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第4話「忍び寄る悪意の影」
秘密の恋が始まってからの日々は、まるで夢のようだった。
リュウとハルトは、互いの想いを確かめ合ったことで、より一層強く結びついた。撮影現場では、あくまで先輩と後輩の関係を崩さない。だが、交わされる視線には確かな熱が宿り、偶然を装って触れ合う指先には、愛しさが通い合った。
撮影が終わると、リュウは人目を忍んでハルトを自分のマンションに招いた。そこは、芸能界の喧騒から隔絶された、二人だけの聖域だった。
「帝王」の仮面を脱ぎ捨てたリュウは、驚くほど甘えん坊で、少しだけ不器用な、ただの恋する男だった。ハルトの作る素朴な手料理を「世界一美味い」と喜び、ハルトが隣にいるだけで、子供のように安心しきった顔で眠る。そんな素顔に触れるたび、ハルトの胸は愛しさで満たされた。
ハルトもまた、リュウの腕の中では、ただの桜庭陽翔でいられた。田舎から出てきた不安も、新人としてのプレッシャーも、リュウの温もりに包まれると、不思議と溶けていく。彼の隣が、自分の本当の居場所なのだと、心の底から感じていた。
「陽翔、愛してる」
「僕もです、竜也さん」
そんな甘い言葉を交わし、幸せを噛みしめる毎日。この輝くような日々が、永遠に続くものだと、二人は信じて疑わなかった。
だが、光が強ければ、影もまた濃くなる。彼らの幸福を快く思わない者たちが、すぐそこにいた。
西園寺海斗は、日に日に自信をつけ、輝きを増していくハルトの姿を、苦々しい思いで見ていた。最初はただの、藤堂竜也に媚びを売る新人だと見下していた。だが、彼の演技は、リュウと関わるようになってから、見違えるように深みと力強さを増していた。
「何なんだ、あのオメガは……」
カイトの苛立ちは、嫉妬へと変わっていく。そして、その嫉妬の矛先は、ハルトだけでなく、彼をそうさせたリュウへと向けられた。カイトは、撮影の合間にリュウとハルトが交わす、親密な視線に気づいていた。それは、単なる先輩後輩のそれを、明らかに超えていた。
「……面白い。帝王の化けの皮を剥がす、いいネタになるかもしれないな」
カイトの口元に、歪んだ笑みが浮かぶ。彼はリュウを蹴落とすためなら、どんな汚い手を使うことも厭わない。彼は早速、懇意にしているゴシップ週刊誌の記者に、一本の電話を入れた。
その記者こそ、山崎沙織だった。彼女は「スクープのためなら手段を選ばない」と業界で恐れられる、執拗な女だった。カイトからの密告は、彼女のハイエナのような嗅覚を強く刺激した。
『芸能界の帝王・藤堂竜也と、無名の新人オメガ俳優ねえ……』
沙織は、にやりと口角を上げた。もしこれが事実なら、今年一番の大スクープになる。彼女は早速、リュウとハルトの周辺を嗅ぎまわり始めた。
最初は、何も証拠は掴めなかった。二人は、驚くほど慎重に行動していたからだ。だが、沙織は諦めない。テレビ局の駐車場、撮影所の出入り口、そしてリュウの住む高級マンションの前。彼女は昼夜を問わず張り込みを続けた。
そして、その執念は、ついに実を結ぶことになる。
幸せの絶頂にいるリュウとハルトは、自分たちに向けられている悪意の視線に、まだ気づいていなかった。
「なあ、陽翔。今度の休み、どこかへ行かないか?」
リュウのマンションで、ソファに座り映画を観ていた時、リュウが言った。
「どこかって……僕たち、外でデートなんてできませんよ」
ハルトが少し寂しそうに笑う。
「変装すれば大丈夫だ。……君と、普通に街を歩いてみたい。手を繋いで、カフェに入って、くだらないことで笑い合いたいんだ」
リュウの真剣な言葉に、ハルトの胸が高鳴る。それは、ハルト自身がずっと夢見ていたことだった。
「……行きたいです」
「決まりだな」
リュウは嬉しそうに笑うと、ハルトを優しく抱きしめた。
その腕の中で、ハルトは漠然とした不安を感じていた。幸せすぎることが、逆に怖い。この温もりが、いつか壊されてしまうのではないか。そんな予感が、胸の奥をチリチリと焦がす。
「竜也さん」
「ん?」
「僕たち、ずっと一緒にいられますよね?」
その問いに、リュウは腕の力を込めて答えた。
「当たり前だろ。俺が、必ずお前を守る」
その力強い言葉に、ハルトは不安を振り払うように、ぎゅっと目を閉じた。
だが、彼らのすぐ足元まで、黒く、粘ついた悪意の影が、音もなく忍び寄っていた。カイトの歪んだ嫉妬と、沙織の飽くなき功名心。二つの悪意が交差する時、二人の幸せな日々は、脆くも崩れ去ることになる。
破滅へのカウントダウンは、もう始まっていた。
リュウとハルトは、互いの想いを確かめ合ったことで、より一層強く結びついた。撮影現場では、あくまで先輩と後輩の関係を崩さない。だが、交わされる視線には確かな熱が宿り、偶然を装って触れ合う指先には、愛しさが通い合った。
撮影が終わると、リュウは人目を忍んでハルトを自分のマンションに招いた。そこは、芸能界の喧騒から隔絶された、二人だけの聖域だった。
「帝王」の仮面を脱ぎ捨てたリュウは、驚くほど甘えん坊で、少しだけ不器用な、ただの恋する男だった。ハルトの作る素朴な手料理を「世界一美味い」と喜び、ハルトが隣にいるだけで、子供のように安心しきった顔で眠る。そんな素顔に触れるたび、ハルトの胸は愛しさで満たされた。
ハルトもまた、リュウの腕の中では、ただの桜庭陽翔でいられた。田舎から出てきた不安も、新人としてのプレッシャーも、リュウの温もりに包まれると、不思議と溶けていく。彼の隣が、自分の本当の居場所なのだと、心の底から感じていた。
「陽翔、愛してる」
「僕もです、竜也さん」
そんな甘い言葉を交わし、幸せを噛みしめる毎日。この輝くような日々が、永遠に続くものだと、二人は信じて疑わなかった。
だが、光が強ければ、影もまた濃くなる。彼らの幸福を快く思わない者たちが、すぐそこにいた。
西園寺海斗は、日に日に自信をつけ、輝きを増していくハルトの姿を、苦々しい思いで見ていた。最初はただの、藤堂竜也に媚びを売る新人だと見下していた。だが、彼の演技は、リュウと関わるようになってから、見違えるように深みと力強さを増していた。
「何なんだ、あのオメガは……」
カイトの苛立ちは、嫉妬へと変わっていく。そして、その嫉妬の矛先は、ハルトだけでなく、彼をそうさせたリュウへと向けられた。カイトは、撮影の合間にリュウとハルトが交わす、親密な視線に気づいていた。それは、単なる先輩後輩のそれを、明らかに超えていた。
「……面白い。帝王の化けの皮を剥がす、いいネタになるかもしれないな」
カイトの口元に、歪んだ笑みが浮かぶ。彼はリュウを蹴落とすためなら、どんな汚い手を使うことも厭わない。彼は早速、懇意にしているゴシップ週刊誌の記者に、一本の電話を入れた。
その記者こそ、山崎沙織だった。彼女は「スクープのためなら手段を選ばない」と業界で恐れられる、執拗な女だった。カイトからの密告は、彼女のハイエナのような嗅覚を強く刺激した。
『芸能界の帝王・藤堂竜也と、無名の新人オメガ俳優ねえ……』
沙織は、にやりと口角を上げた。もしこれが事実なら、今年一番の大スクープになる。彼女は早速、リュウとハルトの周辺を嗅ぎまわり始めた。
最初は、何も証拠は掴めなかった。二人は、驚くほど慎重に行動していたからだ。だが、沙織は諦めない。テレビ局の駐車場、撮影所の出入り口、そしてリュウの住む高級マンションの前。彼女は昼夜を問わず張り込みを続けた。
そして、その執念は、ついに実を結ぶことになる。
幸せの絶頂にいるリュウとハルトは、自分たちに向けられている悪意の視線に、まだ気づいていなかった。
「なあ、陽翔。今度の休み、どこかへ行かないか?」
リュウのマンションで、ソファに座り映画を観ていた時、リュウが言った。
「どこかって……僕たち、外でデートなんてできませんよ」
ハルトが少し寂しそうに笑う。
「変装すれば大丈夫だ。……君と、普通に街を歩いてみたい。手を繋いで、カフェに入って、くだらないことで笑い合いたいんだ」
リュウの真剣な言葉に、ハルトの胸が高鳴る。それは、ハルト自身がずっと夢見ていたことだった。
「……行きたいです」
「決まりだな」
リュウは嬉しそうに笑うと、ハルトを優しく抱きしめた。
その腕の中で、ハルトは漠然とした不安を感じていた。幸せすぎることが、逆に怖い。この温もりが、いつか壊されてしまうのではないか。そんな予感が、胸の奥をチリチリと焦がす。
「竜也さん」
「ん?」
「僕たち、ずっと一緒にいられますよね?」
その問いに、リュウは腕の力を込めて答えた。
「当たり前だろ。俺が、必ずお前を守る」
その力強い言葉に、ハルトは不安を振り払うように、ぎゅっと目を閉じた。
だが、彼らのすぐ足元まで、黒く、粘ついた悪意の影が、音もなく忍び寄っていた。カイトの歪んだ嫉妬と、沙織の飽くなき功名心。二つの悪意が交差する時、二人の幸せな日々は、脆くも崩れ去ることになる。
破滅へのカウントダウンは、もう始まっていた。
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