ワンコな弟分を押し倒そうとしたら、逆に食べられた話

花だんご

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ワンコな弟分を押し倒そうとしたら、逆に食べられた話

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まさか、自分の恋が成就するなんて。

ケイタは杯に注いだ酒をちびちび飲みつつ、感慨深くひとり頷いた。
そんなケイタの様子を怪訝に思ったのか、リュウホがひょいと小首を傾げる。

「どうした、ケイタ。そんな顔して、もう酔いが回ったのか?」
「む。違うっての。いい酒だなぁと思ってな」

内心を悟られるのは気恥ずかしい。咄嗟に口をついた言い訳だがリュウホは嬉しそうに笑った。

「そうだろう? とっておきの酒だからな。ケイタに喜んでもらえるなら、酒も冥利に尽きるってもんだ」

遠慮なく飲んでくれ、と徳利を向けられ、ケイタは大人しく杯を差し出した。

ここは二人が普段行きつける酒楼の小上がりではない。王都でも指折りの宿だった。
内装も質の良い落ち着いたものばかりで、こうやって二人でしんみりと酒を交わすにはもってこいの宿である。
時刻は夜。
今夜、ケイタとリュウホはここに泊まるのだ。
そう。恋人同士になってから初めての夜。
なんやかんやで両想いであることがわかり、それじゃあお付き合いしましょうかとなってから、初めての夜なのだ。ちょっと恥ずかしい。

数日前にリュウホに「夜の予定を空けておいてくれないか」と、真面目くさった顔で誘われた意味をケイタは正確に理解していた。


「……しっかりせんとな」
酒菜をつまみながらケイタは内心で握りこぶしを掲げた。
以前、さりげなく聞いたところ、リュウホは今まで男とどうこうなったことはなかったという。
まあ、そうだろう。
リュウホはこの男振りだ。
女のほうが放っておかないだろう。それこそ、これまで女性に困ったことはないに違いない。
だが、男同士でどうなると考えたことがないのはケイタも同じだ。
これまでは、綺麗なお姉さんや婀娜っぽい姐さんにときめきを覚える、健全な青年だったのだ。
ということはだ。男相手の経験値は、お互いゼロに近いだろう。

「――――こういう時は、自分がちゃんとリードしてやらんといかんだろ」
「りーど?」

ケイタの独り言を聞きとがめたリュウホが箸を銜えて首を傾げる。
キョトンと目を瞠る仕草に思わずケイタは呻いた。ぐう、とケイタの胸が苦しくなる。

「な、なんでもない」

なんでこんなガタイのいい男相手に可愛いと思わなくちゃいけないのだ。
惚れた欲目とは恐ろしいとケイタは戦慄した。ドキドキする胸を押さえる。

「ケイタ? どうした、顔が赤いぞ」
「いや、ほんと、なんでもないから! そうだ、ほら、リュウホも飲め、飲め」
「お、おう」

杯に酒を注いでやりながら、何気なくリュウホを眺める。
髭を生やし、髪の毛だって無造作に乱しているのに、ケイタにはリュウホがどうにも可愛く見えて仕方ない。
こんなに、むくつけき男なのに。
仕事の合間に「ケータ、疲れた」とケイタの背中に懐いてくる甘えた仕草に何度、胸がキュンとしたことか。
最初こそ、弟がいたらこんな感じかね。などと、微笑ましいと思っていただけだが、自分の恋心を自覚してからは、そうやってくっついてこられるたびに「か、可愛い」と思ってしまっている。
内でも外でも、リュウホは「頼れる兄貴分」として振る舞っているのに、ケイタの前でだけは気を緩めるのだ。
これで絆されないわけがない。
そんなことを繰り返した結果、ケイタの中では「リュウホは年下」という認識が出来上がった。

兄たるもの、弟分のことを優しく導いてやらねばなるまい。
使命感にも似た思いがこみあげる。
房事については、花街の馴染みの手代に聞いたり、露店の書物で予習済だ。
なので、大体の流れはわかっている。

大丈夫。ちゃんと気持ちよくしてやるからな、リュウホ。

決意とともに、ケイタは杯の酒を勢いよく飲み干した。

「リュウホ」

意識して声を低くして呼びかける。
リュウホの側ににじり寄ると、なるべく静かにリュウホの体に寄り添った。
急に押し倒して怯えられたくはなかったし、ガッついていると思われるのも癪なので、あくまでもさりげなくである。ケイタは気遣いができる男なのだ。
リュウホは、少しばかり驚いたように双眸を瞬かせたが嫌がる素振りはなかった。
それに安心して、そぅっと顔を寄せると、リュウホも心得たように顔を傾けてくれる。
音もなく交わす接吻。
ほんの軽く口唇を触れ合わせただけで顔を離すと、ケイタは照れ隠しにエヘヘと笑った。

「っ、ケイタ」

熱の籠もった声に促されるようにして、もう一度口づけをする。触れて離れて、さらにもう一度。
ちゅ、ちゅ、と触れるだけのそれが、どうしてだかとても気持ちよくてたまらない。
はあ、と吐息を洩らすリュウホの眼差しは、ケイタにもはっきりとわかるほど欲に満ちている。
それが嬉しくて、ケイタは小さく笑うと更にリュウホへ身を寄せた。
厚みのある背中に腕を回すと、心得たようにリュウホの腕もケイタの腰に絡められる。
いつのまにか口づけは触れるだけではなく、深いそれに変わっていていた。

「…ん、っ、ふ、…リュウホ、」
「っ、はは、…ケイタ、嬉しいな、こんなに積極的になってくれるなんて」

束の間はなれた口づけの合間に、リュウホはケイタの首筋に顔を埋めて嬉しそうに笑った。
スリスリと懐かれる。首筋に擦れる髭がむず痒くてケイタは「痛いって」と身を捩った。

「仕方ないだろ、お前とこうなるの、自分だって楽しみにしてたんだからな」
「そっか。―――おれもだよ、ケイタ。この日をずっと待ってた」

くしゃりと笑うリュウホの表情がどうにも幼く見えて、ケイタの胸は甘く苦しくなる。
こんなにバキバキの筋肉のついてる、いい年した野郎相手にこんなことを思うのは不本意なのだが仕方ない。可愛い。リュウホは可愛いのだ。

「お、お前なぁ、その顔はずるいだろ!」
「へ? …って、おお?」

たまらず、ケイタはリュウホにすがりつくと体重をかけて押し倒した。
布団に行くまえに押し倒すつもりじゃなかったんだが、と、ケイタは頭の片隅で考えたがすぐにそんな考えは吹き飛んだ。
両手でくしゃくしゃにリュウホの髪の毛を?き乱すと、ケイタは噛みつくようにリュウホに口づけする。
ケイタに応えるようにリュウホの両腕がケイタの背中に回り、分厚い手のひらで煽るように身体の線をなぞられると、背筋がゾクゾクと震えてしまう。

「んぅ…っ」

息苦しさに鼻から抜けるような甘い吐息がこぼれた。
それを狙ったように、リュウホの手がケイタの身体を力強く引き寄せる。
ぐり、と下肢と下肢が擦りつけられる感覚に、思わずケイタは腕をついて身を起こそうとした。

「ケイタ、…ケイタっ」

だが、必死な声で名を呼ばれればケイタは弱い。可愛い弟分なのだ。
それに、もとよりリュウホの両腕がケイタの身体に絡みついていて、離れることもできなかった。
もつれあうような体勢で、ケイタの下肢に自分の下肢を押し付けてくるリュウホのそこは、すでに熱を孕んでいる。
もちろん、ケイタのそこも勃ちあがりかけているのだが――――。

相変わらずデカいよなぁ。

グイグイとリズミカルに押し付けられる感覚に揺すられながらも、ケイタは薄らと眉根を寄せた。

まだ友人関係だった時分、何度も風呂を共にしたのだが、その時に目にしたリュウホのそこは、なんというか、さすがのソレだった。
リュウホは、髭と髪型で粗野に見せているだけで素顔は秀麗だ。そんな顔なのに、全身これ筋肉の体躯といい、雄々しい陽根といい、男として隙がないにもほどがある。
可愛げがあるのはフッサフサの尻尾くらいなものだった。

そう。リュウホのソコは、若くして名を挙げた男にふさわしい余裕と貫録を備えた逸物であった。

「こらこら、ケイタ、あんまマジマジと見ないでくれ」

などと、照れたように口を尖らす稚なげな素振りとは裏腹なソコに、女泣かせだねぇ、などとオッサンくさいことを考えた気がする。
つまりはこれも理由のひとつだった。
リュウホの持ち物と比べれば、ケイタのそれはなんというか経験値の少なさが現れていないでもないような、まあ、少しばかりツルンとした印象がある。
いや、けっして形や長さでは、それほどあんまり負けていないとは思うが、それでもリュウホのもつ歴戦の強者の風格と比べれば、まあ、なんというか、その、アレなのである。

ケイタは考えた。自分もリュウホも男同士。
残念なことに棒が二本ある。なけなしの穴にどちらかの一物を挿れなくてはならんのなら、自分のモンのほうが負担が少ないだろう、と。

というか、閨事を予習したいま、リュウホのアレが自分に挿いるとは到底思えなかった。
ゴツイしえげつないし。考えただけで背中に鳥肌が立ちそうだ。
いや、自分のソレだってリュウホに挿れたら痛いかもしれんが、リュウホのに比べればまだコンパクトサイズだ。
それに、リュウホは荒事に慣れているし、職業柄、痛みに強いと自称している。

きっと押せば、なんのかんの言いつつもケイタに押し倒されてくれるに違いない。
現にいまも、ケイタの体の下でリュウホは気持ちよさそうに荒く息をついているのだ。
よし、このまま、と思った時だ。リュウホが不満そうに目を眇めていることに気が付いた。

「―――む、余裕だなぁ、ケイタ、よそごと考える暇があるなんて」

力が抜けてしまい、リュウホの上でクタリともたれるケイタの耳元に落とされた囁きがくすぐったい。

「ん、そんなんじゃないって」
「んじゃ、これじゃ物足りないってこと?」

言いつつ、フウッと耳元に息を吹きかけられて、ケイタは情けない声をあげて肩を竦めた。

「せっかくの夜だってのに、ケータはつれないよなあ」
「だーから、そうじゃないって、その、…なんか緊張してきたっていうかだな」
「緊張」
「おう」

この後の流れとか、リュウホをどうやって慣らしてやろうかとか。ケイタとて色々考えているのだ。
ケイタの言葉に少し考えた素振りを見せたリュウホは、やがてケイタの腰をひと撫ですると、ひょいと身を起こした。
ケイタの身体を乗せたままだ。
なんという体幹だと驚くケイタに、リュウホはニカッと笑ってみせた。
そのまま、あれよと言う間にケイタの体を抱え上げると、隣室にしつらえられた寝所へと移動する。

よいせ、と掛け声とともに柔らかく布団に落とされて、あっけにとられるケイタの上に、リュウホが覆いかぶさってきた。

「ケイタ、怖かったらおれにしがみついてなよ」
「は? お、おい、リュウホ?」
「大丈夫、ケイタが初めてだってのは知ってる。これ以上ないってくらい、優しくしてやるからな」

嬉しそうな笑みと共に、ちゅ、ちゅ、と顔中に降る口づけ。
目を白黒させるケイタがじっとしてるのを了解と取ったのか、手際よくケイタの着ていた浴衣をはだけてゆく。
ケイタの耳の付け根に鼻先を突っ込んだリュウホが、すん、と鼻を鳴らす。次いできつく吸い付いてきた。

「ぁイッ…!」

痛みとと快感ともつかない鋭い衝撃にケイタが声をあげると、リュウホは満足げに吸いついたそこに舌を這わした。

「ん、ケータ、いい匂い。……ハア、ずっと、すげぇ我慢してたからかな、たまんねぇ」
「こら、くすぐった、って、おい、どこ触っ…!」
「どこって、ケイタの可愛いところ。ここも、ここにも、全部、おれのモンって印つけとかねぇと」

ごそごそとまさぐる手にあちこち撫でられる。
正直、気持ちがいいのだが、それとこれでは話が違う。
いったん仕切りなおそうとリュウホの肩に手を突っ張らせるが、びくともしなかった。

「なんだよ、ケイタ、まだ緊張してるのか?」
「違うけど、こういうのはお前じゃなくて、自分がするべきだろうが!」
「ケイタが?」

きょとんと小首を傾げる仕草は相変わらず可愛いのに、その眼だけがいつもと違った。
明かりを押さえた薄暗がりのなか、双眸が肉食の獣のように炯々と底光りしている。
その目を見た瞬間、急速に視界が狭まった気がした。自分のいる場所が小さな箱の中のように思えて、逃げ場のなさにケイタはゴクリと息を飲む。

ようやくケイタは悟った。

「……ええ?自分がこっちなのかよ…」

半泣きになったケイタをどう思ったのか、リュウホはとろけそうに甘い笑みと共にケイタの鼻先に口づけをした。

「怖がんなくていいからな、ケイタ。」

子供をあやすような声に、しかし、ケイタは安心などできなかった。

「いや、無理」

半泣きから一転。真顔になったケイタは、隙をついてリュウホの下から抜け出そうと試みる。

「自分の尻は繊細なんだよ。お前のデカブツを挿れられたら間違いなく壊れるわ! 悪いなリュウホ!この話はなかったことにしてくれ!」

普段は見せない素早さで、布団から転がり出ようとするケイタの腕を、リュウホの手ががしりと掴んで引きずりよせる。獲物を逃すまいとする獣の目がぎらりと光った。

「おいおい、ケイタ。そンな怖がるこたねぇだろ」
「うぉ! タンマ!待って、リュウホさん!ウェイト!」
「? さっきまではあんなに乗り気だったってのに、どうしたんだよ」

ズルズルと抱き寄せられる。もがこうにも器用に手足を押さえられていて、満足に寝返りも打てない有様だ。
涙目のケイタに頬を優しく(怖がらせないように)撫でて、リュウホはツルリと毛のない変わった形の耳元に優しく囁いたのだった。

「大丈夫、大丈夫、おれがケイタを傷つけるわけないだろ? だからホラ、力を抜いてくれ。な?」

無理です。
ぷるぷる首を振るケイタの見下ろして、リュウホは満足そうにその目を細めた。

「本当に、可愛いな、ケータは」



その夜、これ以上はないくらいの恥ずかしさを味わったケイタは、翌日はずっと布団から出ようとしなかった。

すっかり拗ねた恋人の機嫌をとるためにあの手この手を尽くす姿は、日ごろリュウホを王都の死後者として慕っている民が見たら目を疑うような情けなさであったという。


「いや、悪かった、ケイタ。嬉しくてついやりすぎてしまった」
「“つい”でこんなになってたまるか! あほリュウホ! もう絶対やらんぞ!」
「えっ」
「なんだよ」
「…えっ」

しおしおと萎れる耳と尻尾に、ケイタはウッと言葉に詰まった。
ガタイのいい男と、しょんぼりと下がるモフモフ尻尾とは、なんと姑息な組み合わせだろう。
クゥンと鼻を鳴らさんばかりの悲哀の目つきといい、なんというケイタ殺し。

「お前な、ズルイぞ、それは!」

悔しげに呻いたケイタが、リュウホの手管に絆されるのは時間の問題だった。


<Fin>
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