モブ従者はオメガを隠して平穏に暮らしたいのに!最強のアルファ王子に正体がバレて、なぜか王宮で溺愛されながら農業することになりました

水凪しおん

文字の大きさ
13 / 16

第12話「覚醒の魔力と運命のつがい」

しおりを挟む
 舞踏会での騒動から数日後、わたしは学園の裏庭に呼び出されていた。
 差出人はカイル様。
「大事な話がある」というメモを受け取ったのだ。
 だが、そこにいたのはカイル様ではなかった。
 黒いローブをまとった数人の男たち。
 その魔力波動は、あの迷宮で感じた強化ゴーレムと同じ質のものだった。

「やはり来たか。ジェラルド殿下のお気に入り」

 男の一人が嗤う。
 わたしは即座に踵を返し、逃走を図った。
 だが、周囲にはすでに結界が張られていた。
 空間が歪み、出口が見つからない。

「無駄だ。ここは隔離された空間。誰も助けには来ない」

「目的は何ですか」

「お前の正体だよ。オメガだろう? それも、ただのオメガではない。殿下をたぶらかす希少種だ」

 彼らはわたしの秘密を知っている。
 男爵の仲間か、あるいは敵対国の工作員か。
 男たちが魔法を一斉に放つ。
 わたしは防御魔法を展開するが、多勢に無勢だ。
 結界内では抑制剤の副作用が強く出るのか、魔力の制御がうまくいかない。
 障壁が砕かれ、衝撃で吹き飛ばされる。

「ぐっ……!」

 地面に叩きつけられ、激痛が走る。
 男の一人がわたしを見下ろし、何かを唱え始めた。
 拘束魔法だ。
 手足が動かない。
 男の手が伸びてくる。

「殿下の目の前で、お前を汚してやれば、あの冷徹な王子も発狂するだろうな」

 最悪のシナリオだ。
 ジェラルド王子を精神的に追い詰めるための道具として、わたしを使おうとしている。
 絶望が胸を覆う。
 だが、その時だった。
 結界に亀裂が入った。
 ガラスが割れるような音と共に、黄金の光が空間を切り裂いた。

「……貴様ら、死にたいようだな」

 地獄の底から響くような声。
 裂け目から現れたのは、剣を抜き放ったジェラルド王子だった。
 彼の全身からは、怒りという名の魔力が青白い炎のように噴き出している。
 その姿は、まさしく「聖騎士」の名にふさわしい。
 だが、その瞳は正気とは思えないほど赤く輝いていた。

「ジェラルド……!?」

 男たちが怯む。
 王子は一歩踏み出し、剣を一閃させた。
 それだけで、男たちの張っていた結界が粉々に砕け散る。
 圧倒的な力。

「リアンに触れるな」

 彼は獣のように咆哮し、男たちに襲いかかった。
 魔法も剣技も、すべてが一撃必殺の威力だ。
 男たちは為す術もなく薙ぎ払われていく。
 だが、最後の一人が、隠し持っていた魔道具を起動させた。
 自爆だ。
 膨大な魔力が膨れ上がる。

「殿下、危ない!」

 わたしは拘束を無理やり引きちぎり、叫んだ。
 自分の身を顧みず、彼を庇おうと飛び出す。
 その瞬間、わたしの体内で何かが弾けた。
 抑制剤で押さえつけていた魔力と、オメガとしての本能が完全に解放されたのだ。
 わたしの体から、眩いばかりの光が溢れ出した。
 それは純白の輝き。
 全属性の魔力が融合し、絶対的な防御領域を作り出す。
 自爆の炎はその光に飲み込まれ、音もなく消滅した。
 周囲が静寂に包まれる。
 わたしは力を使い果たし、崩れ落ちた。
 地面にぶつかる前に、温かい腕がわたしを受け止めた。

「……リアン! しっかりしろ!」

 ジェラルド王子の声が震えている。
 薄れゆく意識の中で、わたしは彼の顔を見上げた。
 泣いているのだろうか。
 視界が霞んでよく見えない。
 ただ、彼の匂いがわたしを包み込んでいることだけがわかった。
 心地よい、魂が安らぐ香り。

「匂いが……変わった」

 彼はつぶやいた。
 わたしの体から放たれるフェロモンが、彼と同調し、混じり合っている。
 それは「運命のつがい」として完全に覚醒した証だった。

「俺の、つがい……やっと見つけた」

 彼はわたしの額に口づけ、強く抱きしめた。
 その腕の中で、わたしは深い眠りに落ちていった。
 夢の中で、金色の麦畑が風に揺れている光景を見たような気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

記憶喪失のフリをしたあざといスパイですが、全部お見通しの皇帝陛下に「嘘の婚約者」として閉じ込められています

たら昆布
BL
処刑寸前のスパイが事故にあった後、記憶喪失のフリをして皇帝の婚約者だと偽る話

オメガだと隠して魔王討伐隊に入ったら、最強アルファ達に溺愛されています

水凪しおん
BL
前世は、どこにでもいる普通の大学生だった。車に轢かれ、次に目覚めた時、俺はミルクティー色の髪を持つ少年『サナ』として、剣と魔法の異世界にいた。 そこで知らされたのは、衝撃の事実。この世界には男女の他に『アルファ』『ベータ』『オメガ』という第二の性が存在し、俺はその中で最も希少で、男性でありながら子を宿すことができる『オメガ』だという。 アルファに守られ、番になるのが幸せ? そんな決められた道は歩きたくない。俺は、俺自身の力で生きていく。そう決意し、平凡な『ベータ』と身分を偽った俺の前に現れたのは、太陽のように眩しい聖騎士カイル。彼は俺のささやかな機転を「稀代の戦術眼」と絶賛し、半ば強引に魔王討伐隊へと引き入れた。 しかし、そこは最強のアルファたちの巣窟だった! リーダーのカイルに加え、皮肉屋の天才魔法使いリアム、寡黙な獣人暗殺者ジン。三人の強烈なアルファフェロモンに日々当てられ、俺の身体は甘く疼き始める。 隠し通したい秘密と、抗いがたい本能。偽りのベータとして、俺はこの英雄たちの中で生き残れるのか? これは運命に抗う一人のオメガが、本当の居場所と愛を見つけるまでの物語。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...