14 / 14
エピローグ「悪役令息の幸福な憂鬱」
卒業から三年。
俺、ルシアン・ヴァルドアは、若くして公爵位を継ぎ、領地の経営に奔走していた。
執務室の窓からは、豊かに実った小麦畑が見える。かつて冷え切っていた領地も、今は活気に満ちていた。
その理由は、俺の隣にいる補佐官兼、最愛の伴侶にある。
「ルシアン様! 南の村の視察報告書、まとめておきました! あと、おやつの紅茶も淹れましたよ!」
元気な声と共に、ノエルが入ってくる。
彼はヴァルドア公爵家の「奥方」として、領民たちから絶大な人気を誇っていた。オメガの男性が公爵夫人となることは異例だったが、彼の持ち前の明るさと魔力、そして行動力が全ての壁を粉砕したのだ。
俺は書類から顔を上げ、わざとらしくため息をついた。
「……声が大きい。仕事の邪魔だ」
「ふふ、ごめんなさい。でも、少し休憩しましょう?」
ノエルは全く動じることなく、俺のデスクにティーカップを置く。そして、自然な動作で俺の膝の上に座り込んできた。
甘い香り。
俺たちはすでに「番」の契約を結んでいる。彼のフェロモンは、今や俺にとって精神安定剤のようなものだった。
俺は観念して、彼の腰に腕を回した。
「……で、どうだったんだ。南の村は」
「はい! みんなルシアン様に感謝していましたよ。『若様は口は悪いが、税を下げてくれたし、魔物退治も自ら指揮してくれた』って」
余計なことを。俺はただ、効率的に領地運営をしたかっただけだ。魔物退治も、被害が拡大して収入が減るのを防ぐために、的確な指示を出したに過ぎない。
だが、ノエルというフィルターを通すと、すべてが「慈悲深い領主の偉業」に変換されて伝わるらしい。
「まったく……お前のおかげで、俺はすっかり善人扱いだ」
「善人ですよ、貴方は」
ノエルは俺の頬に口づけた。
「世界で一番、素敵な旦那様です」
俺は顔が熱くなるのを感じながら、窓の外へ視線を逃がした。
かつて恐怖した「断罪」の未来は、もうどこにもない。
あるのは、少し騒がしくて、甘ったるくて、どうしようもなく幸せな日常だけだ。
俺はノエルの背中に額を押し付け、小さくつぶやいた。
「……悪くない」
その言葉は、彼には聞こえていたようで、嬉しそうな笑い声が部屋に響いた。
俺の勘違いだらけの人生も、ここまで来れば上出来だろう。
平穏無事な老後まで、この「愛すべき誤解」と共に生きていくのも、そう悪くはない選択だ。
俺、ルシアン・ヴァルドアは、若くして公爵位を継ぎ、領地の経営に奔走していた。
執務室の窓からは、豊かに実った小麦畑が見える。かつて冷え切っていた領地も、今は活気に満ちていた。
その理由は、俺の隣にいる補佐官兼、最愛の伴侶にある。
「ルシアン様! 南の村の視察報告書、まとめておきました! あと、おやつの紅茶も淹れましたよ!」
元気な声と共に、ノエルが入ってくる。
彼はヴァルドア公爵家の「奥方」として、領民たちから絶大な人気を誇っていた。オメガの男性が公爵夫人となることは異例だったが、彼の持ち前の明るさと魔力、そして行動力が全ての壁を粉砕したのだ。
俺は書類から顔を上げ、わざとらしくため息をついた。
「……声が大きい。仕事の邪魔だ」
「ふふ、ごめんなさい。でも、少し休憩しましょう?」
ノエルは全く動じることなく、俺のデスクにティーカップを置く。そして、自然な動作で俺の膝の上に座り込んできた。
甘い香り。
俺たちはすでに「番」の契約を結んでいる。彼のフェロモンは、今や俺にとって精神安定剤のようなものだった。
俺は観念して、彼の腰に腕を回した。
「……で、どうだったんだ。南の村は」
「はい! みんなルシアン様に感謝していましたよ。『若様は口は悪いが、税を下げてくれたし、魔物退治も自ら指揮してくれた』って」
余計なことを。俺はただ、効率的に領地運営をしたかっただけだ。魔物退治も、被害が拡大して収入が減るのを防ぐために、的確な指示を出したに過ぎない。
だが、ノエルというフィルターを通すと、すべてが「慈悲深い領主の偉業」に変換されて伝わるらしい。
「まったく……お前のおかげで、俺はすっかり善人扱いだ」
「善人ですよ、貴方は」
ノエルは俺の頬に口づけた。
「世界で一番、素敵な旦那様です」
俺は顔が熱くなるのを感じながら、窓の外へ視線を逃がした。
かつて恐怖した「断罪」の未来は、もうどこにもない。
あるのは、少し騒がしくて、甘ったるくて、どうしようもなく幸せな日常だけだ。
俺はノエルの背中に額を押し付け、小さくつぶやいた。
「……悪くない」
その言葉は、彼には聞こえていたようで、嬉しそうな笑い声が部屋に響いた。
俺の勘違いだらけの人生も、ここまで来れば上出来だろう。
平穏無事な老後まで、この「愛すべき誤解」と共に生きていくのも、そう悪くはない選択だ。
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される
水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。
しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み!
生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。
ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。
しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。
「――俺の番に、何か用か」
これは破滅を回避するためのただの計画。
のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。
悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!
過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~
水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった!
「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。
そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。
「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。
孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
偽りベータの宮廷薬師は、氷の宰相に匂いを嗅がれ溺愛される
水凪しおん
BL
「お前の匂いがないと、私は息ができない」
宮廷薬師のルチアーノは、オメガであることを隠し、自作の抑制薬でベータと偽って生きてきた。
しかしある日、冷徹無比と恐れられる「氷の宰相」アレクセイにその秘密がバレてしまう。
処刑を覚悟したルチアーノだったが、アレクセイが求めたのは、ルチアーノの身体から香る「匂い」だった!?
強すぎる能力ゆえに感覚過敏に苦しむ宰相と、彼の唯一の安らぎとなった薬師。
秘密の共有から始まる、契約と執着のオメガバース・ロマンス!
悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?
水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。
断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。
しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。
これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?
もふもふ聖獣様に拾われた不遇オメガは、空に浮かぶ島で運命の番として極上の溺愛を注がれる
水凪しおん
BL
「オメガがいるから、村に災いが降りかかったのだ」
理不尽な理由で村人たちから忌み嫌われ、深い雪の森へと生贄として捨てられた十九歳の青年、ルカ。
凍える寒さの中、絶望に目を閉じた彼の前に現れたのは、見上げるほど巨大で美しい「白銀の狼」だった。
伝説の聖獣である狼に拾われたルカが目を覚ましたのは、下界の汚れから切り離された雲海に浮かぶ美しい島。
狼は人間の姿——流れるような銀髪と黄金の瞳を持つ壮麗なアルファの偉丈夫、レオンへと変化し、ルカにこう告げる。
「君は、俺の運命の番だ」
これまで虐げられ、自分を穢れた存在だと思い込んでいたルカは、レオンの甘く深いアルファの香りと、恐ろしいほどの優しさに戸惑うばかり。
温かい食事、美しい庭園、そして決して自分を傷つけない大きな手。
極上の溺愛に包まれるうち、ルカの心に固く巻きついていた冷たい恐怖の糸は、少しずつほどけていく。
そして、ルカを捨てた村人たちが強欲にも島へ足を踏み入れたとき、ルカは自らの意志とオメガとしての本当の力に目覚める——。
これは、孤独だった不遇のオメガが、伝説の聖獣の番として永遠の幸せと自分の居場所を見つけるまでの、心温まる溺愛ファンタジー。