絶対的センターだった俺を匿ったのは、実は俺の熱烈なファンだったクールな俳優様でした。秘密の同居から始まる再生ラブ

水凪しおん

文字の大きさ
5 / 24

第4話:不器用な優しさ

 管理人さんとの生活は、静かで、穏やかだった。
 彼は日中、仕事で出かけることが多かったが、朝と夜には必ず顔を合わせた。そして、俺のために毎日三食、手作りの食事を用意してくれた。
「偏ったものばかり食べていたんだろう。ちゃんと栄養を摂れ」
 そう言って出てくるのは、焼き魚とだし巻き卵の和定食だったり、野菜がたっぷり入ったポトフだったり。どれも派手さはないけれど、身体のことを考えられた、優しい味がした。料理が得意なのかと聞けば、「君が来てから、レシピサイトを見るようになっただけだ」とぶっきらぼうに答える。その横顔が、少しだけ照れているように見えたのは、気のせいだろうか。
 俺が部屋に引きこもっていると、彼は何も言わずにドアの前にフルーツの盛り合わせや、温かいココアを置いていってくれた。無理に話しかけることはしない。でも、常に俺の気配を気にしているのが分かった。その距離感が、人間不信に陥っていた俺にはありがたかった。
 夜、悪夢にうなされて目を覚ますことがあった。記者たちのフラッシュや、ファンだった少女の軽蔑の眼差し。息が苦しくなってベッドの上で身体を起こすと、ドアの隙間からリビングの明かりが漏れていることに気づく。
 そっと部屋を抜け出すと、ソファで本を読んでいた管理人さんが、俺の姿を認めて静かに顔を上げた。
「……眠れないのか」
「すみません、起こしましたか」
「いや。起きていただけだ」
 彼はそう言うと、俺を手招きした。隣に座ると、何も言わずにブランケットをかけてくれる。そして、また静かに本に視線を戻す。
 ただ、そばにいてくれる。それだけなのに、荒れ狂っていた感情が、不思議と凪いでいくのを感じた。彼の隣は、なぜかとても安心できた。いつの間にか、俺は彼の肩に寄りかかって眠ってしまっていたらしい。目を覚ますと、俺はベッドに運ばれていて、管理人さんはもう仕事に出かけた後だった。
 少しずつ、本当に少しずつだが、俺の心に張っていた氷が溶け始めていた。彼が向けてくれる、不器用で、けれど真っ直ぐな優しさに、戸惑いながらも救われていた。
 ただ、どうしても拭えない疑問があった。
 なぜ、彼はここまでしてくれるのだろう。
「管理人さん」
 ある日の夕食後、俺は思い切って切り出した。
「どうして、俺なんかに……こんなによくしてくれるんですか。俺は、あなたに何も返せないのに」
 スキャンダルを起こした、ただの元アイドル。世間からは石を投げられ、誰からも見捨てられた存在。そんな俺に、これほどの親切を施す理由が分からない。何か裏があるのではないか、という疑いが、心の隅で燻っていた。
 管理人さんは、読んでいた本から顔を上げた。その静かな瞳が、じっと俺を見つめる。何かを見透かされているような気がして、居心地が悪くなる。
 しばらくの沈黙の後、彼は静かに口を開いた。
「……理由がなければ、人の親切は受け取れないか」
「いえ、そういうわけじゃ……」
「君は、何もしなくていい」
 彼は言った。その声には、有無を言わせない響きがあった。
「ただ、今はゆっくり休め。そして、いつかまた……君が君らしくいられる日が来ることだけを、俺は願っている」
 それ以上、彼は何も語らなかった。
 その言葉は、温かいのに、どこか切なかった。彼の瞳の奥に、俺の知らない感情が揺らめいているような気がした。俺はそれ以上何も聞けずに、ただ俯くことしかできなかった。
 彼の優しさを受け取るたびに、胸の奥がじんわりと温かくなる。それと同時に、正体も知らないこの男への依存が、日に日に大きくなっていくのを感じて、少しだけ怖くなった。

あなたにおすすめの小説

忘れた名前の庭で

千葉琴音
BL
【凍てついた記憶を溶かすのは、不器用な守護者の体温】 「俺のことはルーカスでいい」 目覚めると、僕は自分の名前すら忘れていた。 唯一の肉親である兄・テオドールの死と同時に失われた記憶。無愛想な兄の友人ルーカスと共にゆっくりと兄の足跡を辿っていく。 厳格で甘いものが嫌いだった亡き兄・テオドール。彼が密かに弟のために植物図鑑を読み、内緒で菓子を買い与えていたという、口にされることのなかった真実。 ルーカスの語る「かつての自分」と、今の自分が少しずつ重なっていく中、アルノは因縁の魔獣の住む森へと足を踏み入れる。そこで彼が思い出したのは、独りで耐える術ではなく、誰かに抱きしめられて「息をする」方法だった。 孤独な少年と、彼を見守り続けた騎士。二人が雪解けの庭で見つける、新しい絆の物語。

契約書はよく読めとあれほど!

RNR
BL
異世界で目が覚めた、就職浪人中の美容系男子、優馬。 最初に出会った美しい貴族青年は、言葉が通じないが親切に手を差し伸べてくれた。 彼の屋敷に招かれた際、文字は読めないもののなにかの書類にサインをすると、その彼と結婚したことになっていて……。 この世界で何をする? また無職生活? 本当にそれでいい? 葛藤する日々と、それを惜しみない愛情で支える夫。 理想の自分と、理想の幸せを探す物語。 23話+続編2話+番外編2話

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

完結·氷の侯爵はおっさん騎士を溺愛したい〜枯れおじの呪いを解くには恋が必要らしいです~

BL
少年だったルイを庇って呪いを受けた騎士ディオン。 それから年月が経ち、ルイは青年に、ディオンはおっさん騎士になっていた。 魔法を使うと呪いが進むディオン。その呪いを解呪しようと試行錯誤なルイ。 そんなとき、ひょんなことから恋をすれば呪いが解けるのでは、となりルイがディオンに恋をさせようと様々な奇行を始める。 二人は呪いを解くことができるのか、そして二人の関係は―――――― ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています