ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

文字の大きさ
45 / 178
休日と大阪出張編

第45話 自分よりずっと強い敵を倒せという鬼畜

 人生初の瞬間移動は成功した。
 四肢が粉砕することもなく、姉さんとはぐれることもなかった。

『目的地に到着しました』

 アナウンサーのような丁寧なアナウンスが聞こえる。

「もう東京に着いたってことだよな?」

「そのはず」

 まだ装置の中だから外はわからない。

 実際、俺の感覚ではさっきの大阪と少しも変わってないわけだしな。見てみるまでは完全に信用できないということだ。

 扉が開き、外の世界が視界に入る。
 そこは見慣れた東京の景色——ではなく、ダンジョンの中だった。

「ダンジョン?」

「装置は東京のダンジョンの18階層に繋がっている。だからここは18階層のはず。私についてきて」

 姉さんが少しずつ話してくれるようになってきた。

 今では連続して3文以上のセリフもすんなりと言えている。

 大阪に空間転移装置があったのはダンジョン8階層の隠しスペース。
 きっと政府も把握していない場所だ。
 剣騎けんきの襲撃に行ったという別の幹部冒険者も、8階層から出てきたとのこと。

 つまり、大阪のダンジョンの8階層と、東京のダンジョンの18階層は繋がっているということだ。

 俺は冒険者として何年もやってきた。
 いつも潜っているダンジョンの構造くらい覚えている。ここは東京のダンジョンで間違いない。そう確信した。

「剣の音……」

 ここは多分階層の隅の方だろう。

 誰にも見つからないように視界が遮断され、特殊な加工がされているに違いない。

 だが、そんな階層に剣と剣がぶつかり合う音が響いていた。

楓香ふうかなのか?」

「行こう。白桃しらもも楓香を襲っている幹部は、私が知る限りCランクの手に負える相手ではない」

「姉さんは戦ったことがあるのか?」

「何度も。勝ったことはない」

「なるほど。よくわかった」

 むしろ、剣と剣がぶつかり合う音を聞いて安心した。
 まだ彼女は戦いを諦めていない。剣を握れているということは、そこまで大きな負傷をしていないのかもしれない。

 希望はある。
 俺たちが1秒でも早く駆け付ければ――。



 ***



才斗さいとくん!」

 俺の名を呼ぶ楓香。

 随分と時がたったように感じるが、実は数時間ぶりの再会。

 それなのに、お互いに大きな出来事を経験している。

佐藤さとうさんが――」

 何か大事なことを言おうとしたが、力負けして飛ばされる。
 楓香はそのまま壁に激突。

 少し前にヴァイオレットにやられた時とまったく構図は同じだ。だが、敵の強さは以前よりも上がっていることを考えれば、よくぞここまで耐え抜いたという感じだろう。

 楓香は自分のトラウマを乗り越え、キングオーガを始末している。

 それだけの強さがあるということだ。
 まだCランクになって日が浅いようだが、Bランクに昇格する日もそう遠くないはず。

「あとは俺たちで片付ける」

「わたし……」

 楓香はそのまま気絶した。
 また前回と同じだ。

 楓香と対峙していたのは、ハーフっぽい顔立ちをした背の高い女性冒険者。青緑色の長髪だ。

 ハーフといっても、日本とアメリカとか、カナダとかオーストラリアとかそのあたりだと思う。

「ヴァイオレット、これはどういうつもり?」

「私はもうヴァイオレットではない。私は才斗の姉、黒瀬くろせ天音あまね

「ヴェルウェザー様を裏切る、そう言いたいの?」

「そう。ヴェルウェザー様は私たちを利用してるだけ。ジェシカも気付いた方がいい」

 どうやら女性冒険者の名はジェシカというらしい。

 日本語は普通に違和感がないので、日本育ちなんだろう。

「利用されてることに気付いてなかったのが間抜けでしょ。ウチは最初から気付いてた。だからウチは、ヴェルウェザー様を利用してる」

「どういうこと?」

「ウチは冒険者を殺すのが好きでね。ヴェルウェザー様は冒険者を殺すことで報酬をくれる。ヴェルウェザー様がいれば、ウチのやってることが仕事になる」

 理屈は通っているが、考え方がサイコパスだ。

「楓香を殺すつもりだったのか?」

 時間稼ぎも兼ねて、聞いてみる。
 今は戦術を練る時間が欲しい。

「あんな虫けら、殺す価値なんてない。どうせ殺すならもっと強くなってからだ。それに、今回は生け捕りを命じられてる」

「生け捕りか。ヴェルウェザーは何がしたいんだ?」

「それを話す義理はないね。それより、あんたもだよ、黒瀬才斗。あんたも殺すなと言われてるんだ。面白くない」

「残念だったな」

「そう、凄い残念だ。でも、もう1つ指示されてることがある。ヴァイオレットは全力で殺しにかかれ、だとさ」

 その言葉が口から出た瞬間、ジェシカが姉さんに襲いかかった。

 一瞬で詰められる間合い。
 この戦い方を見て、剣騎の完璧な間合い管理を思い出す。

 この女はそれに匹敵するほどの速度と、間合いの把握能力を備えていた。

「姉さん!」

 声を上げる。

 だが、姉さんは俺の予想よりずっと優秀だった。

 ジェシカという女の戦い方を知っているからか、しっかりと漆黒の剣で対応している。
 最初の一撃はスピード重視だったためか軽いものだったが、態勢を整えてからのジェシカの剣はパワー系だった。

「パワー系……ボルドー派か」

「どうした? お前の姉はもうすぐ死ぬぞ」

 ジェシカは余裕だ。

 何度も姉さんと戦い、勝利しているところからくる自信だろう。確かに、根拠ある自信だ。

「確かにお前は姉さんより強いのかもしれないが、そこに俺が加われば、確実にお前は負ける」

 断言できる。
 俺はこんな奴には絶対に負けない。
感想 1

あなたにおすすめの小説

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた

里奈使徒
キャラ文芸
 白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。  財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。  計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。  しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。  これは愛なのか、それとも支配なのか?  偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?  マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。 「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——