役立たずと婚約破棄された僕、極寒の辺境でもふもふ聖獣に懐かれたら、なぜか氷の公爵様にも執着されて甘々に溺愛されてます

第16話：王都からの使者

　ヴァイスハルト城の静寂を破り、けたたましい角笛の音が響き渡った。王都からの使者が到着したのだ。
　玉座の間に通された使者の一団を率いていたのは、騎士団長のバルトークだった。彼は、かつて王都でリアムを「役立たず」と散々見下し、嘲笑っていた男の一人だ。

　バルトークは、玉座に座るカイゼルを一瞥すると、傲慢な態度で言い放った。
「ヴァイスハルト公爵。王太子殿下からの勅令である。よく聞くがいい」
　カイゼルは無言で顎をしゃくって、続きを読むように促す。その冷たい視線に、バルトークは一瞬怯んだが、王命という虎の威を借りて、すぐに強気な態度を取り戻した。

「聖獣使いリアムを、即刻王都へ返還せよ。これは王命である！」
　その言葉が響き渡った瞬間、広間の空気が凍り付いた。カイゼルの背後に控えていたリアムは、自分の名前を呼ばれ、びくりと肩を震わせる。
　また、奪われるのか。
　この温かい居場所も、フェンとの穏やかな日々も、あの悪夢のような王都に、また奪われてしまうのか。
　恐怖で血の気が引いていくリアムの隣で、フェンが「グルルルル……」と、地を這うような低い唸り声を上げた。その金色の瞳には、明らかな敵意が宿っている。

　使者たちは、伝説の聖獣が放つ凄まじい威圧感に気圧され、後ずさった。バルトークも顔色を変えたが、ここで引くわけにはいかないと虚勢を張る。
「な、なんだその獣は！　公爵、早くその男を引き渡せ！　聖獣もだ！　それは本来、王家が管理すべきもの！」
　彼は、リアムをまるで物のように扱い、引き渡せと繰り返す。その言葉の一つ一つが、リアムの心をナイフのように切りつけた。

（僕は、物じゃない……）
　俯くリアムの拳が、小さく震える。王都では、誰も僕を一人の人間として見てくれなかった。そして、ここでもまた同じ扱いを受けるのか。
　だが、次の瞬間、リアムの耳に聞こえてきたのは、冷たく、しかし力強い声だった。

「断る」
　玉座に座るカイゼルの声は、静かだった。だが、その一言には、誰にも覆すことのできない、絶対的な拒絶の意思が込められていた。