ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

文字の大きさ
73 / 145
九州での抗争編

第73話 浮気は許されないよねという一般常識

しおりを挟む
 筋骨隆々の、闇派閥に所属する冒険者レックスは、現在対峙している西園寺さいおんじの底の見えない戦い方に戦慄していた。

 戦慄とはいえ、体が震えているわけではない。
 心の奥底で感じる恐怖。

 どこが限界で、どこが余裕の範囲内なのか。
 巧みな剣捌きや体捌きから読み取れる余裕に加え、一切変わらないポーカーフェイスもまた、無愛想なレックスを動揺させる。

 体格のいいレックスが使用するのは、パワー重視のボルドー派。
 彼のために生まれたといっても過言ではない流派である。

 それに対し、西園寺のフォームはまったくのイレギュラー。

 フォームがコロコロ変わる。

 最初はルーテン派の構えをしていたため、安易にルーテン派の使い手だと決め付けることができた。

 しかし、戦い始めて1分が経過すると、一瞬にして動きが変わったのだ。
 それはバランスを重視するロペス派の動きだった。

 戦いの最中にフォームを変えるなど、普通ではあり得ない。長年の経験と鍛錬。それを積み重ねた結果、西園寺は相手のフォーム及び戦い方に合わせて自身の戦闘スタイルを変更するという離れ業を身につけた。

 彼はSSランク冒険者の神宮司しんぐうじ皇命こうめいとセットで、冒険者界の異端児と呼ばれている。

 その理由の1つにこの特殊な臨機応変剣術があった。

 1つの流派を極めるだけでも並外れた努力が必要なのにも関わらず、彼はルーテン派、ロペス派、ピトー派の3流派のフォームを使いこなすことができる。

 レストランのテーブルが斬られる。

 店員が叫ぶ。

 そんな店員に対し、西園寺が声を飛ばした。

「すぐに終わらせる。店の修理費は【ウルフパック】が全額出そう」

 西園寺には余裕があった。

 修理費のことを話している割には、ものを壊していない。

 パワーで剣を振り回すレックスとの戦闘でありながら、周囲の物にも人にも、できるだけ被害が及ばないように剣捌きをコントロールしていた。

「これが剣術の高みか……」

 普段他人に興味もなければ、称賛などするはずもないレックスが、敵である西園寺に感嘆の声を漏らす。

 それだけ、西園寺の剣術には説得力があった。
 強さがあった。
 経験があった。

「お前はパワーに恵まれている。だが、ヴェルウェザーのところではそれを十分に生かしきれていない」

「……」

「どうしてヴェルウェザーに従う? 何か弱みを握られているのか?」

「お前の質問に答える義理はない」

「そうか。それは残念だ」

 西園寺が溜め息を漏らした瞬間、レックスの剣が両断された。

「――ッ」

「そこまで驚くことか?」

 冷めた目でレックスを見つめる西園寺。もうすでに決着はついていた。

 レックスがどうあがこうが、少なくとも今の時点では、西園寺の力を上回ることはできない。
 これが圧倒的な実力の差だ。

「お前の剣の動きは単調で、パワーの振り下ろし方に無駄がある」

「……」

「ポテンシャルを最大限に生かせ……って、敵にアドバイスしてどうする?」

 西園寺がほんの少しだけ笑みを見せた。

 だが、彼のレックスへの助言は本物だ。
 味方であろうと敵であろうと、強さを求める者がいれば、彼は応援し、支援する。ただし、強さへの渇望が異常なほどに高い者に限る。

「もう少し遊んでいたいところだが、仲間の命が危険にさらされている。お前には爆弾は仕掛けれていないのか?」

「……」

 黙ったまま、縦に首を振るレックス。

 彼は悟った。
 この世界には理不尽なまでに強い冒険者が存在する。または、裏でその強者さえも操ってしまうような策略家が存在する。

 しかし、彼が敬意を払うのは冒険者だ。

 レックスにとって、強さは全てだった。

「そうか……まだ我々の技術ではどうすることもできない。しかし……」

「お前とこれ以上話す義理はない」

「最後までブレないのか……」

 次の瞬間、レックスの頭が吹き飛んだ。



 ***



 少年が飛び出してきた。

 とっさに楓香ふうかを守ろうとしてしまうが、もし少年の言っていたことが本当だとしたら、狙われているのは佐藤さとうで、楓香は100パーセント安全。

「そうはさせない」

 前方に剣騎けんきが剣を構えて登場する。

 戦場はキャンピングカー。

 かつて、こんな緊張感のある戦いが、1つのキャンピングカーの中で行われただろうか。

「ちょっと! あんたいい加減にしてよね! それじゃあ裏切りでしょ」

「ぼくちゃんは面白ければいいと思っているし、あの方の指示には何かしらの目的があると思ってるっすよ」

「どこか一貫性がないような……」

 その言葉に、俺は1人で首を傾げる。
 ヴェルウェザーの目的がまったくわからない。

 佐藤を殺したいのか、楓香を殺したいのか、それとも、片方を取ったらもう片方を排除するのか。

黒瀬くろせ、さっきの話だけど……」

 ここで俺のすぐ後ろで怯えている佐藤が、剣騎の戦いが始まりそうな緊迫した雰囲気の中、場違いな話をかましてきた。

『あたし……あんたのことが好き』

 今でも思い出すあのセリフ。

 簡潔だったが、ここで問題が発生する。

「悪いが、佐藤の気持ちに応えてやることは――」

「いいの。言わないで。振られたくないから……まだ」

「佐藤……」

 剣騎と少年がぶつかり始めた頃、俺たちは視線を交差させる。

才斗さいとくん! 浮気はしないでくださいね!」

 その間にいた楓香。
 楓香は俺の冒険者の直属の部下であり、それでいて恋人。

 顔は笑っていた。

 だが、目は笑っていなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

処理中です...