ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

文字の大きさ
66 / 178
九州での抗争編

第66話 細かいことに気付いているという強者ムーブ

「お願い……助けて……ヴェルウェザーに殺されるかもしれないの……」

 佐藤さとうの表情には余裕がなかった。

 それを見た西園寺さいおんじが冷静な声で問う。

「闇派閥と繋がりがある、そう言いたいのか?」

「そんな悪い組織だって知らなかった……ただあたしに戦う力をくれるって約束してくれたから、その話に乗っただけで……」

「約束、か。それと引き換えに奴らは君に何を要求した?」

「命令に従うこと。ざっくり言うと、そういうこと」

 西園寺は俺たちよりかなり年上であり、立場も格も違う存在だが、佐藤は物怖じしていない。

「殺されるかもしれないって、どういうことですか?」

 今度は楓香ふうかが聞く。
 目の前の佐藤の余裕のない表情に同情しているのか、いつもより柔らかい口調だ。

「この際だから正直に言うわ。あたし、白桃しらももさんを殺すように言われたの」

「……え?」

「だから、白桃さんを殺すように命令されたの。だからあんたを殺さないとあたしが死ぬかもしれない」



 ***



 キャンピングカーが沈黙に支配される。

 しばらくの間、誰もしゃべらなかった。
 楓香は俺の腕をぎゅっとつかみ、エイリアンでも見るような目で佐藤を見ている。わからなくもない。

 もしかしたら今この瞬間も、自分の隙を狙っているのかもしれないのだから。

 だが少なくとも、佐藤がこの場で仕掛けてくることはないだろう。

 ここには西園寺と剣騎けんきがいる。
 この空間は、最も楓香暗殺に適さない場所だ。

 楓香に隙はあるが、西園寺や剣騎、そして俺がその隙をカバーしている。この状態の楓香には誰にも手を出せないはずだ。

「それはあり得る」

 意外にも、最初に口を開いたのは、普段口数の少ない姉さんだった。

 表情は変わらない。
 表情豊かなタイプじゃないので仕方ないが、いつも無表情なのは少し困るな。

「ヴェルウェザーは簡単に人を殺す。その人に利用価値がなくなれば、殺しても不思議ではない」

「……」

 俺にもなんとなくわかった。
 前回交戦した冒険者には起爆装置が付いていて、ヴェルウェザーの都合で死んでしまったわけだし、理にかなった話だ。

 なら問題は、佐藤の頭にチップが埋め込まれているのかどうか。

「ヴェルウェザーに何か体を改造されたりしてないか?」

「ちょっと、あんたいきなり何言い出すわけ? あんな奴と寝るわけないでしょ!」

「そんなこと聞いてないんだが」

「じゃあなによ」

 佐藤は思ったよりむっつりらしい。

 ここには楓香がいるので特に珍しくはないものの、この状況で体の改造と聞いてエロいことを連想するのはなかなかではなかろうか。

「実際に体にチップを埋め込まれたり、どこか細工されたりはしてないのかと聞いたんだ」

「そ、そうね……体を触られたことはないから、それはないはずよ。あたしはただ……その……かくまってほしいの。ヴェルウェザーに見つからないように」

「チップは埋め込まれてない、そう思っていいんだな?」

 コクリ。
 佐藤が可愛らしく頷いた。

 ここで思い出したが、佐藤は可愛い女子高生。
 異常に可愛い楓香と異常に美人な姉さんがすぐ近くにいるせいで忘れそうになるが、一応佐藤もまた、美少女なのだ。

「さて、社長はどんな判断を下すのかな?」

 珍しく話に入ってこない剣騎が、ニヤニヤしながら西園寺を見た。

 直接的に関係のある話ではないと思っているんだろうが、この空気でよくニヤニヤできるな。
 剣騎がそういう人間だということはずっと前からわかっているものの、呆れずにはいられない。

 西園寺に注目が集まった。

 この中で1番偉いのは西園寺だ。
 最終決定権を持っている。

 西園寺が佐藤を見捨てると言えば、残念だが俺たちはその言葉に従うしかない。

「佐藤といったな。もし君が我々【ウルフパック】に協力してくれるのであれば、匿っても構わない」

「協力……?」

「闇派閥の調査への協力だ。組織の拠点をあぶり出し、根本から叩き潰すための」

 その言葉を聞き、佐藤が深く頷く。

「あたしにできることなら、なんでもするから」

 お互いの危機をお互いで救う。

 一見すると、これはお互いの利益が一致した契約。

「感動的なシーンだね」

 爽やかな笑みを浮かべながら、運転席から立ち上がる剣騎。

 そのまま躊躇うことなく佐藤の座っているソファに近付いていく。

才斗さいと、トロイの木馬って知ってるかい?」

「ああ」

 突然の問いに戸惑いながらも、反射的に頷いた。

 トロイの木馬はギリシャ神話に出てくる有名な話だ。

 敵の軍に侵入するため、贈り物として木馬を相手軍に運ぶ。ただの贈り物だと思って敵軍の警戒が緩んでいる時、木馬の中に隠れていた戦士たちが一気に敵軍に襲いかかる。

 いつの間にか紛れ込んでいる毒。

 剣騎はスマートな動きで佐藤の首元まで手を持っていき、ほんの少しだけ襟をめくった。

「ちょっと! あんた変態なの!?」

 必死で抵抗しようとする佐藤だが、冒険者として格上の剣騎に敵うはずがない。

「これがもしトロイの木馬だとしたら、どうする?」

 剣騎が手を引き抜いた。
 その手に握られていたのは、小指の爪サイズの小型盗聴器。最先端のテクノロジーだ。

「佐藤君、説明してもらえるかな?」
感想 1

あなたにおすすめの小説

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活

シン
ファンタジー
 世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。  大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。  GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。  ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。  そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。  探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。  そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。  たまに有り得ない方向に話が飛びます。    一話短めです。

洗脳機械で理想のヒロインを作ったら、俺の人生が変わりすぎた

里奈使徒
キャラ文芸
 白石翔太は、いじめから逃れるため禁断の選択をした。  財閥令嬢に自作小説のヒロインの記憶を移植し、自分への愛情を植え付けたのだ。  計画は完璧に成功し、絶世の美女は彼を慕うようになる。  しかし、彼女の愛情が深くなるほど、翔太の罪悪感も膨らんでいく。  これは愛なのか、それとも支配なのか?  偽りの記憶から生まれた感情に真実はあるのか?  マッチポンプ(自作自演)の愛に苦悩する少年の、複雑な心理を描く現代ファンタジー。 「愛されたい」という願いが引き起こした、予想外の結末とは——