ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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恋人と常にラブコメ編

第57話 スキルを使って挑発しまくるという全能感

 少年は名乗らなかった。

 彼が漏らした情報は、組織の名前が【ダークエイジ】であるということだけ。

 楓香ふうかはこれまでの戦いで学習しているのか、少年との実力差を察してすぐに後方に下がった。

 もし一ノ瀬いちのせと戦って逃げられたという話が本当であれば、少年はSランク冒険者とやり合うだけのポテンシャルを持っているということ。
 そんな相手とCランクでは話にならない。

「いい判断っすね。でも安心してください。ぼくちゃんは弱い者いじめが好きじゃないんすよ」

「そうか。なら俺のことは弱者じゃないと思ってるんだな」

「そうっすね。まあ、ぼくちゃんの方が強いけど、黒瀬くろせさんは一応Sランクっすからね」

「そうだな」

 初動はやはり少年が速い。
 スタートダッシュから加速するまでの時間が短いのが強みだろう。

 一瞬で違う場所から間合いを詰め、一撃を繰り出す。

 慣れないうちは、その動きに対応することで労力を使う。相手の動きを読み、そこから反撃するなんてことはまずできない。

 戦ってみても、彼は厄介なガキだ。
 だが……隙がないわけじゃない。

「Aランク冒険者とSランク冒険者の大きな違いは何だと思う?」

「そりゃあ、超能スキルっすかね」

「そうだ。純粋な身体能力の強化に加え、俺には新しくスキルが備わった」

「楽しませてくださいね」

 どこまでも生意気な少年は、挑発するように前後左右、あらゆる方向から攻撃を仕掛けてくる。

 少年が俺の左斜め後ろから攻撃を仕掛けてきた。
 戦い始めて30秒。
 その速度は見切った。

 剣で受け止め、弾き返す。

 ダンジョンに響く金属音。

 少年の得物の方が俺のよりも長いが、その小柄な体には合っていないように感じる。それもまた、この少年の隙なのかもしれない。

 長剣のメリットは間合いの距離が長くなることだ。
 だが、この少年には間合いなんて関係ない。刹那の間に空いてのふところに潜り込めるだけの速さがあるのだから、間合いを調節する必要が皆無だ。

 もったいない。
 ヴェルウェザーはこの少年にどんな教育を施したのか。

「残念だが、遊びはここまでだ」



 ***



 東京のとある喫茶店。
 【ウルフパック】所属の冒険者と、【バトルホークス】所属の冒険者が席を隣にして抹茶ラテとコーヒーを嗜んでいた。

「それで、いつ独立すんだよ?」

「まだ未定だな。準備は進めてるんだけどね。正直、今のウルフパックもなかなかに大変なものを抱えてる」

「闇派閥ってな。でもおかしくねぇか? 俺たちバトルホークスにゃ一切手を出してこねぇぞ」

「最初にウルフパックを潰そうと考えているのか、単に君のところの神宮司しんぐうじ君を警戒しているのか。それとも、ウルフパックに個人的な恨みでもあるのか」

 カウンターに肩を並べて座っているのは、山口剣騎けんき鬼龍院きりゅういん空心くうしん

 鬼龍院は【バトルホークス】に所属しているSランク冒険者で、山口とも交流があった。

 髪は銀色で、瞳は青。
 口調が荒々しく柄が悪そうに見えるものの、実際は気さくなタイプだ。

「それより、青空そらちゃんは一緒じゃないのかい?」

「今日はママと買い物に行ってんだ。おめぇほんと青空たんのこと好きだよな」

「青空たんって……メロメロだねぇ」

「そりゃああんな可愛い娘がいりゃあ、当然だろうが! 喧嘩売ってんのかおい!」

「急にキレないでくれよ」

「わりぃ」

 小さな溜め息をつき、抹茶ラテをすする山口。
 彼は最近、人との付き合いで溜め息をつきがちだ。

「そういえば、神宮司君は最近どうなんだい? ダンジョン攻略は順調?」

「知るかよ。ただ、あいつは好きな時にダンジョン潜って、好きな時に帰ってくる。1人で何週間もダンジョンにこもってることだってあったしな」

「あれだけ強いといいよね」

「俺たちは困るぜ。連絡がずっと取れねぇんだからよ」

「それこそ、ダンジョンの中でも連絡が取り合えるような装置が開発されれば、大ヒット間違いなしだね」

「ビジネスチャンスってか。すげぇ科学者を雇ってから言え」

「凄い科学者ねぇ……」

 山口は自分の腕時計に目を落とした。
 この腕時計もまた、画期的な発明である。

 ナノテクノロジーの最先端を行くもので、【ウルフパック】の冒険者くらいしか実用できていない。

 ――この腕時計、誰が作ったんだろうな……。

 それは組織の幹部である山口も、知らされていないことだった。



 ***



 Sランクになって獲得した超能スキル

 真一しんいちが死なない能力だとしたら、俺はどんなチート能力を授かることができるんだろう。

 そう期待していたのも束の間、実戦で使う日が早くも訪れた。

 超スピードを誇る少年。
 彼が剣を振り下ろした瞬間。もう俺はそこにはいない。

「――ッ」

「残念だったな」

 俺は文字通り消えていた。

 いや、厳密に言うと、影に姿を変えていた。
 その名もシャドウライド。

 名付け親は俺じゃなく剣騎だ。
 彼の冒険者名と同じく、単純を極めたネーミング。

 1回の制限時間は僅か3秒。インターバル期間は3分。コスパがいいのかわからない、絶妙な能力だ。
 無論、使い方によっては有能なものだが……。

 もっとチート級な力が欲しかったというのが、正直な感想だ。

「せっかくだ。この機会にシャドウライドを使いこなしておくか」
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