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第8話「世界で一番正直な告白」
記者会見の会場となったホテルのホールには、テレビカメラとスチールカメラがずらりと並び、数百人もの報道陣が詰めかけていた。彼らの目的はただ一つ、崖っぷちに立たされた「帝王」が、どんな惨めな言い訳をするのかを見届けることだ。会場は、異様な熱気と殺伐とした空気に満ちていた。
定刻通り、リュウが一人で会見場に姿を現した。やつれた様子もなく、背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えるその姿には、かつての帝王の風格が漂っている。しかし、その瞳の奥に宿る光は、以前の彼とは明らかに違っていた。それは、全てを賭ける覚悟を決めた男の、静かで、しかし燃えるような強い光だった。
リュウが席に着いた瞬間、無数のフラッシュが一斉に焚かれた。まるで、獲物に群がる獣たちのようだ。
「それでは、これより藤堂竜也の記者会見を始めさせていただきます」
司会進行役の結衣が、冷静に告げる。
「まず、藤堂より、今回の報道についてご説明させていただきます。その後、質疑応答の時間を設けます」
リュウはマイクの前に座ると、会場の全ての人間を見渡すように、ゆっくりと視線を巡らせた。そして、深く息を吸い込むと、落ち着いた、しかしよく通る声で語り始めた。
「本日は、お集まりいただきありがとうございます。藤堂竜也です」
型通りの挨拶。だが、次に彼の口から発せられた言葉は、報道陣の予想を完全に裏切るものだった。
「はじめに、今回の週刊誌報道について、一点だけ訂正させていただきます。記事には、私が新人俳優である桜庭陽翔くんを弄んだと書かれていましたが、それは事実ではありません」
会場が、ざわつく。「やはり、関係を否定するのか」「新人オメガに責任を押し付けるつもりだ」。そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
だが、リュウは続けた。
「事実ではない、と言ったのは、私が彼を弄んだという部分です。私が、彼を……桜庭陽翔くんを、心から愛しているというのは、紛れもない事実です」
その瞬間、会場の空気が凍りついた。どよめきと混乱が、一瞬遅れて波のように広がる。誰もが、自分の耳を疑った。スキャンダルを揉み消すどころか、自ら認めるなど、前代未聞だ。
リュウは、そんな喧騒を意に介することなく、自分の言葉を続けた。
「彼と出会って、私は初めて、孤独だった自分の人生に光が差すのを感じました。彼は、私が被っていた偽りの仮面を剥がし、本当の私を見つけ出してくれました。彼がいたから、私は息をすることができた。彼は、私の唯一の光です」
その告白は、テレビの生中継を通じて、日本全国に届けられていた。ワイドショーのコメンテーターも、ネットで実況を見ていた人々も、ただ息を飲んで彼の言葉に聞き入っていた。
「彼を傷つけ、追い詰めたのは、私自身の弱さです。彼を守ると誓ったのに、世間の目や自分の立場を気にするあまり、彼を一人で苦しませてしまった。俳優としても、一人の男としても、私は失格です」
リュウは、ゆっくりと立ち上がると、深く、深く頭を下げた。
「桜庭くんを、そして、彼を大切に思うすべての人を傷つけたこと、心からお詫び申し上げます。本当に、申し訳ありませんでした」
それは、誰かへの言い訳でも、保身のためのパフォーマンスでもなかった。ただ、愛する人を守れなかったことへの、心からの謝罪だった。
報道陣も、ただ呆然と、その姿を見つめている。
やがて、リュウは顔を上げると、決然とした表情で言い放った。
「そして、今日、この場を借りて、皆様に宣言します。私は、この愛を守るためなら、俳優生命を失っても構いません。藤堂竜也という名前も、帝王という地位も、何もいりません。ただ、彼と一緒に、穏やかに生きていきたい。それが、私の唯一の願いです」
誠実で、真っ直ぐな、魂からの告白。その言葉は、冷え切っていた世間の空気を、少しずつ、しかし確実に温めていく力を持っていた。
初めは面白半分で見ていた人々も、彼の本気の愛に、心を動かされ始めていた。ネットのコメント欄には、「嘘だろ…」「本気で愛してるんだな」「なんか、応援したくなってきた」という声が、少しずつ増え始めていた。
その時だった。会見場の後方の扉が、静かに開いた。そして、一人の青年が、まっすぐにリュウの元へと歩いてくる。
桜庭陽翔だった。
会場が、再び大きくどよめく。ハルトは、報道陣の壁を抜けて、まっすぐに壇上へと上がった。そして、何も言わずにリュウの隣に立つ。
リュウは驚いてハルトを見つめたが、彼の瞳には、涙が浮かびながらも、決して揺るがない強い意志が宿っていた。
『一人にはしない』。その瞳が、そう語っていた。
リュウは、そんなハルトの覚悟に応えるように、差し出された彼の手を、力強く、固く握りしめた。無数のフラッシュが、固く結ばれた二人の手を、一斉に照らし出す。
多くのものを失ったかもしれない。だが、二人は、何よりも大切で、かけがえのないものを、その手に確かに掴んでいた。
芸能界の常識を、そして世間の偏見を揺るがした二人の愛。それは、決してスキャンダルなどではない。新たな時代を切り拓く、伝説の始まりとなった。
定刻通り、リュウが一人で会見場に姿を現した。やつれた様子もなく、背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えるその姿には、かつての帝王の風格が漂っている。しかし、その瞳の奥に宿る光は、以前の彼とは明らかに違っていた。それは、全てを賭ける覚悟を決めた男の、静かで、しかし燃えるような強い光だった。
リュウが席に着いた瞬間、無数のフラッシュが一斉に焚かれた。まるで、獲物に群がる獣たちのようだ。
「それでは、これより藤堂竜也の記者会見を始めさせていただきます」
司会進行役の結衣が、冷静に告げる。
「まず、藤堂より、今回の報道についてご説明させていただきます。その後、質疑応答の時間を設けます」
リュウはマイクの前に座ると、会場の全ての人間を見渡すように、ゆっくりと視線を巡らせた。そして、深く息を吸い込むと、落ち着いた、しかしよく通る声で語り始めた。
「本日は、お集まりいただきありがとうございます。藤堂竜也です」
型通りの挨拶。だが、次に彼の口から発せられた言葉は、報道陣の予想を完全に裏切るものだった。
「はじめに、今回の週刊誌報道について、一点だけ訂正させていただきます。記事には、私が新人俳優である桜庭陽翔くんを弄んだと書かれていましたが、それは事実ではありません」
会場が、ざわつく。「やはり、関係を否定するのか」「新人オメガに責任を押し付けるつもりだ」。そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
だが、リュウは続けた。
「事実ではない、と言ったのは、私が彼を弄んだという部分です。私が、彼を……桜庭陽翔くんを、心から愛しているというのは、紛れもない事実です」
その瞬間、会場の空気が凍りついた。どよめきと混乱が、一瞬遅れて波のように広がる。誰もが、自分の耳を疑った。スキャンダルを揉み消すどころか、自ら認めるなど、前代未聞だ。
リュウは、そんな喧騒を意に介することなく、自分の言葉を続けた。
「彼と出会って、私は初めて、孤独だった自分の人生に光が差すのを感じました。彼は、私が被っていた偽りの仮面を剥がし、本当の私を見つけ出してくれました。彼がいたから、私は息をすることができた。彼は、私の唯一の光です」
その告白は、テレビの生中継を通じて、日本全国に届けられていた。ワイドショーのコメンテーターも、ネットで実況を見ていた人々も、ただ息を飲んで彼の言葉に聞き入っていた。
「彼を傷つけ、追い詰めたのは、私自身の弱さです。彼を守ると誓ったのに、世間の目や自分の立場を気にするあまり、彼を一人で苦しませてしまった。俳優としても、一人の男としても、私は失格です」
リュウは、ゆっくりと立ち上がると、深く、深く頭を下げた。
「桜庭くんを、そして、彼を大切に思うすべての人を傷つけたこと、心からお詫び申し上げます。本当に、申し訳ありませんでした」
それは、誰かへの言い訳でも、保身のためのパフォーマンスでもなかった。ただ、愛する人を守れなかったことへの、心からの謝罪だった。
報道陣も、ただ呆然と、その姿を見つめている。
やがて、リュウは顔を上げると、決然とした表情で言い放った。
「そして、今日、この場を借りて、皆様に宣言します。私は、この愛を守るためなら、俳優生命を失っても構いません。藤堂竜也という名前も、帝王という地位も、何もいりません。ただ、彼と一緒に、穏やかに生きていきたい。それが、私の唯一の願いです」
誠実で、真っ直ぐな、魂からの告白。その言葉は、冷え切っていた世間の空気を、少しずつ、しかし確実に温めていく力を持っていた。
初めは面白半分で見ていた人々も、彼の本気の愛に、心を動かされ始めていた。ネットのコメント欄には、「嘘だろ…」「本気で愛してるんだな」「なんか、応援したくなってきた」という声が、少しずつ増え始めていた。
その時だった。会見場の後方の扉が、静かに開いた。そして、一人の青年が、まっすぐにリュウの元へと歩いてくる。
桜庭陽翔だった。
会場が、再び大きくどよめく。ハルトは、報道陣の壁を抜けて、まっすぐに壇上へと上がった。そして、何も言わずにリュウの隣に立つ。
リュウは驚いてハルトを見つめたが、彼の瞳には、涙が浮かびながらも、決して揺るがない強い意志が宿っていた。
『一人にはしない』。その瞳が、そう語っていた。
リュウは、そんなハルトの覚悟に応えるように、差し出された彼の手を、力強く、固く握りしめた。無数のフラッシュが、固く結ばれた二人の手を、一斉に照らし出す。
多くのものを失ったかもしれない。だが、二人は、何よりも大切で、かけがえのないものを、その手に確かに掴んでいた。
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