ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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九州での抗争編

第60話 強制休暇を告げられる真夏のドライブ

 ダンジョン・ドームから出ると、地味な見た目の水色の車が近付いてきた。
 クラクションを鳴らして注意を引いてくる。

「無視はダメじゃないか才斗さいと

 車の窓から爽やかな笑顔を見せたのは剣騎けんきだった。

 これまで一度も剣騎が車を運転している姿を見たことがなかったからか、この光景に唖然としている自分がいる。
 まあ、ジェット機を操縦できるくらいだし、車くらい運転できるか。

「乗って。少しドライブしよう」

「どうせ何かあるんだろ?」

「半分正解で半分不正解。ドライブしたい気分なのは本当だけど、メインの用事はそこじゃないからね」

楓香ふうかも連れていくのか?」

白桃しらもも君にも来てもらって構わない。というか、用事があるのは才斗だけじゃないからね」

 俺は助手席に、楓香は後部座席に乗り込む。

 周囲の注目を浴びていた。
 ソードナイトが運転する車に、ブラックとその彼女が乗っている。それだけで号外スクープだろう。

 俺もすっかり有名人になったな。
 特にいいことだとは思わない。

 ただ、前と大きく変わったこととして、わざわざ目の色を変えたり、スーツで歩かないように意識したりする手間が省けた。
 今では堂々と冒険者仕様のスーツで街を歩ける。

「目的地は?」

「どこだと思う?」

西園寺さいおんじリバーサイド?」

「惜しい。厳密に言うとそのビルの地下だ。わかるだろ?」

「訓練所か。ダンジョンに潜るようになってからは行ってなかったな」

 剣騎が示唆したのは、西園寺リバーサイドの地下にある訓練施設。

 冒険者は基本ダンジョンで戦闘スキルを向上させることになるが、大企業ともなれば充実した訓練施設で体を鍛えることもできる。
 ダンジョンには時折イレギュラーなことが起こる。
 新人が巻き込まれでもしたら大変だ。

 だから新人のうちは訓練所でトレーニングすることが多くなるし、ダンジョンになれた上級冒険者でも、気が向いたら訓練所に行く人だっている。

 実践に備えた安全な訓練施設。
 着実に実力を伸ばしたい冒険者にはもってこいだな。

「わたしは1ヶ月ぶりくらいです。才斗くんの部下になってからは、ダンジョンにしか行ってないので」

「ダンジョン中毒者ジャンキーで悪かったな」

「でも、そのおかげで自分の弱さに気付けました。訓練所ではできることでも、実践の場となると通用しないんだなって、何度も思ったんです」

「まあ、それがダンジョンさ。才斗がジャンキーなのは否定しないけどね」

「おい」

「僕も何年か前は強くなるために毎日毎日ダンジョンダンジョンだったからわかるよ。でも、時には原点に返ることも大事なんだ」

 しんみりした声で、過去を振り返る剣騎。

 彼の言うことにも一理ある。
 特にさっきダンジョンで酷い目に遭ったばかりだしな。

 そういえば――。

「剣騎は神宮司しんぐうじ皇命こうめいに会ったことあるか?」

「え? いきなりだなぁ。もちろん、僕と神宮司君は知り合いだよ」

「実は……さっきダンジョンで会ったんだ」

「なるほど。だから聞いてきたのか。てことは、彼が人間じゃないってことも知ってるってことだね」

「そうなるな」

「僕にも詳しいことはわからない。【バトルホークス】の企業秘密なのかもしれないね。でもまあ、1つ言うならば……彼はかなりアレだということだね」

 なんとなくわかる。
 アレの内容が、わかる。

「とはいえ、この日本で誰も神宮司君には勝てない。西園寺さんと神宮司君は仲がいいらしいから、戦ったことはないんだけどね」

「そうなのか?」

「それでも神宮司君が強いと言い切れるのは、ランクの違い、種族の違い、スペックの違い、クレイジーさの違いからかな」

「社長もなかなかにクレイジーだと思うが……」

 どこが、とは言わなかった。



 ***



 剣騎はドライブを楽しんだ。
 そもそも西園寺リバーサイドまでは走ってすぐの距離だ。

 そんな距離を車で行くのだから、遠回りした上に同じところをクルクル回っていた。

「実は近々車で九州に戻るつもりでね。運転慣れしておこうと思ったんだ」

「なんでわざわざ車で?」

「実はそのタイミングでキャンピングカーを貸してもらえるんだよ、西園寺さんから。ほら、西園寺さんは今忙しいだろう?」

「だろうな」

「そうそう、闇派閥の件で予定していた遠征も遅らせることになった。本来は僕もいろいろ忙しい役割をこなさないといけないのかもしれないけど、大阪では頑張ったからね。休暇をもらったんだ」

「この時期に?」

 なかなか自由な男だ。
 剣騎ほどの実力者が、このピリピリした時期に休暇とは。

「そこで、だ。僕は西園寺さんに提案した。最近ダンジョンでありとあらゆる陰謀に巻き込まれて疲弊している才斗にも休暇を与えるべきだと」

「俺は別に――」

「いやいや、西園寺さんは君に甘いし、即オッケーが出たから安心してくれ。そこで、だ。その部下である白桃君の休暇の許可もいただいたから、僕のキャンピングカーに乗って――」

「断る」

 要するに、休暇の誘い。
 もう西園寺は俺の休暇を許可している。

 だが、俺はここでイェスと頷くわけにはいかない。せっかく闇派閥が動き出したんだ。復讐のためにも、ここは――。

「才斗くん! わたしは山口さんに賛成です! この数週間、才斗くんは頑張りすぎです!」

「だが俺は――」

「才斗」

 車が止まった。
 もう西園寺リバーサイドの地下駐車場の中だ。運転席の剣騎が、穏やかな顔でこっちを見てくる。

「君の使命は理解している。でも、時には走るのをやめ、体のケアをすることが大切だ」

「……」

「それに、メンバーはまだいる。君の姉である黒瀬くろせ天音あまねも一緒さ」

「姉さんも?」

「そう。もう話は進めてある。スペシャルゲストも来るかもしれないし、いろいろ後戻りはできないんだ。だから絶対来てくれ」

 ハンサムな笑顔から来る無言の圧。

 スペシャルゲストがどんな奴かはわからないが、失礼なことはできないらしい。

 溜め息をつき、前を向き直した。

「わかった。それで、いつから行くんだ?」

「今週の土曜から来週の金曜までの1週間だよ。悪いけど、学校は休んでね」

「体育祭があるんだが……」

「冒険者の君が出ても面白くないだろうし、大丈夫さ」

 最後まで剣騎の表情は爽やかだった。
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