ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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休日と大阪出張編

第48話 ついにふにゃふにゃな姿がバレてしまう哀れな社長

『見事だ。この状況はまさに、ボクの思い描いていたシナリオそのまま。キミたちが自分たちの判断で作り上げた状況が、ボクの予測していた未来と重なった』

 ジェシカの剣は俺の腹を貫通していた。

 こんなにわかりやすく刺されたのは初めてだ。
 スーツに血がにじんでいく。少しずつ、着実に。

 それは俺の命を削っていた。

才斗さいとくんっ!」

 俺が守ったのは直属の部下、楓香ふうか

 楓香は命が助かったはずなのに、俺の今の状況を見て自分が刺されたかのような表情をしている。

「大丈夫だ……これくらいで死なない」

「仲間を思いやる心はあるんだな、黒瀬くろせ才斗」

 声がかすれる。
 多分死なないとは思うが、しばらく寝たきりかもな。

 仮に富秋とみあきのような治癒師ヒーラーに治療されたとしても、簡単には回復しないだろう。
 魔法も万能なものじゃない。

 魔法は俺の回復能力を促進させるだけであって、どんな傷も病気も一瞬で治しますよ、というチートではない。

 俺の負傷を見て、姉さんが激昂した。
 力強く剣を振る。

「甘い。その程度で勝てると思うな」

「――ッ」

 その剣は容易に防がれてしまった。

 そこに追随するように真一しんいちが仕掛けるも、すっかり流れをつかんだジェシカには敵わない。

『自らが犠牲になって部下を守るとは……想定以上に優しくなったか』

 あの声だ。

 かすれた、絞り出すような不気味な声。

 ヴェルウェザーの声がダンジョン18階層に響いている。
 どこから聞こえるのかはわからない。ありとあらゆる方角から、俺たち全員を嘲笑うかのように聞こえてくる。

「才斗くん……この声は……?」

「敵のボス的存在だろうな」

「あの……実は佐藤さとうさんが……」

「どうした?」

「いや……まだ言えません」

「どうして?」

「この階層から逃げて、才斗くんが完全に復帰するまでダメです。もしここで言っちゃったら……才斗くんが死んでしまうような気がして……」

「別に強がってるわけじゃない。これくらいで死ぬようだとAランク冒険者失格だ」

 楓香の声は震えていた。

 それに対し、腹から血をだらだらと流す俺の声はシャキッとしている。

「それでも……才斗くんを失いたくないんです……」

 俺もまだ自分の命を失いたくはない。

 この状態で戦うのは危険かもしれないが、戦わないわけにもいかなかった。ジェシカを倒せなければ、この階層からも、ダンジョンからも出ることはできないだろう。

『黒瀬才斗、面白いことを教えてやろう』

「ヴェルウェザー……」

『どうやらボクの名前を知ってくれたようだ。これでスムーズに会話ができる』

「何が言いたい?」

『何を言ってほしい? いいや、何が知りたい? ボクは知ってる。キミが今日この日まで冒険者をやってきたのは、両親の敵討ちのためだろう?』

「……何か知ってるのか?」

『当然だ。キミは両親を殺したと言われている【漆黒のデュラハン】を討伐の目的にしている。両親の死を伝えたのは……西園寺龍河ドラゴンウルフってところか』

「……」

『しかしボクは彼よりキミの両親の死に詳しい自信がある。なぜだと思う?』

 頭の中に1つの可能性が浮かんだ。
 この後、ヴェルウェザーが言うことがわかるような気がする。

『ボクが、いいや、ボクたち・・が、黒瀬夫妻を殺したからだ』



 ***



 西園寺さいおんじは険しい表情で社長室の椅子に座っていた。

「それで、状況はどうだ?」

「……えーっと……」

 この建物のボスの前に立つのは、今ダンジョンで戦っているはずの青木あおき真一。

 同時刻。
 確かに青木は2つの場所に存在していた。

「説明してもらわなくては私も次のフェーズに移行できない。助けが必要か?」

「……」

 青木は西園寺の前ではまったく話せなかった。

 初めて顔を見た時から、西園寺の圧倒的な強者オーラに委縮している。特に厳しいことを言われたこともないし、パワハラのようなことも一切ないのだが、社内で最も社長を恐れているといえるだろう。

 そのせいで、重要な情報をなかなか伝えられない。

「ダンジョン内の戦闘を君たちで解決してくれるのであれば、私は地上の問題に集中できる。闇派閥の拠点を探し、潰すという仕事だ」

「……その……助けが、いります……急いでダンジョンを下っていたら、18階層で襲撃に遭っていて――」

「襲撃?」

「……白桃しらもも楓香とスミレさ――ヴァイオレット、そして才斗です……」

「才く――黒瀬才斗ブラックが襲撃に遭った? 敵のランクはどうだ?」

「それが……Sランクのおれでも厳しくて……才斗が腹を刺されて――」

「なんだと!?」

 西園寺が声を荒らげる。

 ひえっと青木は震え上がった。
 自分が頼りなかったばかりに才斗を傷付けたこと。それを責められていると勘違いしたためだ。

「さ、才君! 今オレが駆け付ける!」

「……え、社長……?」

 普段の威厳ある社長とはまったく違う様子を見せる西園寺。

 口調が違う。

 声のトーンが違う。

 雰囲気が違う。

 ――社長、なんか親しみやすくなってへん?

「どどどどうしよう!? 待っていてくれよ才くぅん! 絶対に君を死なせたりしないぞぉ!」
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