ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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白熱の最強冒険者決定戦編

第98話 窮地を窮地と思わない我らのクレイジー社長

 西園寺さいおんじ鬼龍院きりゅういんの戦いは、思っていたよりも長く続いた。

 実際に鬼龍院と戦ってみて感じたこととになるが、彼の戦い方は気合いだ。

 感情がそれぞれの攻撃にこもっていて、簡単に流せないほどの威圧感がある。
 俺が負けたのは単純な実力不足によるものや、迷いによる動きの抑制があったという要因が大きいものの、気合いに翻弄された部分も決して小さなものではない。

 西園寺も同じく、その強い感情から繰り出される攻撃に苦しめられていた。

 最初は様々な剣術のフォームを重ねながら、西園寺優勢で戦いを進めていたが、ある瞬間を境に、鬼龍院の動きがより大きく、速いものに変わった。

「西園寺さん、負けちゃうんですかね?」

「どうだろうな……」

 柔らかい体を密着させている楓香ふうかが不安げな表情で呟く。

 その問いに関しては、なんとも言えない。
 実力的には西園寺の方が上だと思うが……鬼龍院の勝利への執念も、それに負けていなかった。

「鬼龍院さんには妻と子供がいるらしい」

「え?」

「その2人に勝利を見せるために、あれだけ必死に……」

才斗さいとくん……わたしたちも、結婚しましょう!」

「「「――ッ」」」

 真一しんいち、姉さん、佐藤さとうが同時に吹き出した。真一の場合はオレンジジュースも一緒だ。

 俺はいつもの愛情表現だろうと思って、さほど驚かなかった。

「ダメ……才斗は誰にも渡さない」

「姉さん?」

 グッと。
 勢いよく俺の腕が引かれる。

 楓香に匹敵するほどの柔らかい体が、俺の腕を包み込んだ。

「け、結婚とか、早すぎるでしょ! あたしは認めないんだからね!」

「別にいいじゃないですかー。ていうかもう同棲してるし、もう結婚してるみたいなものですよ~」

「違うから! 結婚っていうのは、こう、なんていうか、もっと深刻な話だから!」

「才斗くんはどう思いますー? 子供とか何人欲しいですか~?」

 両側から体を引っ張られているので、絶妙に痛い。
 純粋なパワーで言えば、実力者の姉さんが強すぎる。

「ほな、そんなこと話してる間に、西園寺さんがヤバいことなってるで」

 俺たちを現実に引き戻したのは真一だった。

 巻き起こる悲鳴。
 揺れる会場。

 鬼龍院の咆哮が響き渡る。

「……斬られた」

 さらっと出た声。
 あっさりしていたが、これが事実だ。

 鬼龍院の凄まじい勢いとその後の波に乗った超能スキルにより、隙を作ってしまった西園寺が斬られた・・・・のだ。

「さ、西園寺さんの右腕が……」

 楓香がショックで目を見開いている。

 彼女の言う通り、西園寺の右腕は今、綺麗に切断されてフィールドの地面に転がっていた。

 相当グロテスクだ。
 これ、小さな子供も見ているんではなかろうか。

 ――というか、鬼龍院の娘はパパが人を切断することを見たのか?

 あまりに残酷すぎる。

「でもあの人、負けない」

 急に姉さんが口を開いた。

 じっと西園寺の右腕を見ていたかと思うと、どこか悟ったような表情で頷く。

「斬られる前より、オーラが大きくなってる」

「確かに……」

 ひしひしと感じる緊張感。
 これは会議の前に西園寺が出しているあの・・強烈な威圧感だ。

 魔力のオーラが彼の全身を纏い、周囲の人間に突き刺さるように激しくうごめいている。

「ちょっと、どうなってるわけ? 誰か説明しなさいよ!」

「佐藤さん静かに」

「あんたはなによ!」

「みんな集中してるので」

 佐藤と楓香が言い争っている。

 だが、会場の空気はそれどころじゃない。

 真一は怯えて震え始めたし、他の一般人の観客はどこから来たのかすらわからない謎の恐怖に困惑していた。

「この勝負、あの人が勝つ」

 この時、姉さんの放った自信ありげな言葉が、俺の脳裏に刻み込まれた。



 ***



 混乱と恐怖に包まれている会場。

 そのきっかけを作り出した張本人である鬼龍院は、右腕を失った西園寺を前にして勝ち誇った笑みを浮かべていた。

「てめぇもそこまでだったってことだな。最近弱くなったんじゃねぇのか?」

「そうかもしれない」

「素直に認めやがって。おいてめぇ、手加減してねぇだろうな? これまでのてめぇなら、あの攻撃は簡単にかわせたはずだ」

「自分の攻撃が成長したとは考えないのか?」

「癪だけどよ、剣術の腕で言えばてめぇに勝てる奴なんていねぇ。神宮司しんぐうじでさえもな。そんなてめぇが俺に剣術で負けただと? 信じられるかよ」

「単なる剣術ではない。超能スキルも交えた攻撃だった。私はそれに対応できなかっただけだ」

 西園寺は右腕を落とされるという窮地に立ってもなお、平静を貫き通していた。

 もしかしたら、これは彼にとって窮地ではないのかもしれない。
 もしこの会話を聞いている人間がいたのなら、そう思ったであろう。

 しかし、観客に彼らの会話は届かない。

 ここは西園寺と鬼龍院、2人だけの戦場だ。

「慣れないボルドー派で対応しようとしたことも、私の落ち度かもしれない」

「うるせぇ! これは反省会じゃねぇんだよ! どういうつもりだ? 本気で来ねえとぶち殺すぞ!」

 鬼龍院は明らかに腹を立てていた。

 本気の西園寺に勝つというのが彼の目標だったのに、今では西園寺に対して圧倒的な優勢ポジション。
 一度危ない場面があったものの、一気に形勢逆転した。

 というのが、一般的な戦況の見方だろう。

 西園寺は地面に落ちている自分の右腕を見つめると、口からゆっくりと息を吐いて、左手で剣を構えた。

「勘違いしているようだから言っておくが――私は常に本気だ」
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