ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命

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フロストハウル編

第110話 色っぽい麗人とタッグを組めという突然の指令

「まずは髪を乾かそうか。ここに座りたまえ」

 氷室ひむろさんことゼロナに誘導され、鏡の前の椅子に腰を下ろす。

 まずは状況を整理しよう。
 ここは美容室の地下にあるゼロナの部屋で、カリスマ美容師のゼロナは実はあの時の女冒険者で、Sランクに匹敵するほど強くて、西園寺さいおんじとも繋がりがあって……。

 情報量が多くてパンクしそうだ。
 少なくとも、ゼロナは敵ではない。

 ゼロナが俺の髪を優しくかす。やっぱりプロに触られると落ち着くな。

 キャパオーバーな俺の脳を癒してくれる。

 そのままシャンプーが始まった。
 3分程度のシャンプーの時間は、お互い無言だった。

 そのおかげで、いくらか状況を整理することができたし、冷静になる余裕ができた。

 髪がほぼ乾き、ワックスでのスタイリングが終わってから、ようやくゼロナが口を開く。

「紅茶とコーヒー、どっちがいい?」

「……紅茶で」

 飲み物ってかなり大事なのかもしれない。
 西園寺さいおんじとの会話で飲んだコーヒーの味を思い出す。あれは本当に美味しかった。

 今回紅茶を選んだのは、さっき飲んだものとは違うものがいいなと思ったからだ。

「わかってるね。ぼくも紅茶派だ」

 別にそういうつもりで言ったわけじゃない。ただ今の気分だっただけで、正直コーヒーも紅茶も同じくらい好きだと言える。

「紅茶にはこだわっていてね。毎日紅茶を飲まなければ生きていけない」

 俺は向かい合って座ることのできるテーブルに移動させられ、ゼロナはじっくり時間をかけて紅茶をれた。

 また生まれる時間の余裕。
 混乱の多い状況だが、すっかりリラックスできる空間へと変わっている。ゼロナの心の落ち着きが、俺の心にも伝わってくる。

 ゼロナの紅茶はあり得ないほど美味しかった。

 香りはフルーティーで、ほんのりと甘みがあり、心地よい渋みがある。
 まあ、紅茶初心者が味についてどうこう語るものでもないか。とりあえず、毎日飲みたくなるほどの美味しさだった。

 味に感動したことを伝えると、ゼロナは心底嬉しそうに微笑み、色っぽい瞳で俺を見つめてきた。

「ミスター・西園寺から才斗さいとのことは聞いている。つい先日Sランクに昇格した冒険者で、活動名はブラック。まずはSランク昇格、おめでとう」

「……ありがとうございます」

「驚くかもしれないが、ぼくはあまり情報を取り入れないタイプでね。スマホを持っていないからニュースも見ない。美容室に来るお客様から、ちょっとした情報を聞くくらいだ」

 この時代にスマホを持っていないなんて、なかなかの変わり者だ。

 情報過多になっている世の中だから、推奨されることもある。
 ゼロナの色気やミステリアスな雰囲気も、そうやって自分の世界を生きていることから生まれるのかもしれない。

「ゼロナさんは……」

「言っただろう。ゼロナでいい」

「ゼロナはその……何者なんですか?」

 少し失礼な聞き方になっただろうか。

 ゼロナ本人はまったく気にしてないようだ。
 紅茶をゆっくりと味わい、俺の質問に答えた。

「ぼくは所謂いわゆる、隠れSランク冒険者だ。ぼくは一応【ウルフパック】に所属するSランク冒険者として、密かに活動している」

「……他の幹部の連中は知ってるんですか?」

「他の幹部……すまないね、ぼくはミスター・西園寺とミスター・一ノ瀬いちのせくらいしか知らない。そしてぼくのことを知っているのは、ミスター・西園寺ただ1人」

 思っていた以上に限られた情報の中で生きているらしい。

 こちらとしては少し困るが、こだわっているようなので仕方ない。

「日本政府には冒険者申請しているから、一応政府も知っていることになるね。そして……これで才斗も秘密の共有者になった」

 魔女のような笑みを浮かべるゼロナ。

 完全に偏見だが、男をもてあそぶのが好きそうな人だなと思った。この魔性の微笑みの虜になった男は多そうだ。

「どうして俺が知ることになったんですか? 秘密事項ですよね?」

「ミスター・西園寺からは何も聞いていない、ということか」

「ただ美容室に行けと言われただけで……」

「そうか……ミスター・西園寺は演出にこだわるタイプなのかもしれない。それなら、ぼくがここで言うのは違う気がしてきた……」

「……?」

「今からミスター・西園寺に会いにいこう。ついてきたまえ」



 ***



 なんと美容室フロスト&プリュームの地下にあるゼロナの部屋は、西園寺リバーサイドに直接繋がっていた。

 綺麗に整備された通路を歩いて、10分ほどで西園寺リバーサイドの地下に着く。

 ゼロナ専用の秘密のエレベーターがあるようで、それに乗り込んで最上階の社長室に直行。
 ほんの少し前に来たところだ。

さい君か。よく似合ってる」

 西園寺の第一声は、俺のヘアスタイルに関してだった。

 以前より少しボリュームが減り、爽やかになった感じだろうか。
 西園寺のように、横と後ろの内側を刈り上げたツーブロックだ。ふと思ったが、西園寺の髪もゼロナに切ってもらっているのかもしれない。

「ありがとうございます」

「私の髪型にそっくりだ。髪色も同じだし……親子のようだな」

 なんだか西園寺、嬉しそう。

 自分で言うのはアレだが、西園寺って俺のこと本気で好きなんだよな。息子だと思われてる感じだ。
 別に嫌じゃないが、不思議な気分ではある。

「ミスター・西園寺、本題に関してはきみの口から言いたいんだろう?」

 ゼロナが指摘すると、西園寺はハッと我に返り、俺たちに向き直った。

「急な決定で申し訳ないが、今日からダンジョン遠征までのおよそ1ヶ月間、君たちには期間限定でタッグを組んでもらうことになった」
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