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九州での抗争編
第73話 浮気は許されないよねという一般常識
筋骨隆々の、闇派閥に所属する冒険者レックスは、現在対峙している西園寺の底の見えない戦い方に戦慄していた。
戦慄とはいえ、体が震えているわけではない。
心の奥底で感じる恐怖。
どこが限界で、どこが余裕の範囲内なのか。
巧みな剣捌きや体捌きから読み取れる余裕に加え、一切変わらないポーカーフェイスもまた、無愛想なレックスを動揺させる。
体格のいいレックスが使用するのは、パワー重視のボルドー派。
彼のために生まれたといっても過言ではない流派である。
それに対し、西園寺の型はまったくのイレギュラー。
フォームがコロコロ変わる。
最初はルーテン派の構えをしていたため、安易にルーテン派の使い手だと決め付けることができた。
しかし、戦い始めて1分が経過すると、一瞬にして動きが変わったのだ。
それはバランスを重視するロペス派の動きだった。
戦いの最中にフォームを変えるなど、普通ではあり得ない。長年の経験と鍛錬。それを積み重ねた結果、西園寺は相手のフォーム及び戦い方に合わせて自身の戦闘スタイルを変更するという離れ業を身につけた。
彼はSSランク冒険者の神宮司皇命とセットで、冒険者界の異端児と呼ばれている。
その理由の1つにこの特殊な臨機応変剣術があった。
1つの流派を極めるだけでも並外れた努力が必要なのにも関わらず、彼はルーテン派、ロペス派、ピトー派の3流派のフォームを使いこなすことができる。
レストランのテーブルが斬られる。
店員が叫ぶ。
そんな店員に対し、西園寺が声を飛ばした。
「すぐに終わらせる。店の修理費は【ウルフパック】が全額出そう」
西園寺には余裕があった。
修理費のことを話している割には、ものを壊していない。
パワーで剣を振り回すレックスとの戦闘でありながら、周囲の物にも人にも、できるだけ被害が及ばないように剣捌きをコントロールしていた。
「これが剣術の高みか……」
普段他人に興味もなければ、称賛などするはずもないレックスが、敵である西園寺に感嘆の声を漏らす。
それだけ、西園寺の剣術には説得力があった。
強さがあった。
経験があった。
「お前はパワーに恵まれている。だが、ヴェルウェザーのところではそれを十分に生かしきれていない」
「……」
「どうしてヴェルウェザーに従う? 何か弱みを握られているのか?」
「お前の質問に答える義理はない」
「そうか。それは残念だ」
西園寺が溜め息を漏らした瞬間、レックスの剣が両断された。
「――ッ」
「そこまで驚くことか?」
冷めた目でレックスを見つめる西園寺。もうすでに決着はついていた。
レックスがどうあがこうが、少なくとも今の時点では、西園寺の力を上回ることはできない。
これが圧倒的な実力の差だ。
「お前の剣の動きは単調で、パワーの振り下ろし方に無駄がある」
「……」
「ポテンシャルを最大限に生かせ……って、敵にアドバイスしてどうする?」
西園寺がほんの少しだけ笑みを見せた。
だが、彼のレックスへの助言は本物だ。
味方であろうと敵であろうと、強さを求める者がいれば、彼は応援し、支援する。ただし、強さへの渇望が異常なほどに高い者に限る。
「もう少し遊んでいたいところだが、仲間の命が危険にさらされている。お前には爆弾は仕掛けれていないのか?」
「……」
黙ったまま、縦に首を振るレックス。
彼は悟った。
この世界には理不尽なまでに強い冒険者が存在する。または、裏でその強者さえも操ってしまうような策略家が存在する。
しかし、彼が敬意を払うのは冒険者だ。
レックスにとって、強さは全てだった。
「そうか……まだ我々の技術ではどうすることもできない。しかし……」
「お前とこれ以上話す義理はない」
「最後までブレないのか……」
次の瞬間、レックスの頭が吹き飛んだ。
***
少年が飛び出してきた。
とっさに楓香を守ろうとしてしまうが、もし少年の言っていたことが本当だとしたら、狙われているのは佐藤で、楓香は100パーセント安全。
「そうはさせない」
前方に剣騎が剣を構えて登場する。
戦場はキャンピングカー。
かつて、こんな緊張感のある戦いが、1つのキャンピングカーの中で行われただろうか。
「ちょっと! あんたいい加減にしてよね! それじゃあ裏切りでしょ」
「ぼくちゃんは面白ければいいと思っているし、あの方の指示には何かしらの目的があると思ってるっすよ」
「どこか一貫性がないような……」
その言葉に、俺は1人で首を傾げる。
ヴェルウェザーの目的がまったくわからない。
佐藤を殺したいのか、楓香を殺したいのか、それとも、片方を取ったらもう片方を排除するのか。
「黒瀬、さっきの話だけど……」
ここで俺のすぐ後ろで怯えている佐藤が、剣騎の戦いが始まりそうな緊迫した雰囲気の中、場違いな話をかましてきた。
『あたし……あんたのことが好き』
今でも思い出すあのセリフ。
簡潔だったが、ここで問題が発生する。
「悪いが、佐藤の気持ちに応えてやることは――」
「いいの。言わないで。振られたくないから……まだ」
「佐藤……」
剣騎と少年がぶつかり始めた頃、俺たちは視線を交差させる。
「才斗くん! 浮気はしないでくださいね!」
その間にいた楓香。
楓香は俺の冒険者の直属の部下であり、それでいて恋人。
顔は笑っていた。
だが、目は笑っていなかった。
戦慄とはいえ、体が震えているわけではない。
心の奥底で感じる恐怖。
どこが限界で、どこが余裕の範囲内なのか。
巧みな剣捌きや体捌きから読み取れる余裕に加え、一切変わらないポーカーフェイスもまた、無愛想なレックスを動揺させる。
体格のいいレックスが使用するのは、パワー重視のボルドー派。
彼のために生まれたといっても過言ではない流派である。
それに対し、西園寺の型はまったくのイレギュラー。
フォームがコロコロ変わる。
最初はルーテン派の構えをしていたため、安易にルーテン派の使い手だと決め付けることができた。
しかし、戦い始めて1分が経過すると、一瞬にして動きが変わったのだ。
それはバランスを重視するロペス派の動きだった。
戦いの最中にフォームを変えるなど、普通ではあり得ない。長年の経験と鍛錬。それを積み重ねた結果、西園寺は相手のフォーム及び戦い方に合わせて自身の戦闘スタイルを変更するという離れ業を身につけた。
彼はSSランク冒険者の神宮司皇命とセットで、冒険者界の異端児と呼ばれている。
その理由の1つにこの特殊な臨機応変剣術があった。
1つの流派を極めるだけでも並外れた努力が必要なのにも関わらず、彼はルーテン派、ロペス派、ピトー派の3流派のフォームを使いこなすことができる。
レストランのテーブルが斬られる。
店員が叫ぶ。
そんな店員に対し、西園寺が声を飛ばした。
「すぐに終わらせる。店の修理費は【ウルフパック】が全額出そう」
西園寺には余裕があった。
修理費のことを話している割には、ものを壊していない。
パワーで剣を振り回すレックスとの戦闘でありながら、周囲の物にも人にも、できるだけ被害が及ばないように剣捌きをコントロールしていた。
「これが剣術の高みか……」
普段他人に興味もなければ、称賛などするはずもないレックスが、敵である西園寺に感嘆の声を漏らす。
それだけ、西園寺の剣術には説得力があった。
強さがあった。
経験があった。
「お前はパワーに恵まれている。だが、ヴェルウェザーのところではそれを十分に生かしきれていない」
「……」
「どうしてヴェルウェザーに従う? 何か弱みを握られているのか?」
「お前の質問に答える義理はない」
「そうか。それは残念だ」
西園寺が溜め息を漏らした瞬間、レックスの剣が両断された。
「――ッ」
「そこまで驚くことか?」
冷めた目でレックスを見つめる西園寺。もうすでに決着はついていた。
レックスがどうあがこうが、少なくとも今の時点では、西園寺の力を上回ることはできない。
これが圧倒的な実力の差だ。
「お前の剣の動きは単調で、パワーの振り下ろし方に無駄がある」
「……」
「ポテンシャルを最大限に生かせ……って、敵にアドバイスしてどうする?」
西園寺がほんの少しだけ笑みを見せた。
だが、彼のレックスへの助言は本物だ。
味方であろうと敵であろうと、強さを求める者がいれば、彼は応援し、支援する。ただし、強さへの渇望が異常なほどに高い者に限る。
「もう少し遊んでいたいところだが、仲間の命が危険にさらされている。お前には爆弾は仕掛けれていないのか?」
「……」
黙ったまま、縦に首を振るレックス。
彼は悟った。
この世界には理不尽なまでに強い冒険者が存在する。または、裏でその強者さえも操ってしまうような策略家が存在する。
しかし、彼が敬意を払うのは冒険者だ。
レックスにとって、強さは全てだった。
「そうか……まだ我々の技術ではどうすることもできない。しかし……」
「お前とこれ以上話す義理はない」
「最後までブレないのか……」
次の瞬間、レックスの頭が吹き飛んだ。
***
少年が飛び出してきた。
とっさに楓香を守ろうとしてしまうが、もし少年の言っていたことが本当だとしたら、狙われているのは佐藤で、楓香は100パーセント安全。
「そうはさせない」
前方に剣騎が剣を構えて登場する。
戦場はキャンピングカー。
かつて、こんな緊張感のある戦いが、1つのキャンピングカーの中で行われただろうか。
「ちょっと! あんたいい加減にしてよね! それじゃあ裏切りでしょ」
「ぼくちゃんは面白ければいいと思っているし、あの方の指示には何かしらの目的があると思ってるっすよ」
「どこか一貫性がないような……」
その言葉に、俺は1人で首を傾げる。
ヴェルウェザーの目的がまったくわからない。
佐藤を殺したいのか、楓香を殺したいのか、それとも、片方を取ったらもう片方を排除するのか。
「黒瀬、さっきの話だけど……」
ここで俺のすぐ後ろで怯えている佐藤が、剣騎の戦いが始まりそうな緊迫した雰囲気の中、場違いな話をかましてきた。
『あたし……あんたのことが好き』
今でも思い出すあのセリフ。
簡潔だったが、ここで問題が発生する。
「悪いが、佐藤の気持ちに応えてやることは――」
「いいの。言わないで。振られたくないから……まだ」
「佐藤……」
剣騎と少年がぶつかり始めた頃、俺たちは視線を交差させる。
「才斗くん! 浮気はしないでくださいね!」
その間にいた楓香。
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顔は笑っていた。
だが、目は笑っていなかった。
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