路地裏オメガの餌付け婚~味覚を失った最強公爵様は、僕の料理とフェロモンにだけ発情するようです~

水凪しおん

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第6話「忍び寄る悪意」

 その夜、事件は起きた。

 レオンハルト様は急な会議で王宮に呼び出され、夕食の時間には戻れなかった。

 僕は一人で厨房に残り、彼の帰りを待つための夜食の下準備をしていた。

 静かな厨房。

 ふと、勝手口の扉がガタガタと音を立てた。

 風だろうか?

 確認しようと近づいた瞬間、扉が蹴破られた。

「やっと見つけたぞ、クソガキ!」

 侵入してきたのは、数人のゴロツキと、その中心にいるガストンだった。

「ガ、ガストンさん!? どうしてここに……」

「うるせえ! お前のせいで俺の店は滅茶苦茶だ! あの公爵が置いていった金は、借金取りに全部持っていかれたんだよ!」

 逆恨みだ。手切れ金は十分な額だったはずなのに、きっと博打か何かで使い果たしたのだろう。

「公爵様に見初められたからって、いい気になりやがって。そのツラ、メチャクチャにしてやる」

 ガストンがナイフを取り出す。

 僕はフライパンを構えて後退った。

「来ないで! 大声を出しますよ!」

「出せるもんなら出してみろ。このあたりには結界を張ってある。声なんか届かねえよ」

 ゴロツキたちが下品な笑みを浮かべて近づいてくる。

 僕は震える手でフライパンを握りしめた。

 ここで逃げるわけにはいかない。この厨房は、レオンハルト様が僕に与えてくれた大切な場所だ。

「おい、こいつ……甘い匂いがしねえか?」

 ゴロツキの一人が鼻を鳴らした。

「ああ、間違いない。こいつ、オメガだぜ」

「なにっ!?」

 最悪のタイミングで、隠していた秘密が露呈した。緊張と恐怖で、フェロモンのコントロールが乱れたのだ。

「へへっ、オメガだったとはな。男でもオメガなら楽しめる」

「公爵様の愛玩動物を汚してやるのも一興だな」

 男たちの目が、暴力的な色から、ねっとりとした欲望の色へと変わる。

 恐怖で足がすくむ。

 いやだ。汚される。

 助けて、レオンハルト様――!

「覚悟しろ、ノア!」

 ガストンが飛びかかってきた。

 僕は目を閉じて、フライパンをめちゃくちゃに振り回した。

 ガキン!

 硬い音がして、手首に激痛が走る。ナイフが腕をかすめ、赤い血が飛んだ。

「うあっ!」

 僕は床に倒れ込んだ。

 すぐに数人の男たちに押さえつけられる。

「離せ! 離してください!」

「大人しくしろ! すぐに気持ちよくしてやる」

 絶体絶命。

 服を引き裂かれそうになった、その時だった。

 ドォォォォン!!

 轟音と共に、厨房の壁が吹き飛んだ。

 砂煙の向こうに、青白い冷気をまとった「鬼神」が立っていた。

 その瞳は激怒に染まり、周囲の空気を凍てつかせていた。

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