絶対的センターだった俺を匿ったのは、実は俺の熱烈なファンだったクールな俳優様でした。秘密の同居から始まる再生ラブ

水凪しおん

文字の大きさ
10 / 24

第9話:光への第一歩

「……今のは、君が作ったのか?」
 しばらくの沈黙の後、海翔が静かに尋ねた。その声は、わずかに震えているように聞こえた。
「あ……はい。というか、適当に弾いてただけで、曲なんてものじゃ……」
「適当なんかじゃない」
 海翔は俺の言葉を遮り、ゆっくりとピアノに近づいてきた。そして、俺の隣に立つと、鍵盤をじっと見つめた。
「……すごい」
 ぽつりと、心の底から漏れたような声だった。
「湊、君は……やっぱり、天才だ」
 何のてらいもない、純粋な賞賛。
 その言葉に、カッと顔が熱くなるのを感じた。心臓が、トクン、と大きく脈打つ。
「そ、そんなことないです! 本当に、ただの思いつきで……」
「思いつきで、こんなメロディが生まれるのか」
 海翔は、俺がさっき弾いた旋律を、おぼつかない指つきで辿り始めた。たどたどしい音だったけれど、彼が俺の音楽を、自分のものとして理解しようとしてくれているのが伝わってきた。
「絶望の中に、ほんの少しだけ光が見えるような……そんな曲だ。今の君にしか、作れない」
 海翔は顔を上げて、まっすぐに俺を見た。
「俺が聴きたかったのは、こういう曲だ」
 彼の瞳には、熱烈なまでの信頼と、感動の色が浮かんでいた。
 アイドル時代、俺の作る曲は何度も褒められた。「天才だ」「売れる曲だ」と、多くの大人たちに言われた。でも、それはどこかビジネスライクで、心に響くことはなかった。
 でも、海翔の言葉は違った。
 彼の言葉は、俺の魂の、一番深いところにまで届いた。
 何かが、俺の中で音を立てて変わっていく。
 閉ざしていた心の扉が、ほんの少しだけ、開いたような気がした。
(もう一度、作ってみたい)
 そう思った。
 アイドルとして、ファンのために作る曲じゃない。売れるために、チャート一位を取るために作る曲でもない。
 ただ、俺自身の心を表現するための音楽を。
 そして、それを「聴きたい」と言ってくれる、たった一人のために。
 その想いが、俺の中にぼんやりとした一つの目標を形作った。
『作曲家』として、もう一度、この世界で生きていく。
 それは、あまりにも途方もない夢のように思えた。世間は、まだ俺のことをスキャンダルアイドルとしか見ていない。俺の作った曲だなんて、誰も聴いてはくれないだろう。
 でも、隣にいるこの人だけは、信じてくれる。
 それだけで、今は十分なような気がした。
「……ありがとう、ございます」
 俺は、俯きながら、かろうじてそれだけ言った。
 海翔は、そんな俺の頭を、大きな手で不器損に、けれど優しく撫でた。その温かい感触に、また泣きそうになるのを、必死でこらえた。
 失われたステージ。もう二度と戻れないと思っていた場所。
 そこへ続く道が、もしかしたら、まだ残っているのかもしれない。
 作曲家、朝比奈湊としての、光への第一歩。
 それは、海翔の心からの賞賛によって、確かに踏み出されたのだった。

あなたにおすすめの小説

忘れた名前の庭で

千葉琴音
BL
【凍てついた記憶を溶かすのは、不器用な守護者の体温】 「俺のことはルーカスでいい」 目覚めると、僕は自分の名前すら忘れていた。 唯一の肉親である兄・テオドールの死と同時に失われた記憶。無愛想な兄の友人ルーカスと共にゆっくりと兄の足跡を辿っていく。 厳格で甘いものが嫌いだった亡き兄・テオドール。彼が密かに弟のために植物図鑑を読み、内緒で菓子を買い与えていたという、口にされることのなかった真実。 ルーカスの語る「かつての自分」と、今の自分が少しずつ重なっていく中、アルノは因縁の魔獣の住む森へと足を踏み入れる。そこで彼が思い出したのは、独りで耐える術ではなく、誰かに抱きしめられて「息をする」方法だった。 孤独な少年と、彼を見守り続けた騎士。二人が雪解けの庭で見つける、新しい絆の物語。

契約書はよく読めとあれほど!

RNR
BL
異世界で目が覚めた、就職浪人中の美容系男子、優馬。 最初に出会った美しい貴族青年は、言葉が通じないが親切に手を差し伸べてくれた。 彼の屋敷に招かれた際、文字は読めないもののなにかの書類にサインをすると、その彼と結婚したことになっていて……。 この世界で何をする? また無職生活? 本当にそれでいい? 葛藤する日々と、それを惜しみない愛情で支える夫。 理想の自分と、理想の幸せを探す物語。 23話+続編2話+番外編2話

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

完結·氷の侯爵はおっさん騎士を溺愛したい〜枯れおじの呪いを解くには恋が必要らしいです~

BL
少年だったルイを庇って呪いを受けた騎士ディオン。 それから年月が経ち、ルイは青年に、ディオンはおっさん騎士になっていた。 魔法を使うと呪いが進むディオン。その呪いを解呪しようと試行錯誤なルイ。 そんなとき、ひょんなことから恋をすれば呪いが解けるのでは、となりルイがディオンに恋をさせようと様々な奇行を始める。 二人は呪いを解くことができるのか、そして二人の関係は―――――― ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています