ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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九州での抗争編

第71話 撃たれたのは誰だというサスペンス的展開

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 銃声が福岡の夜に轟く。

 ピストルの音を生で聞いたのは初めてだった。
 思っていた以上に巨大で、悲劇的な音だ。

「……え?」

 楓香ふうかが恐る恐る目を開ける。

 そう、楓香はまだ生きていた。
 俺が何かしたわけでも、姉さんや剣騎けんきが何かしたわけでもない。

 悔しいが、銃口を頭に当てられているような状態では、こちらも思い通りに動くことができなかった。

「わたし……生きてる?」

 ピストルの弾は1ミリも楓香をかすっていない。

 銃声はしたのに、ターゲットであるはずの楓香には傷が一切ないのだ。

 佐藤さとうは銃口を別の人物に向けていた。
 引き金をひく直前、楓香からターゲットを変更していたらしい。それはほんの一瞬の出来事だった。

西園寺さいおんじさん……?」

 剣騎の声が微妙に震えている。

 佐藤のピストルの先にいたターゲット、つまり今回の弾が当たった人間とは、助手席付近に立っていた西園寺だった。



 ***



 ピストルの弾は西園寺の左胸に命中していた。

「……」

 西園寺は何も言わない。
 不機嫌そうな顔で、血が滲み出ている自分の左胸を見ているだけだ。

「あたしはあんたたちの言いなりになんかならない!」

「……」

 佐藤が西園寺に向かって言う。

 意味がわからない。
 言いなりにならない? そのセリフは、本来自分を利用しているヴェルウェザー側の人間に言うべきものだと思うが……。

 ここで、西園寺の姿をよく観察してみる。

 戻ってきた時に感じた違和感。
 容姿自体は問題ないが、纏う雰囲気がいつもとは異なっていた。

「本物じゃない……偽物だ」

「そうみたいだね。僕もすっかり騙されていたよ」

 俺の呟きに、剣騎も苦笑いで反応する。

 それに対し、姉さんと楓香が状況がまったくつかめていないようだった。それも仕方ない。
 とりあえず、楓香が殺されていないということ。それが大事だ。

「やっぱりSランク冒険者は違うっすね」

 聞き覚えのある若さと幼さが混じった声。

 西園寺の姿が溶けていく。
 溶けていく、という表現は直接的すぎるかもしれない。実際に溶けているわけじゃないが、一度皮膚がどろどろになって別の人物の骨格を生み出していた。

 この変身の仕方。
 少し前に見たような気がする。

「どうしてお前がここにいる? 政府に拘束されているはずだ」

「聞きますけど、そんなに政府って凄い・・組織すか? ぼくちゃんの変身能力を使えば、簡単に逃げ出せたっすよ」

「変身能力……」

 そうして現れたのは少年だった。
 先日、日本最強の冒険者である神宮司しんぐうじにボコボコにされ、その後俺たちによって政府に身柄を拘束された、闇派閥の一員。

 彼の持つオーラは絶大だ。
 だからこそ、西園寺を演じていても小さな違和感で済んでいた。

 それはつまり、彼の纏う魔力量が西園寺にも匹敵する、ということも示唆している。だとしたら最悪だ。

「今、変身能力と言ったな? 前はネックレスをタップしていたからナノテクの応用なのかと勝手に思っていたが……あれはブラフだったか」

「鋭いっすね! そうっすよ。変身はぼくちゃんの得意分野なんすよ」

超能スキルか」

「みたいなもんっすよね」

 佐藤に撃たれた時にできた傷は、すっかり治ろうとしていた。

 結論として、かなり高ランクの冒険者にはピストルなんて意味がないということだな。
 ただ、Cランクの楓香だけは命に関わる重傷になる危険もあった。

 Sランク並みの力を持つ少年でも、傷を治癒している最中はかなり痛そうだ。

「君が偽物なんだとしたら、本物の社長はどこかな?」

 剣騎が静かに聞く。

「ぼくちゃんの知ったこっちゃないっす、それ。多分すけど、戦ってると思いますよ」

「戦う? 誰と?」

「山口さんは戦ったことある相手っすかね」

「まさか……あのムキムキの……?」

「強かったすか? あの時はどっちが優勢でしたー?」

「悪いけど、今の僕たちにおしゃべりをしている余裕はないんだ。社長の居場所を教えてくれないかい?」

「その前に、やることあると思いません?」

 身長僅か150センチほどの少年が、新しいおもちゃを期待するような無邪気な笑みを浮かべて聞いてくる。

 何が言いたいのか、何を察してほしいのかはわかっていた。

 戦いだ。

 彼はまた、この場で俺たちと戦いたいのだ。

「勝てると思ってるのか?」

 あの時、俺と楓香だけでは敵わなかった。
 結局は最強の存在があっという間に片付けてくれたわけだ。

 だが、今回は剣騎がいる。姉さんもいる。
 剣騎の存在はそれだけで心強い。彼が負けるなんて想像もつかない。

「残念ながら、ぼくちゃんがこの場でやることって限られてるんすよ。佐藤さんが失敗することを見越して、フォローのために来たんすからね」

 俺たちが臨戦態勢に入ったところで、少年は自分を撃ったツンデレ美少女をきつく睨んだ。
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