3 / 16
第2話「暴走する本能」
しおりを挟む
「匂い、ですか?」
班長が媚びへつらうような声で問いかける。
クレイドは鋭い視線を周囲に巡らせた後、ふっと興味を失ったように視線を外した。
「いや、気のせいだ。オイルの臭気が強すぎる」
そう言って彼は背を向け、奥の特別ハンガーへと歩き去っていった。
俺は詰めていた息を、音にならないように吐き出す。
心臓が早鐘を打っていた。
抑制剤は朝に飲んだばかりだ。効いているはずなのに、あの鋭い感覚は何なんだ。
「おいエリアン、ボーッとしてるな! クレイド様の機体、『銀狼(アガート)』の最終チェックはお前がやれ」
「えっ、俺がですか?」
「お前が一番細かい作業が得意だからな。粗相のないように頼むぞ」
班長はそれだけ言うと、他の作業指示に戻ってしまった。
俺は冷や汗を拭いながら、特別ハンガーへと向かう。
そこには、他の機装とは一線を画す美しい機体があった。
銀色に輝く装甲、狼を模した頭部形状。
クレイドの専用機『銀狼』だ。
近くで見ると、その美しさと恐ろしさに圧倒される。
俺は昇降リフトを使ってコクピット付近まで上がり、装甲のハッチを開けた。
内部の生体部品は脈動し、まるで生き物の内臓のようだ。
俺は慎重にセンサーを接続し、数値をチェックしていく。
「……同調率、不安定だな」
モニターに表示された数値を見て、俺はつぶやいた。
機装はパイロットの精神状態に強く影響される。
この数値の乱れは、パイロットであるクレイド自身がストレスを抱えている証拠だ。
「優秀なパイロットほど、機体からのバックドラフトがきついって言うけど」
これほどの数値を抱えたまま平然と歩いていたのか。あの男は。
俺は少しだけ、あの冷徹そうな男に同情を覚えた。
アルファも楽じゃないんだな。
その時、警報音がドック全体に鳴り響いた。
『緊急警報。外壁第3セクターに大型汚染獣(グリム)接近。直ちに出撃せよ』
汚染獣。
外の世界の毒を吸って変異した怪物たちだ。
ドックの空気が一瞬で張り詰める。
「総員退避! パイロットは搭乗せよ!」
俺がリフトを降ろそうとしたその時、格納庫の扉が開き、クレイドが駆け込んできた。
彼は俺がいることに気づくと、鋭く指示を飛ばした。
「整備士、そこをどけ! 出撃する!」
「待ってください! まだ同調率の調整が終わっていません! このまま出ると危険です!」
俺は大声で叫んだが、クレイドは聞く耳を持たなかった。
「構わん。時間が惜しい」
彼は無理やり俺をリフトから遠ざけ、コクピットへと飛び乗った。
ハッチが閉まり、銀狼の瞳にあたるカメラアイが赤く発光する。
巨体が唸りを上げ、カタパルトへと移動していく。
「……無茶だ」
俺はその背中を見送ることしかできなかった。
嫌な予感が、腹の底で渦巻いていた。
数分後、その予感は最悪の形で的中することになる。
モニター越しに見る戦場で、銀狼の動きが突然止まったのだ。
汚染獣の群れが迫る中、最強の騎士の機体は、まるで糸の切れた人形のように沈黙していた。
班長が媚びへつらうような声で問いかける。
クレイドは鋭い視線を周囲に巡らせた後、ふっと興味を失ったように視線を外した。
「いや、気のせいだ。オイルの臭気が強すぎる」
そう言って彼は背を向け、奥の特別ハンガーへと歩き去っていった。
俺は詰めていた息を、音にならないように吐き出す。
心臓が早鐘を打っていた。
抑制剤は朝に飲んだばかりだ。効いているはずなのに、あの鋭い感覚は何なんだ。
「おいエリアン、ボーッとしてるな! クレイド様の機体、『銀狼(アガート)』の最終チェックはお前がやれ」
「えっ、俺がですか?」
「お前が一番細かい作業が得意だからな。粗相のないように頼むぞ」
班長はそれだけ言うと、他の作業指示に戻ってしまった。
俺は冷や汗を拭いながら、特別ハンガーへと向かう。
そこには、他の機装とは一線を画す美しい機体があった。
銀色に輝く装甲、狼を模した頭部形状。
クレイドの専用機『銀狼』だ。
近くで見ると、その美しさと恐ろしさに圧倒される。
俺は昇降リフトを使ってコクピット付近まで上がり、装甲のハッチを開けた。
内部の生体部品は脈動し、まるで生き物の内臓のようだ。
俺は慎重にセンサーを接続し、数値をチェックしていく。
「……同調率、不安定だな」
モニターに表示された数値を見て、俺はつぶやいた。
機装はパイロットの精神状態に強く影響される。
この数値の乱れは、パイロットであるクレイド自身がストレスを抱えている証拠だ。
「優秀なパイロットほど、機体からのバックドラフトがきついって言うけど」
これほどの数値を抱えたまま平然と歩いていたのか。あの男は。
俺は少しだけ、あの冷徹そうな男に同情を覚えた。
アルファも楽じゃないんだな。
その時、警報音がドック全体に鳴り響いた。
『緊急警報。外壁第3セクターに大型汚染獣(グリム)接近。直ちに出撃せよ』
汚染獣。
外の世界の毒を吸って変異した怪物たちだ。
ドックの空気が一瞬で張り詰める。
「総員退避! パイロットは搭乗せよ!」
俺がリフトを降ろそうとしたその時、格納庫の扉が開き、クレイドが駆け込んできた。
彼は俺がいることに気づくと、鋭く指示を飛ばした。
「整備士、そこをどけ! 出撃する!」
「待ってください! まだ同調率の調整が終わっていません! このまま出ると危険です!」
俺は大声で叫んだが、クレイドは聞く耳を持たなかった。
「構わん。時間が惜しい」
彼は無理やり俺をリフトから遠ざけ、コクピットへと飛び乗った。
ハッチが閉まり、銀狼の瞳にあたるカメラアイが赤く発光する。
巨体が唸りを上げ、カタパルトへと移動していく。
「……無茶だ」
俺はその背中を見送ることしかできなかった。
嫌な予感が、腹の底で渦巻いていた。
数分後、その予感は最悪の形で的中することになる。
モニター越しに見る戦場で、銀狼の動きが突然止まったのだ。
汚染獣の群れが迫る中、最強の騎士の機体は、まるで糸の切れた人形のように沈黙していた。
219
あなたにおすすめの小説
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
捨てられΩの癒やしの薬草、呪いで苦しむ最強騎士団長を救ったら、いつの間にか胃袋も心も掴んで番にされていました
水凪しおん
BL
孤独と絶望を癒やす、運命の愛の物語。
人里離れた森の奥、青年アレンは不思議な「浄化の力」を持ち、薬草を育てながらひっそりと暮らしていた。その力を気味悪がられ、人を避けるように生きてきた彼の前に、ある嵐の夜、血まみれの男が現れる。
男の名はカイゼル。「黒き猛虎」と敵国から恐れられる、無敗の騎士団長。しかし彼は、戦場で受けた呪いにより、αの本能を制御できず、狂おしい発作に身を焼かれていた。
記憶を失ったふりをしてアレンの元に留まるカイゼル。アレンの作る薬草茶が、野菜スープが、そして彼自身の存在が、カイゼルの荒れ狂う魂を鎮めていく唯一の癒やしだと気づいた時、その想いは激しい執着と独占欲へ変わる。
「お前がいなければ、俺は正気を保てない」
やがて明かされる真実、迫りくる呪いの脅威。臆病だった青年は、愛する人を救うため、その身に宿る力のすべてを捧げることを決意する。
呪いが解けた時、二人は真の番となる。孤独だった魂が寄り添い、狂おしいほどの愛を注ぎ合う、ファンタジック・ラブストーリー。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる