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第11話「雪解けの口づけと永遠の契約」
卒業パーティーの騒動から数日が過ぎた。
あの一件以来、俺を見る周囲の目は劇的に変化した。
「冷酷な悪役」から「愛に不器用な孤高の貴公子」へ。廊下を歩けば令嬢たちが顔を赤らめ、男子生徒からは尊敬の眼差しを向けられる。
居心地が悪いことこの上ない。
だが、最も変わったのは俺の環境だ。
父である公爵が、俺を呼び出したのだ。あの夜、俺はまた叱責されるのだと覚悟していた。
しかし、父は窓の外を見ながら、静かに言った。
「……オメガの特待生か。悪くない」
「え?」
「希少なオメガであり、次期魔術師団長候補とも噂されるほどの魔力を持つ。そして何より、王太子の前であれだけの啖呵を切る度胸。ヴァルドアの伴侶として不足はない」
父は、ノエルを認めたのだ。
政治的な打算かもしれない。だが、俺が「切り捨てられる」未来は回避された。
そして今。
俺は学園の中庭にある、桜に似た巨木の下にいた。
目の前にはノエルがいる。
卒業式を終え、第二ボタンどころか制服のボタンを全てむしり取られそうになった彼を、なんとか連れ出したのだ。
春の風が吹く。花びらが舞う。
一年前、入学式で彼とすれ違った場所だ。
「……ルシアン様」
ノエルが潤んだ瞳で俺を見上げる。
俺は深く息を吸った。
もう、逃げるのはやめよう。
俺は平和に生きたい。穏やかに暮らしたい。
そのためには、彼が必要だ。
彼と一緒にいれば、俺の悪役面も「クールな愛」に変換される。彼の強烈なポジティブ思考があれば、俺のネガティブな人生もなんとかなる気がする。
これは打算だ。
だが、それだけではないことも、俺は認め始めていた。
雨の日、傘を差し出してくれた時の温もり。図書室で並んで座った時の静寂。彼が俺を庇ってくれた時の、背中の頼もしさ。
俺もまた、彼に救われていたのだ。
「……ノエル」
俺は、震える声でその名を呼んだ。
ポケットから、小さな箱を取り出す。指輪ではない。ヴァルドア家に伝わる、伴侶の証である銀のイヤリングだ。
「お前が言った通り、俺は不器用で、言葉足らずで、冷たい男かもしれない」
「そんなことありません!」
ノエルが即座に否定する。俺は苦笑して、首を振った。
「いや、聞いてくれ。……俺は、お前が思うような立派な人間じゃない。臆病で、いつも何かに怯えている。それでも……」
俺は一歩踏み出し、彼の手を取った。
「それでも、お前が隣にいてくれるなら、俺は生きていける気がする」
ノエルの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
「……はい。はい……! 僕が、ずっとお守りします。ルシアン様の盾になり、剣になり、日だまりになります」
彼は俺の胸に飛び込んできた。
俺はその体をしっかりと受け止めた。
甘い花の香りが、俺のアルファとしての本能を刺激する。だが、それはもう恐怖の対象ではなかった。
俺は彼の顎をそっと持ち上げた。
蜂蜜色の瞳が、俺だけを映している。
「……契約だ。一生、離さない」
それはプロポーズの言葉としてはあまりに強引で、悪役らしいものだったかもしれない。
だがノエルは、世界で一番幸せそうな顔で微笑んだ。
「望むところです、旦那様」
重なる唇。
春の風が二人を包み込む。
長い冬が終わり、俺たちの物語は、ようやくハッピーエンドの、その先へと歩き出したのだ。
あの一件以来、俺を見る周囲の目は劇的に変化した。
「冷酷な悪役」から「愛に不器用な孤高の貴公子」へ。廊下を歩けば令嬢たちが顔を赤らめ、男子生徒からは尊敬の眼差しを向けられる。
居心地が悪いことこの上ない。
だが、最も変わったのは俺の環境だ。
父である公爵が、俺を呼び出したのだ。あの夜、俺はまた叱責されるのだと覚悟していた。
しかし、父は窓の外を見ながら、静かに言った。
「……オメガの特待生か。悪くない」
「え?」
「希少なオメガであり、次期魔術師団長候補とも噂されるほどの魔力を持つ。そして何より、王太子の前であれだけの啖呵を切る度胸。ヴァルドアの伴侶として不足はない」
父は、ノエルを認めたのだ。
政治的な打算かもしれない。だが、俺が「切り捨てられる」未来は回避された。
そして今。
俺は学園の中庭にある、桜に似た巨木の下にいた。
目の前にはノエルがいる。
卒業式を終え、第二ボタンどころか制服のボタンを全てむしり取られそうになった彼を、なんとか連れ出したのだ。
春の風が吹く。花びらが舞う。
一年前、入学式で彼とすれ違った場所だ。
「……ルシアン様」
ノエルが潤んだ瞳で俺を見上げる。
俺は深く息を吸った。
もう、逃げるのはやめよう。
俺は平和に生きたい。穏やかに暮らしたい。
そのためには、彼が必要だ。
彼と一緒にいれば、俺の悪役面も「クールな愛」に変換される。彼の強烈なポジティブ思考があれば、俺のネガティブな人生もなんとかなる気がする。
これは打算だ。
だが、それだけではないことも、俺は認め始めていた。
雨の日、傘を差し出してくれた時の温もり。図書室で並んで座った時の静寂。彼が俺を庇ってくれた時の、背中の頼もしさ。
俺もまた、彼に救われていたのだ。
「……ノエル」
俺は、震える声でその名を呼んだ。
ポケットから、小さな箱を取り出す。指輪ではない。ヴァルドア家に伝わる、伴侶の証である銀のイヤリングだ。
「お前が言った通り、俺は不器用で、言葉足らずで、冷たい男かもしれない」
「そんなことありません!」
ノエルが即座に否定する。俺は苦笑して、首を振った。
「いや、聞いてくれ。……俺は、お前が思うような立派な人間じゃない。臆病で、いつも何かに怯えている。それでも……」
俺は一歩踏み出し、彼の手を取った。
「それでも、お前が隣にいてくれるなら、俺は生きていける気がする」
ノエルの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
「……はい。はい……! 僕が、ずっとお守りします。ルシアン様の盾になり、剣になり、日だまりになります」
彼は俺の胸に飛び込んできた。
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俺は彼の顎をそっと持ち上げた。
蜂蜜色の瞳が、俺だけを映している。
「……契約だ。一生、離さない」
それはプロポーズの言葉としてはあまりに強引で、悪役らしいものだったかもしれない。
だがノエルは、世界で一番幸せそうな顔で微笑んだ。
「望むところです、旦那様」
重なる唇。
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長い冬が終わり、俺たちの物語は、ようやくハッピーエンドの、その先へと歩き出したのだ。
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