隠れオメガの整備士は自由になりたい。なのに暴走する最強騎士を身体を張って止めたら、運命の番だとバレて過保護な専属契約を結ばされました

水凪しおん

文字の大きさ
4 / 16

第3話「共鳴する魂」

「クレイド様のバイタル、低下しています! 機体が制御を受け付けていません!」

 管制室のオペレーターが悲鳴のような声を上げる。
 俺は整備用モニターを食い入るように見つめていた。
 数値が異常なスパイクを起こしている。
 これは故障じゃない。精神汚染によるオーバーロードだ。

 アルファが機装と深く同調しすぎると、機体の闘争本能に精神を飲み込まれることがある。
 それを抑えるためにオメガが必要なのだが、クレイドには専属のオメガがいないらしい。
 強すぎる力に、誰もついていけないのだ。

「誰か、救援に向かわせろ!」

「ダメです、他の機体も手一杯で……このままじゃ、クレイド様が!」

 誰も動けない。
 このままでは、彼は精神を焼き切られて死ぬか、機体に取り込まれて怪物になるかだ。

 気がつくと、俺は走っていた。
 整備用の小型ホバーバイクに飛び乗り、エアロックへと向かう。

「おいエリアン! どこへ行く気だ!?」

 班長の制止を無視して、俺はアクセルを全開にした。
 俺にはわかる。
 あそこで何が起きているのか。
 モニター越しに感じた、あの苦しみ。
 助けなきゃいけないという本能が、理屈よりも先に体を動かしていた。

 エアロックを抜け、灰の降る荒野へ飛び出す。
 視界の先、黒い汚染獣に囲まれた銀色の機体が見えた。
 銀狼は苦悶するように震えている。

 俺はバイクを機体の足元に滑り込ませると、緊急用の外部接続ポートへよじ登った。
 汚染された大気が防護服越しに肌を刺すが、構ってはいられない。
 工具を使ってハッチを強制開放する。

 プシューッという音と共にハッチが開き、中から濃密な熱気が溢れ出した。
 それは、暴走したアルファのフェロモンだった。

「うっ……!」

 強烈な重圧に膝が折れそうになる。
 普通のベータなら気絶しているレベルだ。
 だが、俺はオメガだ。この匂いに耐性がある。
 それどころか、体の奥が熱く疼くのを感じた。

 コクピットの中、クレイドは操縦席で頭を抱え、うわごとのように何かをつぶやいていた。

「……消えろ……俺の中に入ってくるな……」

 彼の目は焦点が合わず、瞳孔が開ききり、白目が赤く充血している。
 限界だ。今すぐに精神を安定させないと。

「しっかりしろ!」

 俺は彼の胸倉を掴み、叫んだ。
 だが、クレイドの腕が俺を振り払おうと伸びてくる。その力は強すぎて、俺の手首がきしみそうだ。

 言葉じゃ届かない。
 理屈じゃ止められない。
 なら、これしかない。

 俺は覚悟を決め、ポケットから抑制剤を取り出すと、それを放り投げた。
 もう隠している場合じゃない。
 俺は自分の首筋にある腺を、爪で強くひっかいた。
 痛みが走り、同時に甘く濃厚な香りが狭いコクピットに充満する。

 それは、花の香り。
 荒廃したこの世界で最も尊ばれる、オメガのフェロモン。

 クレイドの動きがピタリと止まった。
 彼はゆっくりと顔を上げ、俺を見る。
 その瞳孔が開いている。

「……オ、メガ……?」

 俺は震える手で彼の頬に触れ、額を押し付けた。
 直接肌を触れ合わせ、神経パルスを同調させる。
 本来なら番(つがい)になる相手とする行為だ。

「頼むから、戻ってこい。あんたが死んだら、みんな困るんだよ」

 俺の祈りは、フェロモンに乗って彼の脳内へ直接流れ込んだ。
 銀狼のシステムが、俺たちの生体波形を検知する。
 エラー音が消え、代わりに柔らかな光がモニターを埋め尽くした。

『生体共鳴(バイオ・レゾナンス)、確認。同調率、400%を超過』

 機械的な音声が響く中、俺は意識が遠のくのを感じた。
 最後に見たのは、正気を取り戻したクレイドが、信じられないものを見るような目で俺を見つめる姿だった。

あなたにおすすめの小説

冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。

水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。 国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。 彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。 世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。 しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。 孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。 これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。 帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。 偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)

かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。 ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。

偽りベータの宮廷薬師は、氷の宰相に匂いを嗅がれ溺愛される

水凪しおん
BL
「お前の匂いがないと、私は息ができない」 宮廷薬師のルチアーノは、オメガであることを隠し、自作の抑制薬でベータと偽って生きてきた。 しかしある日、冷徹無比と恐れられる「氷の宰相」アレクセイにその秘密がバレてしまう。 処刑を覚悟したルチアーノだったが、アレクセイが求めたのは、ルチアーノの身体から香る「匂い」だった!? 強すぎる能力ゆえに感覚過敏に苦しむ宰相と、彼の唯一の安らぎとなった薬師。 秘密の共有から始まる、契約と執着のオメガバース・ロマンス!

処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます

ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。 しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。 ——このままじゃ、王太子に処刑される。 前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。 中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。 囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。 ところが動くほど状況は悪化していく。 レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、 カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、 隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。 しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。 周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり—— 自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。 誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う—— ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。

βな俺は王太子に愛されてΩとなる

ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。 けれど彼は、Ωではなくβだった。 それを知るのは、ユリウスただ一人。 真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。 だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。 偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは―― 愛か、執着か。 ※性描写あり ※独自オメガバース設定あり ※ビッチングあり

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!