ブラック企業勤めの俺が転生したのは悪役令息(Ω)!? 追放先の辺境で無骨な騎士団長(α)に出会い、飯テロしながら胃袋と愛を掴み取りました

水凪しおん

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第9話「悪役令息の幸福な結末」

 俺たちの反撃が始まってから、ひと月も経たないうちに、隣国は白旗を上げた。圧倒的な力の差を見せつけられ、戦意を完全に喪失したのだ。国は滅亡の危機から救われ、戦争は終わりを告げた。
 王都に凱旋した俺たち――特にカイさんと辺境騎士団は、民衆から熱狂的な歓迎を受けた。人々は口々に俺の名を呼び、「聖人リヒト様」と讃えた。それは、かつて悪役令息と呼ばれていた俺にとって、夢のような光景だった。
 戦後処理は、迅速に進められた。
 まず、リリアナの罪が公式に断罪された。彼女が王子を唆し、俺を陥れた数々の証拠が明るみに出たのだ。彼女が聖女として行った奇跡の数々も、土地の生命力を犠牲にする危険な魔法であったことが暴露された。彼女は国を欺き、滅亡の危機に追いやった大罪人として、国境の修道院に生涯幽閉されることとなった。
 そして、アルトゥル王子。彼はリリアナに騙されていたとはいえ、嫉妬からリヒトを不当に断罪し、国政を顧みなかった責任は重い。彼は自ら王位継承権を放棄し、父である国王の計らいで、王族の身分を保持したまま離宮で謹慎することになった。彼が俺に向ける視線には、もはや嫉妬や侮蔑はなく、深い後悔の色だけが浮かんでいた。すべては、自業自得の結果だった。
 国王は、玉座の間で改めて俺とカイさんの前に立ち、深々と頭を下げた。
「リヒト殿、そしてカイ団長。国を救ってくれたこと、心より感謝する。そしてリヒト殿、過去の仕打ち、本当に申し訳なかった」
「もう、いいのです。陛下」
 俺は静かに首を振った。
「約束通り、俺の自由と、辺境の自治を認めていただけますね?」
「うむ、約束だ。そなたはもう、誰にも縛られることはない。ヴァイス公爵家への復籍も…」
「お断りします」
 俺はきっぱりと答えた。
「俺の姓はもうありません。ただのリヒトです。そして、俺の帰る場所は、シュヴァルツ辺境領だけですから」
 俺の言葉に、隣に立つカイさんが優しく微笑んだ。
 数日後、俺たちは全てのしがらみを断ち切り、辺境へと帰還した。領都では、騎士団の仲間たちや領民たちが、まるで本当の英雄を迎えるかのように、俺たちを温かく出迎えてくれた。
「おかえりなさい、リヒトさん、団長!」
 その声を聞いた時、俺は心の底から「ただいま」と言えた。
 王都での栄華も、聖人という称号も、俺には必要ない。俺が欲しかったのは、この温かい場所と、愛する人の隣で笑い合える、ささやかな日常だけだ。
 悪役令息の物語は、断罪イベントで終わったわけじゃなかった。本当のハッピーエンドは、ここから始まるのだ。俺はカイさんの逞しい腕に抱かれながら、どこまでも青く澄んだ辺境の空を見上げ、自分の手に入れた幸せを、強く、強く噛み締めた。

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