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第3話「共鳴する魂」
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「クレイド様のバイタル、低下しています! 機体が制御を受け付けていません!」
管制室のオペレーターが悲鳴のような声を上げる。
俺は整備用モニターを食い入るように見つめていた。
数値が異常なスパイクを起こしている。
これは故障じゃない。精神汚染によるオーバーロードだ。
アルファが機装と深く同調しすぎると、機体の闘争本能に精神を飲み込まれることがある。
それを抑えるためにオメガが必要なのだが、クレイドには専属のオメガがいないらしい。
強すぎる力に、誰もついていけないのだ。
「誰か、救援に向かわせろ!」
「ダメです、他の機体も手一杯で……このままじゃ、クレイド様が!」
誰も動けない。
このままでは、彼は精神を焼き切られて死ぬか、機体に取り込まれて怪物になるかだ。
気がつくと、俺は走っていた。
整備用の小型ホバーバイクに飛び乗り、エアロックへと向かう。
「おいエリアン! どこへ行く気だ!?」
班長の制止を無視して、俺はアクセルを全開にした。
俺にはわかる。
あそこで何が起きているのか。
モニター越しに感じた、あの苦しみ。
助けなきゃいけないという本能が、理屈よりも先に体を動かしていた。
エアロックを抜け、灰の降る荒野へ飛び出す。
視界の先、黒い汚染獣に囲まれた銀色の機体が見えた。
銀狼は苦悶するように震えている。
俺はバイクを機体の足元に滑り込ませると、緊急用の外部接続ポートへよじ登った。
汚染された大気が防護服越しに肌を刺すが、構ってはいられない。
工具を使ってハッチを強制開放する。
プシューッという音と共にハッチが開き、中から濃密な熱気が溢れ出した。
それは、暴走したアルファのフェロモンだった。
「うっ……!」
強烈な重圧に膝が折れそうになる。
普通のベータなら気絶しているレベルだ。
だが、俺はオメガだ。この匂いに耐性がある。
それどころか、体の奥が熱く疼くのを感じた。
コクピットの中、クレイドは操縦席で頭を抱え、うわごとのように何かをつぶやいていた。
「……消えろ……俺の中に入ってくるな……」
彼の目は焦点が合わず、瞳孔が開ききり、白目が赤く充血している。
限界だ。今すぐに精神を安定させないと。
「しっかりしろ!」
俺は彼の胸倉を掴み、叫んだ。
だが、クレイドの腕が俺を振り払おうと伸びてくる。その力は強すぎて、俺の手首がきしみそうだ。
言葉じゃ届かない。
理屈じゃ止められない。
なら、これしかない。
俺は覚悟を決め、ポケットから抑制剤を取り出すと、それを放り投げた。
もう隠している場合じゃない。
俺は自分の首筋にある腺を、爪で強くひっかいた。
痛みが走り、同時に甘く濃厚な香りが狭いコクピットに充満する。
それは、花の香り。
荒廃したこの世界で最も尊ばれる、オメガのフェロモン。
クレイドの動きがピタリと止まった。
彼はゆっくりと顔を上げ、俺を見る。
その瞳孔が開いている。
「……オ、メガ……?」
俺は震える手で彼の頬に触れ、額を押し付けた。
直接肌を触れ合わせ、神経パルスを同調させる。
本来なら番(つがい)になる相手とする行為だ。
「頼むから、戻ってこい。あんたが死んだら、みんな困るんだよ」
俺の祈りは、フェロモンに乗って彼の脳内へ直接流れ込んだ。
銀狼のシステムが、俺たちの生体波形を検知する。
エラー音が消え、代わりに柔らかな光がモニターを埋め尽くした。
『生体共鳴(バイオ・レゾナンス)、確認。同調率、400%を超過』
機械的な音声が響く中、俺は意識が遠のくのを感じた。
最後に見たのは、正気を取り戻したクレイドが、信じられないものを見るような目で俺を見つめる姿だった。
管制室のオペレーターが悲鳴のような声を上げる。
俺は整備用モニターを食い入るように見つめていた。
数値が異常なスパイクを起こしている。
これは故障じゃない。精神汚染によるオーバーロードだ。
アルファが機装と深く同調しすぎると、機体の闘争本能に精神を飲み込まれることがある。
それを抑えるためにオメガが必要なのだが、クレイドには専属のオメガがいないらしい。
強すぎる力に、誰もついていけないのだ。
「誰か、救援に向かわせろ!」
「ダメです、他の機体も手一杯で……このままじゃ、クレイド様が!」
誰も動けない。
このままでは、彼は精神を焼き切られて死ぬか、機体に取り込まれて怪物になるかだ。
気がつくと、俺は走っていた。
整備用の小型ホバーバイクに飛び乗り、エアロックへと向かう。
「おいエリアン! どこへ行く気だ!?」
班長の制止を無視して、俺はアクセルを全開にした。
俺にはわかる。
あそこで何が起きているのか。
モニター越しに感じた、あの苦しみ。
助けなきゃいけないという本能が、理屈よりも先に体を動かしていた。
エアロックを抜け、灰の降る荒野へ飛び出す。
視界の先、黒い汚染獣に囲まれた銀色の機体が見えた。
銀狼は苦悶するように震えている。
俺はバイクを機体の足元に滑り込ませると、緊急用の外部接続ポートへよじ登った。
汚染された大気が防護服越しに肌を刺すが、構ってはいられない。
工具を使ってハッチを強制開放する。
プシューッという音と共にハッチが開き、中から濃密な熱気が溢れ出した。
それは、暴走したアルファのフェロモンだった。
「うっ……!」
強烈な重圧に膝が折れそうになる。
普通のベータなら気絶しているレベルだ。
だが、俺はオメガだ。この匂いに耐性がある。
それどころか、体の奥が熱く疼くのを感じた。
コクピットの中、クレイドは操縦席で頭を抱え、うわごとのように何かをつぶやいていた。
「……消えろ……俺の中に入ってくるな……」
彼の目は焦点が合わず、瞳孔が開ききり、白目が赤く充血している。
限界だ。今すぐに精神を安定させないと。
「しっかりしろ!」
俺は彼の胸倉を掴み、叫んだ。
だが、クレイドの腕が俺を振り払おうと伸びてくる。その力は強すぎて、俺の手首がきしみそうだ。
言葉じゃ届かない。
理屈じゃ止められない。
なら、これしかない。
俺は覚悟を決め、ポケットから抑制剤を取り出すと、それを放り投げた。
もう隠している場合じゃない。
俺は自分の首筋にある腺を、爪で強くひっかいた。
痛みが走り、同時に甘く濃厚な香りが狭いコクピットに充満する。
それは、花の香り。
荒廃したこの世界で最も尊ばれる、オメガのフェロモン。
クレイドの動きがピタリと止まった。
彼はゆっくりと顔を上げ、俺を見る。
その瞳孔が開いている。
「……オ、メガ……?」
俺は震える手で彼の頬に触れ、額を押し付けた。
直接肌を触れ合わせ、神経パルスを同調させる。
本来なら番(つがい)になる相手とする行為だ。
「頼むから、戻ってこい。あんたが死んだら、みんな困るんだよ」
俺の祈りは、フェロモンに乗って彼の脳内へ直接流れ込んだ。
銀狼のシステムが、俺たちの生体波形を検知する。
エラー音が消え、代わりに柔らかな光がモニターを埋め尽くした。
『生体共鳴(バイオ・レゾナンス)、確認。同調率、400%を超過』
機械的な音声が響く中、俺は意識が遠のくのを感じた。
最後に見たのは、正気を取り戻したクレイドが、信じられないものを見るような目で俺を見つめる姿だった。
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