絶対的センターだった俺を匿ったのは、実は俺の熱烈なファンだったクールな俳優様でした。秘密の同居から始まる再生ラブ

水凪しおん

文字の大きさ
23 / 24

番外編:クールな仮面の下で(一ノ瀬海翔 視点)

 俺、一ノ瀬海翔の人生は、あの日を境に色を変えた。
 まだ無名の俳優だった頃、友人に無理やり連れて行かれた小さなライブハウス。そこで、俺は「朝比奈湊」という原石に出会った。
 たった一人、ギターを抱えてステージに立つ彼は、ひどく儚げで、今にも消えてしまいそうだった。だが、歌い始めた瞬間、その印象は覆された。彼の身体からほとばしる、魂を削るような歌声。切実なメロディ。そのパフォーマンスは、俺の心を鷲掴みにして離さなかった。
 衝撃だった。嫉妬すら覚えるほどの、圧倒的な才能。
 その日から、俺は彼の虜になった。
 彼が「ステラクラウン」としてデビューした時、自分のことのように嬉しかった。テレビで彼の姿を見るたび、彼の作った曲が街で流れるたび、胸が高鳴った。彼は、あっという間にスターダムを駆け上がっていった。
 だが、その輝きが強ければ強いほど、俺の胸はざわついた。芸能界という場所は、純粋すぎる才能を食い物にする。いつか、彼が壊されてしまうのではないか。そんな不安が、常に心のどこかにあった。
 そして、その予感は、最悪の形で現実となる。
 捏造されたスキャンダル。
 テレビのワイドショーで、やつれた顔で頭を下げる彼を見た時、俺はテレビの前で、無力感に苛まれていた。拳を握りしめ、どうしようもない怒りで身体が震えた。なぜ、誰も彼の無実を信じない。なぜ、あんな素晴らしい才能を、寄ってたかって潰そうとするのか。
 彼が芸能界を引退し、消息を絶った時、俺の中で何かが決壊した。
 もう、待ってはいられない。
 俺が、彼を救い出す。
 あらゆる手を尽くして、彼の居場所を突き止めた。そして、雨の路地裏で、心身ともに限界の彼を見つけた時、張り裂けそうになる心臓を必死で抑えながら、声をかけた。
「安全な場所を提供します」
 俺の人生を懸けた、最大の賭けだった。
 マンションでの同居生活は、天国と地獄のようだった。
 すぐそばに、焦がれてやまなかった彼がいる。眠っている彼の寝顔を、盗み見る。少しずつ元気を取り戻していく彼の姿に、安堵する。そのすべてが、愛おしくてたまらなかった。
 だが、同時に、彼に触れたい、この想いを伝えたいという欲望との戦いだった。クールな仮面を貼り付け、必死で理性を保つ。彼をこれ以上、傷つけたくなかった。
 彼が再びピアノに向かい、あの美しいメロディを紡いだ夜。俺は鳥肌が立つほどの感動を覚えた。やはり、この才能は本物だ。絶対に、ここで終わらせてはいけない。
 俺は、俺の持てるすべてを使って、彼のためのステージを用意した。仕組まれた偶然。彼には卑怯だと思われたかもしれない。だが、どうしても、もう一度、彼の音楽を世界に届けたかった。
 稽古中の、あのキス未遂。危うく、すべてを壊してしまうところだった。湊の驚いた顔を見て、罪悪感で胸が張り裂けそうになった。俺は、なんて身勝手な男だ。
 そして、スキャンダルが暴かれた、あの夜。
 絶望し、再び逃げようとする彼を見て、俺はもう自分を抑えることができなかった。
「愛してる」
 長年、このクールな仮面の下に隠し続けてきた、一途で、熱烈な想い。
 それを伝えた時、彼が「好きです」と返してくれた瞬間を、俺は一生忘れないだろう。世界中を敵に回してもいい。この腕の中に、彼がいるのなら。
 今、彼は、俺の隣で穏やかな寝息を立てている。
 舞台の成功で、少し疲れたのだろう。その寝顔は、俺が初めて出会った頃のような、無防備さがあった。
 俺は、その頬にそっとキスを落とす。
 君を救った、なんて思わない。
 君が、俺を救ってくれたんだ、湊。
 君という光が、俺のモノクロだった世界に、鮮やかな色をくれたんだ。
 これからも、ずっと、君の隣で。
 クールな仮面の下に隠されたこの熱情は、もう隠す必要はない。すべて、君だけのものだ。

あなたにおすすめの小説

忘れた名前の庭で

千葉琴音
BL
【凍てついた記憶を溶かすのは、不器用な守護者の体温】 「俺のことはルーカスでいい」 目覚めると、僕は自分の名前すら忘れていた。 唯一の肉親である兄・テオドールの死と同時に失われた記憶。無愛想な兄の友人ルーカスと共にゆっくりと兄の足跡を辿っていく。 厳格で甘いものが嫌いだった亡き兄・テオドール。彼が密かに弟のために植物図鑑を読み、内緒で菓子を買い与えていたという、口にされることのなかった真実。 ルーカスの語る「かつての自分」と、今の自分が少しずつ重なっていく中、アルノは因縁の魔獣の住む森へと足を踏み入れる。そこで彼が思い出したのは、独りで耐える術ではなく、誰かに抱きしめられて「息をする」方法だった。 孤独な少年と、彼を見守り続けた騎士。二人が雪解けの庭で見つける、新しい絆の物語。

契約書はよく読めとあれほど!

RNR
BL
異世界で目が覚めた、就職浪人中の美容系男子、優馬。 最初に出会った美しい貴族青年は、言葉が通じないが親切に手を差し伸べてくれた。 彼の屋敷に招かれた際、文字は読めないもののなにかの書類にサインをすると、その彼と結婚したことになっていて……。 この世界で何をする? また無職生活? 本当にそれでいい? 葛藤する日々と、それを惜しみない愛情で支える夫。 理想の自分と、理想の幸せを探す物語。 23話+続編2話+番外編2話

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

脳筋剣士と鈍感薬師 ~騎士様、こいつです~

季エス
BL
「ルカーシュは、駄目よ」  その時胸に到来した思いは安堵であり、寂しさでもあった。  ルカーシュは薬師だ。幼馴染と共に、魔王を倒すために村を出た。彼は剣士だった。薬師のルカーシュは足手纏いだった。途中で仲間が増えたが、それでも足手纏いである事に変わりはなかった。そうしてついに、追い出される日が来たのだ。  ルカーシュはそっと、瞼を伏せた。  明日、明日になったら、笑おう。そして、礼と別れを言うのだ。  だから、今だけは、泣いてもいいかな。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

完結·氷の侯爵はおっさん騎士を溺愛したい〜枯れおじの呪いを解くには恋が必要らしいです~

BL
少年だったルイを庇って呪いを受けた騎士ディオン。 それから年月が経ち、ルイは青年に、ディオンはおっさん騎士になっていた。 魔法を使うと呪いが進むディオン。その呪いを解呪しようと試行錯誤なルイ。 そんなとき、ひょんなことから恋をすれば呪いが解けるのでは、となりルイがディオンに恋をさせようと様々な奇行を始める。 二人は呪いを解くことができるのか、そして二人の関係は―――――― ※完結まで毎日投稿します ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています