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第9話「氷解する心と、初めての口づけ」
翌朝、僕が目を覚ますと、窓から差し込む陽光が部屋いっぱいに溢れていた。
体のだるさは残っているものの、昨夜のような焼き尽くされるような熱さは消えていた。
ベッドの脇の椅子に、レオンハルト様が座ったまま仮眠をとっていた。腕組みをして、眉間にしわを寄せたままの寝顔。
一晩中、僕の看病をしてくれていたのだろうか。
胸がいっぱいになり、僕はそっと手を伸ばして彼の強張った眉間を指先でなぞった。
「……ん」
彼がゆっくりとまぶたを持ち上げる。
アイスブルーの瞳が僕を捉え、瞬時に安堵の色に染まった。
「気がついたか。気分はどうだ?」
「はい……おかげさまで、随分と楽になりました」
僕が起き上がろうとすると、彼がすぐに手を貸し、背中にクッションを挟んでくれた。過保護なほどの手つきに、くすぐったさと愛おしさが込み上げる。
「昨夜は、その……すまなかった。強引なことをした」
彼はバツが悪そうに視線を逸らした。
「いえ! 助けていただいたんです。それに……嬉しかったです」
僕の言葉に、彼は驚いたように目を見開いた。
「……オメガであることを隠していたこと、怒っていませんか?」
僕は恐る恐る尋ねた。一番の懸念事項だ。
レオンハルト様は首を横に振った。
「怒るわけがない。むしろ、気づいてやれなかった自分が不甲斐ない。……辛かっただろう。一人で抱え込んで」
その優しい声に、我慢していた涙が滲んだ。
ずっと怖かった。バレたら捨てられる、虐げられると思っていた。でも、この人は全てを受け入れてくれた。
「お前がオメガだろうとベータだろうと、関係ない。お前はお前だ。俺に『生きる味』を教えてくれた、たった一人の料理人だ」
彼は僕の手を取り、その甲に口づけを落とした。
そして、真剣な眼差しで僕を見据える。
「ノア。俺の呪いが、なぜお前の料理でだけ和らぐのか、なんとなくわかった気がする」
「え?」
「この呪いは、心を凍てつかせるものだ。だからこそ、魂のつながりを持つ『番』が込めた愛情だけが、氷を溶かし、味を届けることができたんだ」
運命の番。
おとぎ話だと思っていた。けれど、今、確かな温もりがここにある。
「僕は……ただの孤児で、料理しか能がありません。それでも、いいんでしょうか」
「お前の料理が世界で一番だ。そして、お前自身が、俺にとっての世界だ」
もう、言葉はいらなかった。
自然と顔が近づき、今度は理性のブレーキのない、愛を確かめ合う口づけを交わした。
朝の光の中で、二人の影が一つに重なる。
唇が離れたとき、レオンハルト様は蕩(とろ)けるような甘い笑顔を見せた。
「……腹が減ったな」
「ふふっ、はい。特製の朝ごはん、作りますね」
「いや、今日ばかりは休め。俺が粥くらいなら作れる……かもしれない」
「ええっ、厨房が凍っちゃいますよ!」
僕たちが笑い合ったその時、控えめなノックの音が響いた。
執事のセバスチャンさんが、朝食のカートを押して入ってくる。その顔は、これ以上ないほどに晴れやかだった。
体のだるさは残っているものの、昨夜のような焼き尽くされるような熱さは消えていた。
ベッドの脇の椅子に、レオンハルト様が座ったまま仮眠をとっていた。腕組みをして、眉間にしわを寄せたままの寝顔。
一晩中、僕の看病をしてくれていたのだろうか。
胸がいっぱいになり、僕はそっと手を伸ばして彼の強張った眉間を指先でなぞった。
「……ん」
彼がゆっくりとまぶたを持ち上げる。
アイスブルーの瞳が僕を捉え、瞬時に安堵の色に染まった。
「気がついたか。気分はどうだ?」
「はい……おかげさまで、随分と楽になりました」
僕が起き上がろうとすると、彼がすぐに手を貸し、背中にクッションを挟んでくれた。過保護なほどの手つきに、くすぐったさと愛おしさが込み上げる。
「昨夜は、その……すまなかった。強引なことをした」
彼はバツが悪そうに視線を逸らした。
「いえ! 助けていただいたんです。それに……嬉しかったです」
僕の言葉に、彼は驚いたように目を見開いた。
「……オメガであることを隠していたこと、怒っていませんか?」
僕は恐る恐る尋ねた。一番の懸念事項だ。
レオンハルト様は首を横に振った。
「怒るわけがない。むしろ、気づいてやれなかった自分が不甲斐ない。……辛かっただろう。一人で抱え込んで」
その優しい声に、我慢していた涙が滲んだ。
ずっと怖かった。バレたら捨てられる、虐げられると思っていた。でも、この人は全てを受け入れてくれた。
「お前がオメガだろうとベータだろうと、関係ない。お前はお前だ。俺に『生きる味』を教えてくれた、たった一人の料理人だ」
彼は僕の手を取り、その甲に口づけを落とした。
そして、真剣な眼差しで僕を見据える。
「ノア。俺の呪いが、なぜお前の料理でだけ和らぐのか、なんとなくわかった気がする」
「え?」
「この呪いは、心を凍てつかせるものだ。だからこそ、魂のつながりを持つ『番』が込めた愛情だけが、氷を溶かし、味を届けることができたんだ」
運命の番。
おとぎ話だと思っていた。けれど、今、確かな温もりがここにある。
「僕は……ただの孤児で、料理しか能がありません。それでも、いいんでしょうか」
「お前の料理が世界で一番だ。そして、お前自身が、俺にとっての世界だ」
もう、言葉はいらなかった。
自然と顔が近づき、今度は理性のブレーキのない、愛を確かめ合う口づけを交わした。
朝の光の中で、二人の影が一つに重なる。
唇が離れたとき、レオンハルト様は蕩(とろ)けるような甘い笑顔を見せた。
「……腹が減ったな」
「ふふっ、はい。特製の朝ごはん、作りますね」
「いや、今日ばかりは休め。俺が粥くらいなら作れる……かもしれない」
「ええっ、厨房が凍っちゃいますよ!」
僕たちが笑い合ったその時、控えめなノックの音が響いた。
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