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第1話:失われたステージ
降りしきる六月の雨は、世界の音をすべて消し去ってしまうかのようだった。
テレビ局の通用口に詰めかけた報道陣のフラッシュと、降り注ぐ罵声だけが、やけに鮮明に鼓膜を揺らす。
「朝比奈! 説明しろ!」
「ファンを裏切った気分はどうだ!」
黒塗りの車に押し込まれる寸前、俺、朝比奈湊は、人垣の向こうに、かつて自分の名前が書かれたうちわを振ってくれていた少女の顔を見た。その瞳には、かつてのキラキラとした憧憬はなく、軽蔑と憎悪がどす黒く渦巻いていた。少女の唇が、声にならない罵りの言葉を紡ぐのが見えた。
心臓が、氷の手に握り潰されたように痛んだ。
ほんの数日前まで、俺は国民的アイドルグループ「ステラクラウン」の絶対的センターだった。作詞作曲を手掛け、グループを牽引していると持て囃され、未来は光り輝いていると信じて疑わなかった。
一枚の、捏造された写真が週刊誌に載るまでは。
有名女優との密会。そんな事実はどこにもないのに、巧妙に合成された写真はあまりにも真実味を帯びていた。清純派で売っていた彼女のファンと、俺のファン。双方の怒りが爆発し、SNSは地獄絵図と化した。
「しばらく、ほとぼりが冷めるまで活動を自粛してくれ」
そう言った事務所の社長は、数日後には手のひらを返した。
「残念だが、朝比奈くん。君との契約は本日をもって解除させてもらう」
冷静な声だった。まるで、壊れた備品を処分するような、そんな事務的な響き。
メンバーにも裏切られた。楽屋で顔を合わせても、誰も俺と目を合わせようとはしない。リーダーは「お前のせいで、俺たちの夢が壊された」と吐き捨てた。一緒に夢を追いかけてきたはずの仲間たちの冷たい視線が、何よりも深く俺の心を抉った。
記者会見では、用意された謝罪文をただ読み上げた。何に謝っているのかもわからないまま、深々と頭を下げる。無数のフラッシュが、罪人の烙印を押すように俺を焼いた。
そして今、俺はすべてを失った。
夢も、仲間も、ファンも、そして住んでいた寮も。ダンボール数箱に詰められた私物と共に事務所を追い出され、行く当てもない。
車は、近くの駅で俺を降ろすと、雨の中に消えていった。
傘も持っていない。ずぶ濡れになりながら、駅の軒下で膝を抱える。スマホを開けば、画面には俺を罵る言葉が溢れている。スクロールする指が震えた。もう、どこにも俺の居場所はない。
雨は、一向に止む気配を見せなかった。まるで、このまま俺を世界の片隅で溶かし、消し去ってしまおうとしているかのように。
絶望。
その二文字が、冷たいコンクリートのように俺の全身にのしかかる。もう、歌うことも、踊ることも、曲を作ることさえできない。光り輝いていたステージは、あまりにも遠い場所になってしまった。
テレビ局の通用口に詰めかけた報道陣のフラッシュと、降り注ぐ罵声だけが、やけに鮮明に鼓膜を揺らす。
「朝比奈! 説明しろ!」
「ファンを裏切った気分はどうだ!」
黒塗りの車に押し込まれる寸前、俺、朝比奈湊は、人垣の向こうに、かつて自分の名前が書かれたうちわを振ってくれていた少女の顔を見た。その瞳には、かつてのキラキラとした憧憬はなく、軽蔑と憎悪がどす黒く渦巻いていた。少女の唇が、声にならない罵りの言葉を紡ぐのが見えた。
心臓が、氷の手に握り潰されたように痛んだ。
ほんの数日前まで、俺は国民的アイドルグループ「ステラクラウン」の絶対的センターだった。作詞作曲を手掛け、グループを牽引していると持て囃され、未来は光り輝いていると信じて疑わなかった。
一枚の、捏造された写真が週刊誌に載るまでは。
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「しばらく、ほとぼりが冷めるまで活動を自粛してくれ」
そう言った事務所の社長は、数日後には手のひらを返した。
「残念だが、朝比奈くん。君との契約は本日をもって解除させてもらう」
冷静な声だった。まるで、壊れた備品を処分するような、そんな事務的な響き。
メンバーにも裏切られた。楽屋で顔を合わせても、誰も俺と目を合わせようとはしない。リーダーは「お前のせいで、俺たちの夢が壊された」と吐き捨てた。一緒に夢を追いかけてきたはずの仲間たちの冷たい視線が、何よりも深く俺の心を抉った。
記者会見では、用意された謝罪文をただ読み上げた。何に謝っているのかもわからないまま、深々と頭を下げる。無数のフラッシュが、罪人の烙印を押すように俺を焼いた。
そして今、俺はすべてを失った。
夢も、仲間も、ファンも、そして住んでいた寮も。ダンボール数箱に詰められた私物と共に事務所を追い出され、行く当てもない。
車は、近くの駅で俺を降ろすと、雨の中に消えていった。
傘も持っていない。ずぶ濡れになりながら、駅の軒下で膝を抱える。スマホを開けば、画面には俺を罵る言葉が溢れている。スクロールする指が震えた。もう、どこにも俺の居場所はない。
雨は、一向に止む気配を見せなかった。まるで、このまま俺を世界の片隅で溶かし、消し去ってしまおうとしているかのように。
絶望。
その二文字が、冷たいコンクリートのように俺の全身にのしかかる。もう、歌うことも、踊ることも、曲を作ることさえできない。光り輝いていたステージは、あまりにも遠い場所になってしまった。
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