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第5話「カイゼルの素顔と、芽生える信頼」
手の火傷が治るまで、カイゼルは僕に厨房へ入ることを禁じた。
「完治するまで、水仕事はするな」
有無を言わさぬ命令だった。食事は料理長たちが作ってくれることになり、僕は手持ち無沙汰な時間を過ごすことになった。
そんな僕を見かねてか、カイゼルは自分の執務室に僕を呼んだ。
「退屈だろう。ここで静かに本でも読んでいろ」
彼はそう言うと、山積みの書類に再び目を落とした。
カイゼルの執務室は、彼の人柄を表すように、余計なものが何もない、機能的な部屋だった。ただ、壁に掛けられた一枚の大きな地図だけが、目を引いた。それは、このヴォルフガング領の精密な地図だった。
僕はカイゼルに勧められるまま、ソファに腰掛けて図書室から借りてきた本を開いた。けれど、文字はなかなか頭に入ってこない。
時折顔を上げると、机に向かうカイゼルの真剣な横顔が見えた。領地の統治というのは、これほど大変な仕事なのか。僕の知らないカイゼルの姿が、そこにはあった。
ペンを走らせる音だけが、静かな部屋に響く。
その穏やかな時間が、僕には心地よかった。誰にも蔑まれず、ただそこにいることを許される。そんな当たり前のことが、僕にとっては奇跡のように感じられた。
しばらくして、カイゼルがペンを置き、大きく伸びをした。
「少し、休憩するか」
彼は立ち上がると、戸棚からティーセットを取り出した。そして、慣れた手つきでハーブティーを淹れ始める。
「え、カイゼルが淹れてくれるんですか?」
「俺が飲みたいだけだ」
ぶっきらぼうに言いながら、彼は僕の前に温かいカップを置いてくれた。立ち上る湯気から、カモミールの優しい香りがする。
「……美味しい」
一口飲むと、体の力がふっと抜けていくようだった。
カイゼルは自分のカップを片手に、窓の外に広がる雪景色を眺めていた。その銀色の瞳は、遠くを見つめている。
「なぜ、私を……ここに?」
ずっと聞きたかったことを、僕は思い切って口にした。
「なぜ、理由も分からないような私を、あなたの伴侶として迎えてくれたんですか?」
王家からの要請があったから、というのは建前だろう。この人ほどのアルファなら、望めばどんな相手でも手に入ったはずだ。僕のような、出来損ないのオメガでなくても。
カイゼルは、しばらく黙っていた。
そして、静かに口を開いた。
「……俺には、運命の番というものが信じられなかった」
唐突な言葉に、僕は息をのむ。オメガバースの世界において、運命の番の存在は絶対的なものだ。それを信じない、と彼は言うのか。
「アルファとオメガは、ただ本能で惹かれ合うだけ。そこに、魂の繋がりなどないと思っていた。だから、誰が相手でも同じだと」
彼の声には、どこか自嘲的な響きがあった。
「王家から打診があった時も、ただ家の存続のために子を成す相手が必要なだけだった。だから、相手は誰でもよかった。……お前が、ここに来るまでは」
カイゼルが、ゆっくりとこちらを振り向いた。
その真摯な銀色の瞳に、僕は射すくめられたようになる。
「初めてお前に会った時、感じた。今まで、誰に対しても感じたことのない、強い引力を。……腹立たしいことにな」
彼は忌々しげにそう言った。
「俺の理性が、警鐘を鳴らしている。お前は危険だと。だが、俺の本能が、魂が、お前こそが唯一だと叫んでいる」
「それ、は……」
それこそが、「運命の番」の証ではないのか。
けれど、僕には彼の言うことが信じられなかった。僕が、この完璧なアルファの運命の番? そんな都合のいい話があるはずがない。僕は、誰からも必要とされない、出来損ないのオメガなのに。
「……信じられません。きっと、何かの間違いです。私は、あなたにふさわしくない」
僕がそう言うと、カイゼルの眉間に深いたてじわが寄った。
「俺が、間違いを認めるとでも?」
低い声が、部屋に響く。
「リヒト。お前が自分をどう思っているかは知らん。だが、俺がお前をどう思っているかは、俺が決めることだ」
彼は僕の前に立つと、大きな手で、僕の頬にそっと触れた。
その手は、驚くほど優しくて、温かかった。
「お前が作る飯は、温かい。お前がいると、この殺風景な城が、少しだけマシに見える。……それだけだ。今は、まだ」
触れた指先から、彼の熱が伝わってくる。僕の心臓が、大きく音を立てた。
カイゼルの瞳が、すぐそこにある。吸い込まれそうな、深い銀色。
僕は、どうすればいいのか分からなかった。ただ、彼の言葉が、彼の温もりが、僕の心の固い殻を少しずつ溶かしていくのを感じていた。
その時、執務室の扉を激しく叩く音がした。
「旦那様! 大変です!」
ゲルトさんの切羽詰まった声だった。
カイゼルは名残惜しそうに僕から手を離すと、厳しい表情に戻って扉を開けた。
「何事だ」
「西の森で、巨大な雪熊(スノーベア)が出没したと! 麓の村が危険です!」
その報告を聞いた瞬間、カイゼルの纏う空気が一変した。穏やかな城の主から、戦場を駆ける猛将の顔へ。
「すぐに出る。準備をしろ」
彼はゲルトさんに短く指示を出すと、壁に掛けてあった長剣を手に取った。
「リヒト、お前は城で待っていろ。絶対に外へ出るな」
そう言い残し、カイゼルは嵐のように部屋を出て行った。
一人残された部屋で、僕は彼の触れた頬に手を当てる。まだ、熱が残っていた。
『カイゼル……』
彼の身を案じる気持ちと、先ほどの言葉への戸惑いで、胸の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。
窓の外を見ると、騎士たちが慌ただしく出撃の準備をしていた。その中心に、カイゼルの姿があった。
そして、僕は信じられないものを見た。
カイゼルの隣に、いつの間にか現れた一頭の巨大な獣。
月光を浴びて輝く、銀色の毛並み。鋭い牙と、黄金の瞳。それは、伝説でしか聞いたことのない、銀狼だった。
カイゼルがその銀狼の背に跨ると、狼は天に向かって雄叫びを上げた。それは、大地を震わせるほどの、力強い咆哮だった。
騎士たちを率いて、吹雪の中へと駆けていくカイゼルと銀狼の姿を、僕はただ呆然と見送ることしかできなかった。
あれが、カイゼルの本当の姿。
領地と民を守る、気高く、そして荒々しい北の王。
僕は、この人のことを、まだ何も知らなかったのだ。
「完治するまで、水仕事はするな」
有無を言わさぬ命令だった。食事は料理長たちが作ってくれることになり、僕は手持ち無沙汰な時間を過ごすことになった。
そんな僕を見かねてか、カイゼルは自分の執務室に僕を呼んだ。
「退屈だろう。ここで静かに本でも読んでいろ」
彼はそう言うと、山積みの書類に再び目を落とした。
カイゼルの執務室は、彼の人柄を表すように、余計なものが何もない、機能的な部屋だった。ただ、壁に掛けられた一枚の大きな地図だけが、目を引いた。それは、このヴォルフガング領の精密な地図だった。
僕はカイゼルに勧められるまま、ソファに腰掛けて図書室から借りてきた本を開いた。けれど、文字はなかなか頭に入ってこない。
時折顔を上げると、机に向かうカイゼルの真剣な横顔が見えた。領地の統治というのは、これほど大変な仕事なのか。僕の知らないカイゼルの姿が、そこにはあった。
ペンを走らせる音だけが、静かな部屋に響く。
その穏やかな時間が、僕には心地よかった。誰にも蔑まれず、ただそこにいることを許される。そんな当たり前のことが、僕にとっては奇跡のように感じられた。
しばらくして、カイゼルがペンを置き、大きく伸びをした。
「少し、休憩するか」
彼は立ち上がると、戸棚からティーセットを取り出した。そして、慣れた手つきでハーブティーを淹れ始める。
「え、カイゼルが淹れてくれるんですか?」
「俺が飲みたいだけだ」
ぶっきらぼうに言いながら、彼は僕の前に温かいカップを置いてくれた。立ち上る湯気から、カモミールの優しい香りがする。
「……美味しい」
一口飲むと、体の力がふっと抜けていくようだった。
カイゼルは自分のカップを片手に、窓の外に広がる雪景色を眺めていた。その銀色の瞳は、遠くを見つめている。
「なぜ、私を……ここに?」
ずっと聞きたかったことを、僕は思い切って口にした。
「なぜ、理由も分からないような私を、あなたの伴侶として迎えてくれたんですか?」
王家からの要請があったから、というのは建前だろう。この人ほどのアルファなら、望めばどんな相手でも手に入ったはずだ。僕のような、出来損ないのオメガでなくても。
カイゼルは、しばらく黙っていた。
そして、静かに口を開いた。
「……俺には、運命の番というものが信じられなかった」
唐突な言葉に、僕は息をのむ。オメガバースの世界において、運命の番の存在は絶対的なものだ。それを信じない、と彼は言うのか。
「アルファとオメガは、ただ本能で惹かれ合うだけ。そこに、魂の繋がりなどないと思っていた。だから、誰が相手でも同じだと」
彼の声には、どこか自嘲的な響きがあった。
「王家から打診があった時も、ただ家の存続のために子を成す相手が必要なだけだった。だから、相手は誰でもよかった。……お前が、ここに来るまでは」
カイゼルが、ゆっくりとこちらを振り向いた。
その真摯な銀色の瞳に、僕は射すくめられたようになる。
「初めてお前に会った時、感じた。今まで、誰に対しても感じたことのない、強い引力を。……腹立たしいことにな」
彼は忌々しげにそう言った。
「俺の理性が、警鐘を鳴らしている。お前は危険だと。だが、俺の本能が、魂が、お前こそが唯一だと叫んでいる」
「それ、は……」
それこそが、「運命の番」の証ではないのか。
けれど、僕には彼の言うことが信じられなかった。僕が、この完璧なアルファの運命の番? そんな都合のいい話があるはずがない。僕は、誰からも必要とされない、出来損ないのオメガなのに。
「……信じられません。きっと、何かの間違いです。私は、あなたにふさわしくない」
僕がそう言うと、カイゼルの眉間に深いたてじわが寄った。
「俺が、間違いを認めるとでも?」
低い声が、部屋に響く。
「リヒト。お前が自分をどう思っているかは知らん。だが、俺がお前をどう思っているかは、俺が決めることだ」
彼は僕の前に立つと、大きな手で、僕の頬にそっと触れた。
その手は、驚くほど優しくて、温かかった。
「お前が作る飯は、温かい。お前がいると、この殺風景な城が、少しだけマシに見える。……それだけだ。今は、まだ」
触れた指先から、彼の熱が伝わってくる。僕の心臓が、大きく音を立てた。
カイゼルの瞳が、すぐそこにある。吸い込まれそうな、深い銀色。
僕は、どうすればいいのか分からなかった。ただ、彼の言葉が、彼の温もりが、僕の心の固い殻を少しずつ溶かしていくのを感じていた。
その時、執務室の扉を激しく叩く音がした。
「旦那様! 大変です!」
ゲルトさんの切羽詰まった声だった。
カイゼルは名残惜しそうに僕から手を離すと、厳しい表情に戻って扉を開けた。
「何事だ」
「西の森で、巨大な雪熊(スノーベア)が出没したと! 麓の村が危険です!」
その報告を聞いた瞬間、カイゼルの纏う空気が一変した。穏やかな城の主から、戦場を駆ける猛将の顔へ。
「すぐに出る。準備をしろ」
彼はゲルトさんに短く指示を出すと、壁に掛けてあった長剣を手に取った。
「リヒト、お前は城で待っていろ。絶対に外へ出るな」
そう言い残し、カイゼルは嵐のように部屋を出て行った。
一人残された部屋で、僕は彼の触れた頬に手を当てる。まだ、熱が残っていた。
『カイゼル……』
彼の身を案じる気持ちと、先ほどの言葉への戸惑いで、胸の中がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。
窓の外を見ると、騎士たちが慌ただしく出撃の準備をしていた。その中心に、カイゼルの姿があった。
そして、僕は信じられないものを見た。
カイゼルの隣に、いつの間にか現れた一頭の巨大な獣。
月光を浴びて輝く、銀色の毛並み。鋭い牙と、黄金の瞳。それは、伝説でしか聞いたことのない、銀狼だった。
カイゼルがその銀狼の背に跨ると、狼は天に向かって雄叫びを上げた。それは、大地を震わせるほどの、力強い咆哮だった。
騎士たちを率いて、吹雪の中へと駆けていくカイゼルと銀狼の姿を、僕はただ呆然と見送ることしかできなかった。
あれが、カイゼルの本当の姿。
領地と民を守る、気高く、そして荒々しい北の王。
僕は、この人のことを、まだ何も知らなかったのだ。
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