転生悪役令息は死亡フラグを回避したいだけなのに、クールな王子に勘違で溺愛されて逃げられません!

水凪しおん

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第16話 覚悟と芽生え

 アレクシオスの腕の中で、俺は完全に思考を停止させていた。
 何を言っても無駄だ。俺の言葉は、このポジティブ勘違い王子には、すべて恋愛フィルターを通して変換されてしまう。
 逃げようとすれば、「照れている」。
 才能を見せれば、「俺に相応しくなろうと努力している」。
 助けを求めれば、「甘えている」。
 そして、破滅が怖いと叫べば、「愛で胸が張り裂けそう」。
 もはや、打つ手がない。詰みだ。

 だが、不思議なことに、俺の心は絶望していなかった。
 むしろ、彼の力強い腕の中にいると、奇妙な安心感があった。
 刺客から守ってくれた時の、あの気高い獅子のような姿。
 俺を失うかと、本気で悲しんでくれた、あの激情。

 彼の勘違いは、確かに盛大すぎる。天文学的なレベルですれ違っている。
 でも、その根底にある愛情は、嘘偽りのない、本物だった。
 こんなにも真っ直ぐに、こんなにも深く、俺を愛してくれている。
 その事実が、氷のように固まっていた俺の心を、少しずつ溶かしていくのが分かった。

(もう、いいか……)

 ふと、そんな気持ちが湧き上がってきた。
 破滅フラグを回避するために、必死に逃げ回ってきたけれど、もう疲れた。
 それに、ここまで状況が変わってしまえば、もはやゲームのシナリオ通りに進むとは思えない。隣国の王子は、俺を攫おうとして、アレクシオスの怒りを買った。ゲームとはまったく違う展開だ。
 何より、俺自身が、もう彼から逃げたくない、と思ってしまっている。

 俺は、彼の愛情に、絆されているのだ。
 それを認めるのは、少し悔しい気もするけれど。

 俺は、今までアレクシオスに抱きしめられても、常に身体を強張らせていた。
 しかし、その日、初めて、全身の力を抜いて、そっと彼の胸に顔をうずめた。

「もう、どうにでもなれ……」

 ぽつりと呟いた言葉は、諦めのようでもあり、そして、覚悟のようでもあった。
 破滅フラグも、断罪も、もう怖くない、と言ったら嘘になる。
 でも、この人と一緒なら。
 この、とんでもなく勘違いしているけれど、誰よりも俺を愛してくれるこの王子と一緒なら、どんな未来でも乗り越えられるかもしれない。

 俺のその変化に、アレクシオスはすぐに気づいた。
 俺を抱きしめる腕の力が、さらに強くなる。
「レオン……」
 彼の声が、幸せに震えていた。
「やっと、私を受け入れてくれたのだな」

 はい、そうです。降参です。あなたの勝ちです。
 俺は心の中で白旗を上げながら、彼の胸に顔をうずめたまま、こくりと頷いた。
 もう、この甘い勘違いの海に、溺れてしまおう。
 そう決意した瞬間だった。

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