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第1話「追放貴族と奇跡の畑」
「三男フィン、お前を勘当する。この痩せた辺境の土地を与えるから、二度と我が家の敷居をまたぐことは許さない」
父である伯爵の冷たい声が、だだっ広い謁見の間に響き渡った。兄たちは侮蔑の視線を隠そうともせず、使用人たちは憐れむように、僕から目を逸らした。
僕、フィン・アトウッドが授かったスキルは、【土壌改良】。その名の通り、土の質を良くするだけの地味なスキルだった。炎を操る長兄や、聖なる光で傷を癒す次兄と比べれば、戦闘にも魔法にも役立たない『ハズレスキル』。貴族として何の価値もないと判断されるのも、無理はない話だった。
「……はい、分かりました」
僕はあっさりと頭を下げた。別に悲しくはなかった。元々、貴族の窮屈な生活は性に合わなかったし、兄たちからの嫌がらせにもうんざりしていたからだ。むしろ、これでのびのび暮らせると思うと、少しワクワクするくらいだった。
そうして僕は、一台の馬車に最低限の荷物とわずかな食料、そして数種類の野菜の種を積まれ、王都から遥か遠く、魔の森に近い辺境の地へと文字通り捨てられたのだ。
与えられた土地は、話に聞いていた通りの荒れ地だった。雑草すらまばらで、地面は乾ききってひび割れている。普通の人間なら、ここで作物を育てることなど不可能だと絶望するだろう。
「うーん、これはなかなかのカサカサ具合だね」
でも、僕には【土壌改良】がある。
僕はしゃがみ込むと、乾いた土にそっと指先で触れた。そして、スキルを発動させる。特別な呪文も、大げな魔力の発動もない。ただ「良くなれ」と願うだけだ。
すると、僕の指が触れた場所から、奇跡が起こった。
カサカサだった赤茶色の土が、まるで墨汁を染み込ませたかのように、じわりと黒く色を変えていく。ひび割れは消え、指先にふかふかとした柔らかな感触が伝わってきた。ほんのりと土の良い香りが立ち上る。
「うん、上出来」
僕は満足げに頷くと、鼻歌まじりに持ってきたクワで小さな畑を耕し始めた。黒々とした土は驚くほど柔らかく、簡単にクワが入っていく。あっという間に、一人で暮らすには十分すぎるほどの畑が完成した。
そこに、持ってきた野菜の種、トマト、ニンジン、ジャガイモを丁寧に植えていく。
「美味しい野菜が育てば、それでいいや」
騒がしい王都も、僕を見下す家族も、もうここにはいない。あるのは広大な土地と、どこまでも続く青い空だけだ。これから始まる自由な生活を思うと、自然と笑みがこぼれた。
勘当? 追放? 上等だった。
僕ののんびりとした辺境スローライフは、こうして静かに幕を開けたのだった。
父である伯爵の冷たい声が、だだっ広い謁見の間に響き渡った。兄たちは侮蔑の視線を隠そうともせず、使用人たちは憐れむように、僕から目を逸らした。
僕、フィン・アトウッドが授かったスキルは、【土壌改良】。その名の通り、土の質を良くするだけの地味なスキルだった。炎を操る長兄や、聖なる光で傷を癒す次兄と比べれば、戦闘にも魔法にも役立たない『ハズレスキル』。貴族として何の価値もないと判断されるのも、無理はない話だった。
「……はい、分かりました」
僕はあっさりと頭を下げた。別に悲しくはなかった。元々、貴族の窮屈な生活は性に合わなかったし、兄たちからの嫌がらせにもうんざりしていたからだ。むしろ、これでのびのび暮らせると思うと、少しワクワクするくらいだった。
そうして僕は、一台の馬車に最低限の荷物とわずかな食料、そして数種類の野菜の種を積まれ、王都から遥か遠く、魔の森に近い辺境の地へと文字通り捨てられたのだ。
与えられた土地は、話に聞いていた通りの荒れ地だった。雑草すらまばらで、地面は乾ききってひび割れている。普通の人間なら、ここで作物を育てることなど不可能だと絶望するだろう。
「うーん、これはなかなかのカサカサ具合だね」
でも、僕には【土壌改良】がある。
僕はしゃがみ込むと、乾いた土にそっと指先で触れた。そして、スキルを発動させる。特別な呪文も、大げな魔力の発動もない。ただ「良くなれ」と願うだけだ。
すると、僕の指が触れた場所から、奇跡が起こった。
カサカサだった赤茶色の土が、まるで墨汁を染み込ませたかのように、じわりと黒く色を変えていく。ひび割れは消え、指先にふかふかとした柔らかな感触が伝わってきた。ほんのりと土の良い香りが立ち上る。
「うん、上出来」
僕は満足げに頷くと、鼻歌まじりに持ってきたクワで小さな畑を耕し始めた。黒々とした土は驚くほど柔らかく、簡単にクワが入っていく。あっという間に、一人で暮らすには十分すぎるほどの畑が完成した。
そこに、持ってきた野菜の種、トマト、ニンジン、ジャガイモを丁寧に植えていく。
「美味しい野菜が育てば、それでいいや」
騒がしい王都も、僕を見下す家族も、もうここにはいない。あるのは広大な土地と、どこまでも続く青い空だけだ。これから始まる自由な生活を思うと、自然と笑みがこぼれた。
勘当? 追放? 上等だった。
僕ののんびりとした辺境スローライフは、こうして静かに幕を開けたのだった。
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