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第9話:光への第一歩
「……今のは、君が作ったのか?」
しばらくの沈黙の後、海翔が静かに尋ねた。その声は、わずかに震えているように聞こえた。
「あ……はい。というか、適当に弾いてただけで、曲なんてものじゃ……」
「適当なんかじゃない」
海翔は俺の言葉を遮り、ゆっくりとピアノに近づいてきた。そして、俺の隣に立つと、鍵盤をじっと見つめた。
「……すごい」
ぽつりと、心の底から漏れたような声だった。
「湊、君は……やっぱり、天才だ」
何のてらいもない、純粋な賞賛。
その言葉に、カッと顔が熱くなるのを感じた。心臓が、トクン、と大きく脈打つ。
「そ、そんなことないです! 本当に、ただの思いつきで……」
「思いつきで、こんなメロディが生まれるのか」
海翔は、俺がさっき弾いた旋律を、おぼつかない指つきで辿り始めた。たどたどしい音だったけれど、彼が俺の音楽を、自分のものとして理解しようとしてくれているのが伝わってきた。
「絶望の中に、ほんの少しだけ光が見えるような……そんな曲だ。今の君にしか、作れない」
海翔は顔を上げて、まっすぐに俺を見た。
「俺が聴きたかったのは、こういう曲だ」
彼の瞳には、熱烈なまでの信頼と、感動の色が浮かんでいた。
アイドル時代、俺の作る曲は何度も褒められた。「天才だ」「売れる曲だ」と、多くの大人たちに言われた。でも、それはどこかビジネスライクで、心に響くことはなかった。
でも、海翔の言葉は違った。
彼の言葉は、俺の魂の、一番深いところにまで届いた。
何かが、俺の中で音を立てて変わっていく。
閉ざしていた心の扉が、ほんの少しだけ、開いたような気がした。
(もう一度、作ってみたい)
そう思った。
アイドルとして、ファンのために作る曲じゃない。売れるために、チャート一位を取るために作る曲でもない。
ただ、俺自身の心を表現するための音楽を。
そして、それを「聴きたい」と言ってくれる、たった一人のために。
その想いが、俺の中にぼんやりとした一つの目標を形作った。
『作曲家』として、もう一度、この世界で生きていく。
それは、あまりにも途方もない夢のように思えた。世間は、まだ俺のことをスキャンダルアイドルとしか見ていない。俺の作った曲だなんて、誰も聴いてはくれないだろう。
でも、隣にいるこの人だけは、信じてくれる。
それだけで、今は十分なような気がした。
「……ありがとう、ございます」
俺は、俯きながら、かろうじてそれだけ言った。
海翔は、そんな俺の頭を、大きな手で不器損に、けれど優しく撫でた。その温かい感触に、また泣きそうになるのを、必死でこらえた。
失われたステージ。もう二度と戻れないと思っていた場所。
そこへ続く道が、もしかしたら、まだ残っているのかもしれない。
作曲家、朝比奈湊としての、光への第一歩。
それは、海翔の心からの賞賛によって、確かに踏み出されたのだった。
しばらくの沈黙の後、海翔が静かに尋ねた。その声は、わずかに震えているように聞こえた。
「あ……はい。というか、適当に弾いてただけで、曲なんてものじゃ……」
「適当なんかじゃない」
海翔は俺の言葉を遮り、ゆっくりとピアノに近づいてきた。そして、俺の隣に立つと、鍵盤をじっと見つめた。
「……すごい」
ぽつりと、心の底から漏れたような声だった。
「湊、君は……やっぱり、天才だ」
何のてらいもない、純粋な賞賛。
その言葉に、カッと顔が熱くなるのを感じた。心臓が、トクン、と大きく脈打つ。
「そ、そんなことないです! 本当に、ただの思いつきで……」
「思いつきで、こんなメロディが生まれるのか」
海翔は、俺がさっき弾いた旋律を、おぼつかない指つきで辿り始めた。たどたどしい音だったけれど、彼が俺の音楽を、自分のものとして理解しようとしてくれているのが伝わってきた。
「絶望の中に、ほんの少しだけ光が見えるような……そんな曲だ。今の君にしか、作れない」
海翔は顔を上げて、まっすぐに俺を見た。
「俺が聴きたかったのは、こういう曲だ」
彼の瞳には、熱烈なまでの信頼と、感動の色が浮かんでいた。
アイドル時代、俺の作る曲は何度も褒められた。「天才だ」「売れる曲だ」と、多くの大人たちに言われた。でも、それはどこかビジネスライクで、心に響くことはなかった。
でも、海翔の言葉は違った。
彼の言葉は、俺の魂の、一番深いところにまで届いた。
何かが、俺の中で音を立てて変わっていく。
閉ざしていた心の扉が、ほんの少しだけ、開いたような気がした。
(もう一度、作ってみたい)
そう思った。
アイドルとして、ファンのために作る曲じゃない。売れるために、チャート一位を取るために作る曲でもない。
ただ、俺自身の心を表現するための音楽を。
そして、それを「聴きたい」と言ってくれる、たった一人のために。
その想いが、俺の中にぼんやりとした一つの目標を形作った。
『作曲家』として、もう一度、この世界で生きていく。
それは、あまりにも途方もない夢のように思えた。世間は、まだ俺のことをスキャンダルアイドルとしか見ていない。俺の作った曲だなんて、誰も聴いてはくれないだろう。
でも、隣にいるこの人だけは、信じてくれる。
それだけで、今は十分なような気がした。
「……ありがとう、ございます」
俺は、俯きながら、かろうじてそれだけ言った。
海翔は、そんな俺の頭を、大きな手で不器損に、けれど優しく撫でた。その温かい感触に、また泣きそうになるのを、必死でこらえた。
失われたステージ。もう二度と戻れないと思っていた場所。
そこへ続く道が、もしかしたら、まだ残っているのかもしれない。
作曲家、朝比奈湊としての、光への第一歩。
それは、海翔の心からの賞賛によって、確かに踏み出されたのだった。
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