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休日と大阪出張編
第43話 もしかしたら希望があるかもという大きな期待
山口は涼しい顔で黒瀬がいた路地にたどり着いた。
「少し遅くなったよ……って、どこにもいないね」
少し渋い顔をして、肩を回す。
山口は唐突の襲撃者との戦いに勝利していた。
自身も手首の骨を折るという負傷をしたが、最終的にはあの筋骨隆々の冒険者を斬り倒し、こうして裏路地に駆け付けることができたのだ。
「あの冒険者にも逃げられたし、才斗もいない。僕の腕が落ちたってことなのかなぁ……」
対峙した冒険者は剣で斬られるという重傷を負ったものの、最後に目くらましのようなものを使って山口の視界から消え、そのまま逃走。
戦いには勝ったものの、敵の情報を聞き出しかたかった山口からすれば、これは負けだ。
「はぁ……東京に帰るか」
小さな溜め息をこぼし、近くのミックスジュース店に寄り道するのだった。
***
「もう戦う必要はない」
俺は戦意喪失したように見える黒瀬天音に向かって、優しく声をかけた。
「姉さん」
「才斗」
姉さんの手から剣が落ちた。
アスファルトと金属がぶつかる音。
不気味な声はもうない。奴の思い通りに事態が動いているのかもしれないという懸念はあるが、今は実の姉と戦わないことを優先したい。
「才斗は……私の弟?」
「そうだ。血の繋がった実の姉と弟だ」
「私は……あなたの仲間を殺した。青木真一の首を落とした……」
「……」
我に返った、とでも言うべきだろうか。
これまでの姉さんがあの不気味な声の主に洗脳されていたんだとしたら、真一を殺したことは彼女の意志ではなかったということ。
だが、実際に殺したのは事実だ。
人殺しの罪が消えるわけじゃない。
だとしたら、俺は姉さんを――ヴァイオレットを許すべきなんだろうか。真一は俺の仕事仲間であると同時に、交流のある友人だった。
そんな友人を無残に殺され……。
「まずは、真一を殺した場所に案内してくれないか?」
「……」
コクリ。
姉さんは申し訳なさそうな表情のまま、静かに頷いた。
***
案内されたのはアパートの部屋だった。
女性が住んでいるというような生活感があるが、これは真一に警戒されないためのセットだったらしい。
ワンルームなので当然狭いが、入った瞬間、違和感を感じた。
「ここに遺体があるんだよな?」
「外に運び出すのはリスクがある。だから、体を切り刻んで冷蔵庫に入れるよう指示を受けた」
「にしては、臭いがしないな」
「……」
高ランク冒険者の嗅覚は鋭い。
一般人にとっては僅かなものでも、嗅ぎ分けることができるほど。
姉さんは眉を細め、少し慌てた様子で冷蔵庫に近付いていった。
そして勢いよく冷蔵庫の扉を開ける。
「……!」
「真一はどこにもいないな」
「確かにここに保存したはず……」
剣騎が言っていたことを思い出す。
彼は示唆していた。
真一が生きている可能性というのを。
だが、そのからくりは不明だ。姉さんが殺したのは別の人物だった、という説も、その遺体がないようでは考えにくい。
「1つ聞いてもいいか?」
「……」
「殺される直前、真一の様子はどうだった?」
「あの男は少しも動揺していなかった。むしろ、私の正体に気付いてから余計に口数が多くなったような……」
それは吉と捉えるか凶と捉えるか。
普通の場合、口数が多くなるというのは焦っている証拠だと考えることができる。だが、真一は普段からおしゃべりな男。
そんな男がさらにしゃべり出したということは……。
どんな場合も推測だ。
だが、真一には何か考えや隠し技があったのではないかと思う。
「真一はSランク冒険者だ。普通に俺より手ごわい相手だってことだな」
「……それはどういう――」
「まずは東京に行きたい。そしたら答えがわかる気がする」
「東京……あ――ッ!」
急に姉さんが叫ぶ。
何かを思い出したように。
「あなたのパートナーが危ない」
「楓香のことか?」
「山口剣騎も、一ノ瀬信長も、そして白桃楓香も、それぞれ幹部の冒険者が担当して排除することになっている」
「幹部の冒険者……どのくらいの実力なんだ?」
「少なくとも、3人とも私より強い」
それはまずい。
俺や真一の対応に当たったのがヴァイオレットこと黒瀬天音だった。
そう考えれば、さらに強い剣騎や一ノ瀬には彼女以上の強さを持つ実力者が割り振られるはず。
剣騎や一ノ瀬であれば、なんとか対応できるだろう。
これも楽観的だが、問題はその2人じゃない。
Cランク冒険者の楓香だ。
「どれくらいの猶予がある?」
「対象者の動きが把握でき次第動くことになっている。人気の少ない場所にいることが条件。ただ、山口剣騎は才斗の応援に行かせないための足止め」
「剣騎と一ノ瀬はともかく、楓香のところへ行きたい」
「それなら、新幹線だと遅い」
姉さんは険しい表情のままだったが、行動は早かった。
すぐさま部屋の窓を開け、飛び降りる。
俺もそれに続いた。
「私の移動手段だと一瞬で東京に着く。まだ私が組織の一員だと認識されているのであれば、という条件付きで」
楓香を救うため、時間との戦いが始まった。
「少し遅くなったよ……って、どこにもいないね」
少し渋い顔をして、肩を回す。
山口は唐突の襲撃者との戦いに勝利していた。
自身も手首の骨を折るという負傷をしたが、最終的にはあの筋骨隆々の冒険者を斬り倒し、こうして裏路地に駆け付けることができたのだ。
「あの冒険者にも逃げられたし、才斗もいない。僕の腕が落ちたってことなのかなぁ……」
対峙した冒険者は剣で斬られるという重傷を負ったものの、最後に目くらましのようなものを使って山口の視界から消え、そのまま逃走。
戦いには勝ったものの、敵の情報を聞き出しかたかった山口からすれば、これは負けだ。
「はぁ……東京に帰るか」
小さな溜め息をこぼし、近くのミックスジュース店に寄り道するのだった。
***
「もう戦う必要はない」
俺は戦意喪失したように見える黒瀬天音に向かって、優しく声をかけた。
「姉さん」
「才斗」
姉さんの手から剣が落ちた。
アスファルトと金属がぶつかる音。
不気味な声はもうない。奴の思い通りに事態が動いているのかもしれないという懸念はあるが、今は実の姉と戦わないことを優先したい。
「才斗は……私の弟?」
「そうだ。血の繋がった実の姉と弟だ」
「私は……あなたの仲間を殺した。青木真一の首を落とした……」
「……」
我に返った、とでも言うべきだろうか。
これまでの姉さんがあの不気味な声の主に洗脳されていたんだとしたら、真一を殺したことは彼女の意志ではなかったということ。
だが、実際に殺したのは事実だ。
人殺しの罪が消えるわけじゃない。
だとしたら、俺は姉さんを――ヴァイオレットを許すべきなんだろうか。真一は俺の仕事仲間であると同時に、交流のある友人だった。
そんな友人を無残に殺され……。
「まずは、真一を殺した場所に案内してくれないか?」
「……」
コクリ。
姉さんは申し訳なさそうな表情のまま、静かに頷いた。
***
案内されたのはアパートの部屋だった。
女性が住んでいるというような生活感があるが、これは真一に警戒されないためのセットだったらしい。
ワンルームなので当然狭いが、入った瞬間、違和感を感じた。
「ここに遺体があるんだよな?」
「外に運び出すのはリスクがある。だから、体を切り刻んで冷蔵庫に入れるよう指示を受けた」
「にしては、臭いがしないな」
「……」
高ランク冒険者の嗅覚は鋭い。
一般人にとっては僅かなものでも、嗅ぎ分けることができるほど。
姉さんは眉を細め、少し慌てた様子で冷蔵庫に近付いていった。
そして勢いよく冷蔵庫の扉を開ける。
「……!」
「真一はどこにもいないな」
「確かにここに保存したはず……」
剣騎が言っていたことを思い出す。
彼は示唆していた。
真一が生きている可能性というのを。
だが、そのからくりは不明だ。姉さんが殺したのは別の人物だった、という説も、その遺体がないようでは考えにくい。
「1つ聞いてもいいか?」
「……」
「殺される直前、真一の様子はどうだった?」
「あの男は少しも動揺していなかった。むしろ、私の正体に気付いてから余計に口数が多くなったような……」
それは吉と捉えるか凶と捉えるか。
普通の場合、口数が多くなるというのは焦っている証拠だと考えることができる。だが、真一は普段からおしゃべりな男。
そんな男がさらにしゃべり出したということは……。
どんな場合も推測だ。
だが、真一には何か考えや隠し技があったのではないかと思う。
「真一はSランク冒険者だ。普通に俺より手ごわい相手だってことだな」
「……それはどういう――」
「まずは東京に行きたい。そしたら答えがわかる気がする」
「東京……あ――ッ!」
急に姉さんが叫ぶ。
何かを思い出したように。
「あなたのパートナーが危ない」
「楓香のことか?」
「山口剣騎も、一ノ瀬信長も、そして白桃楓香も、それぞれ幹部の冒険者が担当して排除することになっている」
「幹部の冒険者……どのくらいの実力なんだ?」
「少なくとも、3人とも私より強い」
それはまずい。
俺や真一の対応に当たったのがヴァイオレットこと黒瀬天音だった。
そう考えれば、さらに強い剣騎や一ノ瀬には彼女以上の強さを持つ実力者が割り振られるはず。
剣騎や一ノ瀬であれば、なんとか対応できるだろう。
これも楽観的だが、問題はその2人じゃない。
Cランク冒険者の楓香だ。
「どれくらいの猶予がある?」
「対象者の動きが把握でき次第動くことになっている。人気の少ない場所にいることが条件。ただ、山口剣騎は才斗の応援に行かせないための足止め」
「剣騎と一ノ瀬はともかく、楓香のところへ行きたい」
「それなら、新幹線だと遅い」
姉さんは険しい表情のままだったが、行動は早かった。
すぐさま部屋の窓を開け、飛び降りる。
俺もそれに続いた。
「私の移動手段だと一瞬で東京に着く。まだ私が組織の一員だと認識されているのであれば、という条件付きで」
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