絶対的センターだった俺を匿ったのは、実は俺の熱烈なファンだったクールな俳優様でした。秘密の同居から始まる再生ラブ

水凪しおん

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第6話:憧れだった人

 リビングに、重い沈黙が落ちる。
 テレビの中では、司会者の明るい笑い声が虚しく響いていた。俺は立ち尽くしたまま、目の前の男――一ノ瀬海翔から目が離せない。彼はゆっくりとテレビの電源を消すと、俺の正面に立った。
「……いつから、気づいてた?」
 違う。俺が聞きたいのはそんなことじゃない。
「どうして……一ノ瀬さんが、俺を……?」
 問い詰めるような声になってしまった。自分でも驚くほど、声が震えている。
 一ノ瀬海翔。
 それは、俺がアイドルとして活動していた頃、密かに憧れていた存在だった。同じ芸能界にいても、生きる世界が違うと思っていた。彼のストイックな役者論や、作品に対する真摯な姿勢を雑誌のインタビューで読むたびに、すごい人だな、と尊敬していた。
 そんな人が、なぜ、スキャンダルまみれの俺を?
 海翔は、しばらくの間、何かをためらうように唇を引き結んでいたが、やがて諦めたように息を吐いた。
「……ああ。俺が、俳優の一ノ瀬海翔だ。隠していて、すまなかった」
 彼はあっさりと認めた。その静かな声が、現実を突きつけてくる。
「君に言えば、余計な気を使うと思った。ただ、純粋に休んでほしかったんだ」
「気を使うに決まってるじゃないですか! あなたみたいな人が、なんで俺なんかのために……っ」
 混乱で、言葉がうまく続かない。俺と彼は、ほとんど接点なんてなかったはずだ。
 海翔は、俺の混乱を真正面から受け止めるように、じっと俺の目を見ていた。そして、静かに、だがはっきりと告げた。
「君の、ファンだったんだ」
「…………え?」
 思考が、完全に停止した。
 ファン? 誰が? 一ノ瀬海翔が? 俺の?
 信じられなかった。冗談にしても、たちが悪すぎる。
「嘘だ……」
「嘘じゃない」
 海翔の声は、どこまでも真剣だった。
「君がまだ、ステラクラウンでデビューする前だ。小さなライブハウスで、たった一人で弾き語りをしていた君を見た」
 彼の言葉に、記憶の蓋が開く。
 そうだ。デビュー前、俺は事務所に内緒で、一人でライブハウスのステージに立っていたことがある。自分の作った曲を、誰かに聴いてほしくて。客は数えるほどしかいなかった、あの夜。
「あの時の君の歌は……忘れられない。荒削りだったが、魂がこもってた。その才能に、俺は一瞬で心を奪われた」
 海翔は、遠い目をして続けた。
「それから、ずっと君を見ていた。ステラクラウンのセンターとして輝く君を。君が作る曲を、いつも聴いていた。誰よりも、君の才能を信じていた」
 だから、と彼は言葉を切った。
「だから、許せなかったんだ。あんなくだらない捏造記事で、君のすべてが壊されていくのが。君の才能が、こんな形で終わるのを、ただ見過ごすことなんてできなかった」
 静かな告白だった。
 そこには、何の飾りも嘘もなかった。彼の瞳が、そう語っていた。
 憧れの俳優。雲の上の存在だと思っていた人からの、あまりにも熱烈な言葉。
 俺は、どう反応していいのか分からなかった。パニックは、別の種類の混乱に変わっていた。嬉しいとか、驚いたとか、そういう単純な感情じゃない。もっと、胸の奥をかき乱されるような、大きなうねり。
「でも……俺はもう……」
「終わってない」
 海翔は、俺の言葉を強い口調で遮った。
「君は、終わってない。朝比奈湊は、こんなもんじゃないだろ」
 その力強い眼差しに、射抜かれる。
 彼の言葉が、乾ききっていたはずの心の奥深くに、一滴の水のように染み込んでいく。
 どうしよう。
 この人は、俺が失ってしまったはずの俺を、俺以上に信じてくれている。
 その事実が、恐ろしいほどに、俺の心を揺さぶっていた。

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