路地裏オメガの餌付け婚~味覚を失った最強公爵様は、僕の料理とフェロモンにだけ発情するようです~

水凪しおん

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第5話「市場でのデート」

「今日は私が同行する」

 朝の厨房で、レオンハルト様が宣言した。

 今日は月に一度の大市の日。新鮮な食材を仕入れに街へ出る予定だったのだが、まさか公爵様自らが付き添うとは。

「ええっ!? でも、旦那様はお忙しいのでは……」

「公務は片付けた。それに、お前一人で外に出すのは……心配だ」

 彼は最後の方は口ごもりながら言った。

 どうやら、僕が以前いた店の人間に絡まれないか警戒してくれているらしい。

「わかりました。では、お願いします」

 変装のため、レオンハルト様は目立たない服に着替え、伊達メガネをかけてくれた。それでも溢れ出るオーラは隠せていないけれど。

 街の市場は活気に満ちていた。色とりどりの野菜、山盛りの果物、そして吊るされた肉塊。

 僕は水を得た魚のように店から店へと飛び回った。

「見てください旦那様! このオーク肉、脂のサシが最高ですよ!」

「ふむ、そうなのか? 俺にはただの脂身にしか見えんが」

「焼くとここが甘くなるんです。今夜はこれで特大ステーキにしましょう」

 僕が楽しそうに話すと、レオンハルト様も自然と笑みをこぼす。

 二人は並んで歩いた。彼は常に僕の半歩後ろを歩き、人混みから守るように背中に手を添えてくれている。

 その大きな手の温もりが、服越しに伝わってくる。

 まるで、デートみたいだ。

 そんなふうに思ってしまい、僕はまた顔を赤らめる。

「おい、あのお方……氷狼公じゃないか?」

「まさか。あんなに楽しそうな顔をするはずがない」

 周囲の囁き声が聞こえたが、レオンハルト様は気にする様子もない。

 買い出しが終わり、荷物は護衛の騎士に預けて、僕たちは少し休憩することにした。

 オープンカフェのテラス席。僕は果実水を、彼は冷たい紅茶を注文した。

「ノア、あーん」

 ……え?

 いきなり目の前に、串焼きの肉が差し出された。露店で買った鳥型の魔獣の串焼きだ。

「い、いいんですか? これは旦那様が食べる分じゃ……」

「毒見だ。……というのは冗談で、お前が食べたそうに見ていたからな」

 図星だった。さっき通りがかりにチラ見したのを気づかれていたとは。

 僕は恥ずかしさをこらえ、パクっと一口食べた。

「んんっ! 美味しい!」

 甘辛いタレと、ジューシーな肉汁。

 僕が頬を膨らませてモグモグしていると、レオンハルト様が指を伸ばし、僕の唇についたタレを拭った。

 そして、その指を自分の口へ。

「……確かに、悪くない」

 ぺろりと舐めとる仕草が、妙に色っぽくて。

 周囲の女性客から黄色い悲鳴が上がるのが聞こえた。

 この人は、無自覚に人をたぶらかす天才だ。

 穏やかで幸せな時間。

 こんな時間がずっと続けばいいのに。

 そう思った矢先、視界の端に見覚えのある姿が映り込んだ。

 にやついた顔。脂ぎった肌。

 ガストンだ。

 彼は路地の陰から、憎悪に満ちた目でこちらを睨みつけていた。

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