないよ。せっかくだからダンジョンに潜ろうかと思ってね」
大阪のダンジョン。
東京にできたダンジョンとは構造が違えど、出現するモンスターはさほど変わらない。結局、どのダンジョンに潜っても大きな違いはない。
軽いダンジョン探索を終え、地上に戻る。
「うわ、13件の着信履歴が……」
ダンジョン内は電波が通じない。
連絡を取り合うことはできない。
ダンジョンに潜っていた僅か1時間足らずの間に、同じ人物から13回も電話がかかっている。その人物とは――。
「西園寺さん、緊急?」
『緊急なんだぁぁああ! オレを助けてくれぇぇええ!』
――【ウルフパック】の社長で、Sランク冒険者の西園寺龍河だった。
青木に許可をもらい、少し離れた場所で電話をかけ直している。
「才斗と何かあったってことかい?」
西園寺が情けない姿を見せるのは、ほとんど黒瀬才斗が絡む時だ。
『そうなんだよぅ。また両親のこと言えなかったんだぁぁああ』
「な、泣いてる?」
『うん』
わかりやすく山口が溜め息をつく。
その溜め息がちょうどいいトリガーになったのか、西園寺の声の調子が変わった。
『才君とはさっき冒険者ワールドで会った。その際、少し話す機会があったんだが、そこで彼の両親のことを話そうと思ったわけで……結局、話せなかった』
「相当落ち込んでるみたいだね」
『そうなんだよぅ! 一応天音ちゃんのことは少し話したけど――』
「そうだ! 僕もそのことで話がある」
『ふぇ?』
「僕の勘違いかもしれないけど、聞いてほしい。長年行方不明だった才斗の姉——黒瀬天音が、見つかったかもしれない」
西園寺が話し始める。
冒険者記念館にいるのは、俺と楓香、西園寺の3人だけ。
まるで貸し切られたような空間。
西園寺の声はいつも通り低いが、耳元で爆音を鳴らされた時のような強烈な圧迫感はなく、穏やかだった。
「北斗さんと才華さん……2人の冒険者は私の友人であり、頼りになる冒険者としての先輩だった」
「俺の両親が……」
知らされていたわけではなかったが、西園寺と俺の両親の間に何らかの繋がりがあるのではないかとは思っていた。
年齢的に考えると、母が西園寺より3歳年上で、父が5歳年上。
今日まで生きていたのなら、37歳と39歳。
「私のことを覚えているか? 黒瀬が――いや、才君が幼い頃、私は何度も君に会っている。才君は私を『お兄ちゃん』と呼び、よく懐いていた」
――才君。
この呼び方は、かつて母が俺を呼ぶ時に使っていた。
「君の姉は逆に、私に懐かず、ずっと北斗さんに甘えていた」
「姉? 才斗くんにお姉ちゃんがいたんですか? その話、聞いてないんですけど」
ここで楓香が割り込んでくる。
ずっと黙ってくれるかと思っていたが、そんなことはないか。
「俺の姉は3歳の頃、行方不明になった」
「黒瀬天音……あの娘が行方不明になった時、私は【ウルフパック】の冒険者全員に捜索指示を出した。東京はくまなく調べたつもりだったが……見つかることはなかった」
西園寺は悔しそうに唇を嚙み締めた。
まだあの時のことを引きずっているようだ。
俺はまだ0歳だったので記憶はないが、たまに両親が姉の話をしてくれることがあった。
『才君には、お姉ちゃんがいるんだよ』
母は過去形じゃなく現在形を使った。
それはつまり、まだどこかで生きている可能性を諦めていない、ということだ。
「社長は、俺の姉がどこかで生きていると思いますか?」
「……諦めてはない。私が考えているのは、何者かに誘拐されたという可能性だ。理由はわからないが……あれだけ捜索したのに遺体も痕跡も見つからなかった。むしろその可能性が高いのかもしれない」
俺の姉がどこかで生きている。
その事実があったところで、俺が何か感じることはない。
もはや俺にとっては他人だ。
ただ、もし姉が生きていて、幼い頃の記憶を少しでも覚えているのなら……俺の知らない両親の話を、聞きたい。
「才君……両親の死に関しての話だが――」
「大丈夫です」
恐る恐る、西園寺が口を開く。
普段の西園寺からは想像できない、何かに怯えているような表情。
俺はそれが見たくなくて、これ以上何かを知るのが怖くて、無礼にも話を遮った。
「俺たちはそろそろ失礼します。社長の貴重な休日をこれ以上邪魔するわけにはいきませんから」
「だが――」
「冒険者パーティの件は考えてます。安心してください。では」
楓香は俺と西園寺をきょろきょろと交互に見ていたが、俺に手を引っ張られると嬉しそうにその手を絡め、一緒に記念館を出た。
***
山口と青木の大阪ランチは、スミレが来るとすぐに終わりを告げた。
「真一さん、少し用事を思い出したので、今日は帰ります。ごめんなさい」
スミレの一言。
青木は彼女にメロメロなため、特に用事の内容を聞いたりすることなくスミレを帰した。
スミレは山口と店主に頭を下げると、そそくさと店を出た。
***
――才斗に顔立ちが似てるからって、まさか、ね。
その翌日の土曜日。
ちょうど黒瀬たちが冒険者ワールドを楽しんでいる頃。
山口はまだ大阪で青木と行動を共にしていた。本来は日帰りの予定だったのだが、スミレを見たことでもうしばらく大阪に滞在することを決めたのだ。
現在時刻は午後2時。
ちょうど東京では、黒瀬たちが記念館を出た頃だ。
「なんや急に気が変わったってぇ。おれの彼女は奪えんで」
「そんなつもりはないよ。せっかくだからダンジョンに潜ろうかと思ってね」
大阪のダンジョン。
東京にできたダンジョンとは構造が違えど、出現するモンスターはさほど変わらない。結局、どのダンジョンに潜っても大きな違いはない。
軽いダンジョン探索を終え、地上に戻る。
「うわ、13件の着信履歴が……」
ダンジョン内は電波が通じない。
連絡を取り合うことはできない。
ダンジョンに潜っていた僅か1時間足らずの間に、同じ人物から13回も電話がかかっている。その人物とは――。
「西園寺さん、緊急?」
『緊急なんだぁぁああ! オレを助けてくれぇぇええ!』
――【ウルフパック】の社長で、Sランク冒険者の西園寺龍河だった。
青木に許可をもらい、少し離れた場所で電話をかけ直している。
「才斗と何かあったってことかい?」
西園寺が情けない姿を見せるのは、ほとんど黒瀬才斗が絡む時だ。
『そうなんだよぅ。また両親のこと言えなかったんだぁぁああ』
「な、泣いてる?」
『うん』
わかりやすく山口が溜め息をつく。
その溜め息がちょうどいいトリガーになったのか、西園寺の声の調子が変わった。
『才君とはさっき冒険者ワールドで会った。その際、少し話す機会があったんだが、そこで彼の両親のことを話そうと思ったわけで……結局、話せなかった』
「相当落ち込んでるみたいだね」
『そうなんだよぅ! 一応天音ちゃんのことは少し話したけど――』
「そうだ! 僕もそのことで話がある」
『ふぇ?』
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