悪役令息の執事になった俺、お菓子作りで破滅回避してたら隣国の王太子に溺愛された件

水凪しおん

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第9話「王太子の覚悟と逆転劇」

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 エリアス様の断罪が正式に言い渡される、貴族議会の日が来た。
 公爵家は静まり返り、誰もが諦観の表情を浮かべている。僕もまた、祈ることしかできず、ただひたすらにアシュレイ王太子の言葉を信じていた。

 議会では、マルケス侯爵が勝ち誇ったようにエリアス様の罪状を読み上げていた。
 エリアス様はやつれた顔で、しかし毅然とした態度でそれに耐えている。
 誰もが、アルトマイヤー公爵家の没落を確信した、その時だった。

「――その罪状、待ったをかけさせてもらう」

 議会の重い扉が開き、凛とした声が響き渡った。
 そこに立っていたのは、近衛騎士を従えたアシュレイ王太子、その人だった。
 突然の隣国の王太子の登場に、議会は騒然となる。

「アシュレイ殿下、これは我が国の内政問題。いかに殿下とて、口出しは…」

 議長が慌てて制止しようとするが、アシュレイ王太子はそれを冷たい視線一つで黙らせた。

「エリアス公爵令息との交易は、我が国にとっても重要な案件だ。その当事者が不正を働いたというのなら、私も黙ってはいられない」

 彼はそう言うと、悠然と議会の中心へと歩みを進め、懐から分厚い書類の束を取り出した。

「ここに、今回の事件の本当の黒幕が、不正を働いていた決定的な証拠がある」

 アシュレイ王太子が突きつけたのは、彼が自身の情報網を駆使してこの数日間で集めさせた、マルケス侯爵の汚職の証拠だった。
 侯爵が長年にわたり、別の交易ルートで私腹を肥やしていた記録。そして、今回の横流し事件を捏造するために、侯爵が裏社会の人間とやり取りした手紙の写しまで。
 それは、誰の目にも明らかな完璧な証拠だった。

「なっ…!そ、それはどこから…!捏造だ!」

 マルケス侯爵の顔が、みるみるうちに青ざめていく。
 アシュレイ王太子は、そんな彼を氷のような瞳で見下ろした。

「捏造かどうかは、筆跡鑑定をすればすぐに分かることだ。…観念することだな、マルケス侯爵」

 形勢は、一瞬にして逆転した。
 見事なまでの逆転劇に、議会の誰もが言葉を失う。エリアス様に濡れ衣を着せようとした侯爵は、その場で衛兵に取り押さえられた。

 すべての騒ぎが収束し、エリアス様の無実が証明される。
 彼はその場で解放され、安堵の表情で僕の方を見た。僕も涙ながらにうなずき返した。
 よかった。本当に、よかった。エリアス様が、救われた。

 しかし、アシュレイ王太子は解放されたエリアス様には目もくれなかった。
 彼は、まっすぐに、議会の傍聴席で震えていた僕の元へと、ただまっすぐに歩み寄ってきた。
 そして、僕の目の前で立ち止まると、その大きな手で僕の涙をそっと拭った。

「約束しただろう」

 彼の低い声が、僕の耳にだけ届く。

「お前を悲しませるものは、私がすべて排除すると」

 その言葉は、誰にでもなく。
 濡れ衣が晴れたエリアス様でもなく、議会の貴族たちでもなく。
 この世界の誰でもない、シリルというただ一人の執事に向けられたものだった。

 その瞬間、僕は悟った。
 彼が守りたかったのは、公爵家の名誉だけではない。僕がこれ以上悲しむ顔をしなくて済むように、僕が大切にしているものを、彼もまた命がけで守ってくれたのだと。
 溢れ出る涙を止めることができなかった。それはもう、絶望の涙ではなかった。
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