ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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九州での抗争編

第72話 気付けば敵に弄ばれているというアレ

 深夜のサービスエリアで、2つの戦いが同時並行で起こっていた。

 1つはキャンピングカーの中。
 そしてもう1つはファミリーレストランの中。

 どちらも狭い空間内での戦闘が強いられる。
 大袈裟な事件になってしまうのを防ぐため、周辺への被害は最小限にとどめなくてはならない。

「ボクがキミと戦っても、勝負は決まっている。ボクが負けるだけだ」

「……」

 ヴェルウェザーこと武者小路むしゃのこうじじんと、【ウルフパック】社長の西園寺さいおんじ龍河りゅうがの面会。

 2人はかつて、同じ目標を掲げ、お互いに高め合ってきた仲間だった。

 しかし――。

 武者小路の野心と西園寺の善意が、その関係を切り裂いた。

「ボクのやり方は知っているだろう? 自分から表に出るようなことはしない。かつてキミを隠れ蓑にしたように、今回のボクはレックスを隠れ蓑にする」

「レックス?」

 もう客のいないファミリーレストランに現れたのは、日本人離れした巨漢。

 2メートル以上はある身の丈に加え、筋骨隆々の体。
 パワーの差は明らかだ。

 その巨漢を前にしても、西園寺は一切の動揺を見せない。むしろ、さらに落ち着きを見せている。

「レックスは先日キミの友人を追い詰めた冒険者だ……それでは、ボクはこれで失礼する」

「待て――」

 呼び止めるも、時すでに遅し。

 武者小路は霧になったように見えた。
 科学の力なのか、一瞬にして姿を消したのだ。それか、元々この場には存在しなかったのかもしれない。

 西園寺にはわからないことだ。
 ただ、本体としての体が無事な限りは死なない青木あおきのことを思い出し、チートのような武者小路の退場にも納得してしまう。

「それで、お前が私の相手か」

「お前の質問に答える義理はない」

「私も、お前に答えられる義理はない」

 上手いのか下手なのかよくわからない、謎の返事を皮切りに、西園寺と巨漢レックスの戦いバトルが始まった。



 ***



 最初に動いたのは剣騎けんきだった。

 攻撃を防ぐため、さっと少年の前に出て剣を構える。
 大きなキャンピングカーとはいっても、所詮は車の中。

 動けるスペースに限界がある。

 思いっきり戦うにはキャンピングカーの外に出るしかなさそうだが、出口はちょうど少年によって塞がれている。

 キャンピングカーを破壊して外に出る方法もないことはないものの、西園寺のものなので勝手に壊したりしたらなんだか可哀そうだ。

才斗さいと、ここは僕に任せてほしい。運転は任せてもいいかい?」

「無免許なんだが」

「ここにいる人で、僕以外に運転免許持ってる人は?」

「「「「……」」」」

 反応がないことに冷や汗をかく剣騎。
 この状況なら、無免許運転も仕方ないような気がする。

「コンプライアンス的に無免許運転は厳しい話だ。僕が運転するから、悪いけど才斗と天音あまねちゃんはこいつを――」

「私が運転する」

「え?」

 ここで運転を名乗り出たのは、姉さんだった。

 運転席をちらっと確認して、コクっと頷く。
 運転できますよ、という意味なのかもしれない。

「免許は持ってない。でも、運転させられてきた。だから上手だと思う」

「わかった。この際仕方ない。僕がこの生意気な少年と戦っている間に、できるだけ遠くに逃げるんだ」

 中途半端な実力の冒険者がそのセリフを言っていたら、自己犠牲だと思って感動していたかもしれない。

 だが、剣騎のことだ。
 勝つ自信があるから言っているんだろう。

 確かにあの少年は強いし、Sランクに匹敵するだけの実力は備えているのかもしれないが、剣騎に敵うほどとは思えなかった。

 剣騎はきっと勝つ。

「わかった。それならできるだけ早く車から降りてくれ」

「先輩へのリスペクトがないよね、才斗は」

 やれやれという様子で言うも、その通りだと頷く剣騎。

 だが――。

「いつもだったらその提案に喜んで乗ってあげると思うんすけど、今回はガチの任務なんで、戦う相手にも優先順位があるんすよ」

 敵は思い通りに動いてくれるものじゃない。

 少年の狙いが楓香ふうかであることはわかっている。
 ヴェルウェザーは元々佐藤さとうに殺させようとしていたようだが、それはできなかった。

 佐藤の良心のおかげだ。

 その代わり、ヴェルウェザーは政府の拘束から簡単に逃れることのできた幹部の少年を派遣した。
 確実に楓香を殺させるために……。

 だが、ここで疑問が出てくる。

 結局幹部を送り込むくらいだったら、最初から派遣して確実に殺させればよくないか、ということだ。

 佐藤を送ったのは、こちらの懐に潜り込めるから、というメリットはあるものの、やはり確実性が低い。
 少年がなんとかして寝静まったキャンピングカーに接近し、楓香をる方が確実な気がする。

 少年の不気味な微笑みを警戒し、とっさに楓香の前に出る俺。

 なんとしても、彼女を守らなくてはならない。
 それが直属の上司の――いや、彼氏の役目だ。

「なんか勘違いしてません? 確かに佐藤さんに与えられた任務は白桃しらももさんの殺害っすよ」

 楓香を庇う俺を見て、わざとらしく首を傾げる少年。

「でもぼくちゃんに与えられた任務は、任務に失敗した佐藤さんを殺し、逆に白桃さんを絶対に死なせないことっす」
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